北大路機関

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【榛名備防録】ボフォース40mm,大口径機関砲国産化出来なかった大戦中の日本興業技術力

2021-11-06 14:18:55 | 防衛・安全保障
■艦艇防空能力の一視点
 第二次大戦中の著作権法上と北大路機関内規上使える写真が手元にない為に自衛隊写真と共に。

 日本海軍の艦艇が航空攻撃に脆弱性をもっていた、戦艦大和など海軍艦艇は世界最強、と誤解されている方がいるようですが、現実的には日本海軍は駆逐艦が水雷戦闘において秀でた性能を有していたものの当時、水測装備の未発達により対潜戦闘が不得手でしたし、潜水艦は性能は高くとも量産性が非常に悪いものとなっていました。さてこの中でも一つ。

 機関砲、いまでこそ日本の製鉄技術は世界一の技術力を維持できていますが、第二次世界大戦時代はもちろん、戦間期の時代には装甲板となる鋼板の一部を輸入するなど、まだまだ八幡製鉄所をはじめとする技術に後れをとっていました、製鉄以外にも、アルミニウム製錬技術が定着するまでにも時間を要していまして、ここに兵器製造上の問題が生じる。

 ボフォース40mm機関砲、スウェーデンのボフォース社が開発した機関砲ですが、日本海軍には九六式25mm機銃と10cm高角砲といった防空火器が艦載兵器として開発されていますが、航空機の武装にロケット弾などがくわわりますと、25mm機関砲では発射前に命中させるには射程が短く、高角砲は連射性能が限られ、航空機を有効に迎撃ができません。

 アメリカ海軍では12.7mm艦砲と40mm機関砲、そしてエリコン20mm機関砲と三段階の防空を第二次世界大戦中の基本的防空能力としていました、日本もボフォース40mm機関砲を太平洋戦争緒戦にインドシナやマレーで鹵獲していますが、この国産化は日本の技術限界を越えており、ようやく実現した五式機関砲が制式化された際には末期でした。

 ヴィッカース40mm機関砲を毘式機関砲として国産化していましたが、連射速度も初速も遅く信頼性が低く射程は1600mしかありませんでした、そこでホチキス社からライセンスを取得し九六式25mm機銃を導入、その射程は2500mあり、これが日本の標準対空機銃となっています。ただボフォース40mmならば射程は6800m、まさに段違いだったという。

 駆逐艦の艦砲になりますと状況は深刻です。戦艦や重巡洋艦には八九式12.7cm連装高角砲が搭載、装填時に時限信管半自動調定装置を有するなど優れた性能を有していましたが、駆逐艦の艦砲は12.7cm連装砲ではありましたが、高角砲ではなく、いちおう角度は時代とともに高角を狙えるよう改良されますが、対空照準器はなく高角砲ではありませんでした。

 日本海軍では実は1932年に両用砲という高角砲としての性能を有する艦砲を駆逐艦に搭載し巡洋艦以上の12.7cm艦砲と駆逐艦の艦砲をともに統合する案が検討されています、これが実現していたならば太平洋戦争における日本海軍駆逐艦は米軍機の攻撃にかなり有効に反撃できた可能性はあります、実現すれば25mm機銃数基だけより遙かに強力なのは確か。

 しかし、いったんは統合で決定するのですが、日本海軍の艦艇設計を担う平賀譲造船中将の頑強な反対に見舞われ白紙撤回しています。平賀中将は5500t級軽巡洋艦の武装を3500t軽巡洋艦に搭載しつつ復元性や航行能力を向上させ世界を驚かせた夕張、ロンドン条約の遠因となった世界初の重巡洋艦古鷹、重巡妙高型の設計などで知られる造船の巨人です。

 駆逐艦のさらなる大型化による能力低下を危惧したためともいわれますが、戦艦は冶金技術の稚拙さから大口径機関砲国産化に手間取ったため、駆逐艦は両用砲開発の機会を逸したため、という理由から、対空戦闘能力に限界を抱えていたことは事実です。またこれに加えて、艦艇対空戦闘のシステム化、という概念でもアメリカに後れをとっていました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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