◆接続水域を潜航、今月初旬に奄美大島沖でも確認
防衛省によれば、沖縄本島近くの久米島沖の接続水域へ国籍不明潜水艦が先行したまま侵入し、警戒を強めているとのことです。
海上自衛隊は12日深夜に、沖縄県沖縄本島近くの久米島近海の領海接続水域を先行したまま航行する国籍不明潜水艦を発見、P-3C哨戒機により警戒を続けました。国籍不明潜水艦は哨戒機の追跡を受け、久米島南方海域、13日朝までに接続水域を出て公海上へ移動したとのこと。
国籍不明潜水艦は5月2日にも鹿児島県奄美大島沖の接続水域へ潜航したまま領海接続水域へ侵入し、哨戒機の追跡を受け退去しています。防衛省では、二週間の間に二度の接続水域侵入事案を受け、事実関係の発表に踏み切ったとしており、異常事態であることを端的に示しています。
小野寺防衛大臣は、今回の接続水域侵入は、続いて領海内へ侵入へ展開した場合、海上警備行動命令発令を行うと共に防衛省として採る必要な措置について、所要の準備を進めていたと記者会見で発言しており、安倍総理への報告を行った上で不測の事態へ備えていた旨を同席上で述べています。航法ミスにより誤って接続水域への侵入の可能性ですが、短時間ではない一定時間を接続水域内を航行していたことから、この可能性はほぼありません。
この海域の近くでは2004年11月10日に中国海軍の漢級原子力潜水艦が石垣島の我が国領海へ領海侵犯事案を起こしており、これを以て政府は海上自衛隊へ創設以来二度目となる海上警備命令を発令、航空機および護衛艦により追尾行動をとっています。
この2004年の事例では11月10日の海上警備行動命令から12日まで追尾が継続され、追尾開始と共に中国を含む周辺国に対し当該潜水艦の所属を問い合わせたところ、どこからも自国艦との返答は無く、国籍不明潜水艦として追尾が続けられましたが、海上警備行動命令解除後の16日に当該潜水艦は中国の青島基地へ入港、同16日に中国外務次官は国籍不明潜水艦が中国海軍艦であることをようやく認め、遺憾の意を表明しました。
潜水艦が我が方の追尾を探知していたのか、についてですが、今回出動したのは那覇航空基地か鹿屋航空基地より展開したP-3C哨戒機であり、同機は潜水艦探知にソノブイ、洋上へ投下させ音波を発してその反響情報を航空機へ伝送することで海中の潜水艦を探知する手法か、ソノブイによる音響情報の収集を行い捜索する手法、潜望鏡深度であれば捜索レーダーによる捜索を実施します。
ここで音波を発するアクティヴソノブイを使用した場合、その探知音により潜水艦に捜索行動の実施が暴露されるのですが、音波を発しず情報を収集するパッシヴソノブイでは我が方の対潜捜索行動が暴露することはありません。2004年の海上警備行動でも領海接近間近まではパッシヴソノブイを用いていたと発表されていますので、接続水域への侵入後、海上警備行動命令などが発せられるまでは我が方の追尾を暴露しないよう警戒していた可能性は2004年の事例から考えられます。
ただ、潜水艦が潜望鏡を露呈した場合には対水上レーダーを哨戒機は搭載しているため、これによる捜索が行われ、電波の照射を感知することはあったかもしれません。もっとも、接続水域に侵入する潜水艦がこうした行動をとることは、通常考えにくいのですけれども。
接続水域とは国連海洋法条約に定められたもので、領海12浬と公開を接続する海域の24浬に背呈されるもので、元々は国際慣習法時代に領海線外からの艦艇による陸上への火力投射手段が整備されるとともに、これらの行動を防止するための必要な措置を採る領海に準じた措置を採ることができるもの。
ただ、接続水域は領海ではなくその接続する水域であることから必要な措置を採ることは出来ますが、必要な措置とは警戒態勢や追尾などに限られており、攻撃を受けるなどの例外を除いて、爆雷やそれに準じる対潜爆弾を用いての攻撃や魚雷による撃沈を行うことはできません。
国連海洋法条約は中国も批准しており、この中で接続水域について24浬を基本とする一方で、一部の国では異なる主張を行っていることがあるのですが、我が国は24浬という基本的な立場を取っており、中華人民共和国も24浬という立場をとっています。
しかし、この接続水域では艦艇は無害通航権を有するものの国籍を明示する必要があり、これが不可能となる潜水艦などの潜航しての接続水域侵入は認められていません。他方、2004年の海上警備行動命令以降、潜水艦へはソナーなどの潜水艦捜索手段を有さない海上保安庁ではなく、防衛省海上自衛隊が主管すると転換されており、今回はその方針が効果を発揮したといえるでしょう。
他方、今回、潜水艦の探知情報を発表したことで、我が国の潜水艦探知能力の水準を知られるのではないか、という危惧が一部にあるかもしれません。ただ、これは幾つかの理由が考えられ、一つは推測ですが前述のパッシヴ方式で暴露しない範疇での追尾を行い、追尾できるという技術的誇示を行う抑止の方法。もう一つは先行したまま接続水域への侵入は非常に稀有な事例であり、外交的に解決するべく公としたもの。考えられるのはこの二通り。
様々な理由は考えられるのですが、2004年の海上警備行動以後、中国潜水艦による日本近海での潜航しての航行は激減しており、接近する場合でも浮上航行していました。これがあからさまな国連海洋法条約に反する先行しての接続水域侵入を行い、今回の二週間で二件という事態へ転化したことは、繰り返す事ですが異常事態に他ならず、警戒が必要といえるでしょう。
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