◆国際法の視点から今回の事案をみる
先日生起した国籍不明潜水艦による我が国領海接続水域への潜航侵入について、国際法の観点から説明しましょう。基本はコメント欄に当方が記載したものの延長ですが。
まず、領海内への先行しての潜水艦の侵入は国連海洋法条約に反し、場合によっては主権行使の一環として強制措置を採ることも出来る、という反面、接続水域では潜航して潜水艦が侵入した場合でも問題は無いのではないか、という視点があるようです。即ち、領海ではないので問題は無いのではないか、という視点がるということ。
国連海洋法条約第33条1項では、接続水域について明示されています。ここで、接続水域は領海ではない、と明示されているのですが、併せて公海でもなく、領海としての性格と公海としての性格を有しているのが接続水域である、とされています。接続水域=公海、という構図が成り立つならば、そもそも領海と公海に分ければいいのであり、接続水域という概念が盛り込まれている点からも、これは公海でも領海でもない、という事が分かるでしょう。
接続水域は上記の通り領海ではありませんので、領海での沿岸国に認められている主権行使を行うことはできないのですが、領海へ影響が及ぶ脅威や危険に対し、必要な予防措置を執ることは認められています。即ち、接続水域に入ったことを理由として攻撃を行うことはできません、しかし、威嚇射撃などは予防措置にあたるため沿岸国に認められる。
公海条約第23条1項を読みますと、沿岸国は領海だけではなく接続水域においても発生した不法行為に対し、継続追跡権を有すると示されています。継続追跡権は、接続水域の外側に設定されている排他的経済水域においても域内で生起した不法行為に対し行うことが認められているのですが、これは言いかえれば、接続水域において生じた不法行為にたいし、沿岸国が管轄権を有することが認められているということを改めて確認できるところ。
それならば、国籍不明潜水艦の潜航が問題視される理由をみてみましょう。外国の領域であっても、艦艇は無害通航権を有しています。つまり、有害通行でなければ航行することはできるわけです。しかし、潜航して航行してはならない、浮上航行し、国籍を明示しなければならない、これ以外は有害通航にあたる、この背景を見てみます。
領海条約第14条1項及び国連海洋法条約第17条、領海条約の欠缺を担うのが国連海洋法条約にあたるのですが、ここには無害通航権を有する船舶について明示されていますが、潜航しての潜水艦はここに含まれていません。また、無害通航権を行使する場合でも沿岸国が経路や航行目的を誰何することが出来、事故などでの緊急避難を除き停船などは認められていません。
潜航しての潜水艦が無害通航権を有さないのは、第一に国籍不明潜水艦となるため脱走艦や私掠船か正規の軍艦かが判別できず軍艦としての商船以上の権限を行使することが隠されること、第二に潜航した場合国籍不明となるため沿岸国へ漁具破損や衝突事案や汚染物質漏洩被害が生じた際に損害賠償を行えないこと、第三に潜航している場合は誰何や軍艦でなかった場合に臨検を行えないこと、第四に工作員揚陸や機雷敷設など沿岸国に脅威を及ぼす可能性があること。
そして、現時点で我が国が実施した行動について、批難される点は皆無です、何故ならば、今回の事案は国籍不明潜水艦によるものだからです。国籍が明示されている場合は所属国が立場を示します。正確には外交ルートを通じて我が国周辺に潜水艦を展開させる可能性がある各国に対し、事実関係を照会する。すると、所属国が名乗り出た場合には、潜航し接続水域へ侵入したことを我が国が抗議し、その対応から物事は始まりますが、まだこの位置にもついていません。
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