北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:P-3C哨戒機100機体制の意味 P-3C哨戒機100億/はつゆき型護衛艦117億

2013-12-21 22:59:56 | 防衛・安全保障

◆P-3C100機を揃えた海上自衛隊の覚悟と決意
 西太平洋上において昨今、緊張状態が醸成されつつありますが、冷戦時代の努力があり、万一の際の優勢は確保できるでしょう。海上自衛隊は100億円もの取得費用を要するP-3C哨戒機100機を導入し、洋上哨戒態勢を高めました。
Mimg_7022 P-3Cよくよく考えると高い、凄く高い、というものが本日のお題です。中国海軍が優位に立ったのではないか、という危惧の声を識者や報道関係の方から側聞しますが、駆逐艦の数は多くとも対潜哨戒機の機数が皆無に近いためその脅威度を見誤っています。しかし、この対潜哨戒能力を有する哨戒機の取得に自衛隊がどれだけ覚悟を以て整備しているかを知識として踏まえて、日中の海軍力を比較しますと、みえ方も違ってくるやもしれません。一機で四国と同面積の海域の潜水艦を警戒できる、とはよく言われる表現ですが、これは等間隔で八本のソノブイを海面に投下し、P-3Cの処理能力で同時監視できる海域の広さが四国島と同程度、という意味であり、実のところ一機のP-3C哨戒機が監視できる海域はもう少し広い、といわれます。ここで、100億円という取得費用が、語呂が良いためか、どれほど高い覚悟で海上自衛隊がこの航空機の取得に挑んだのか、中々実感が涌かなかったところ。
Bimg_2940 洋上の制海権確保に際し、洋上の護衛艦と航空部隊の連携はその成否を確実に左右します。P-3C哨戒機は、対水上レーダ装置や潜水艦が動くことで生じる地磁気の異常を感知する磁気探知装置所謂MADに加え、ソナーを内蔵したブイ所謂ソノブイを海上に散布し、ソノブイからの情報を上空でリアルタイムにて取集しつつ、潜水艦御移動兆候を機内のコンピュータにより解析、併せてデータ通信により洋上の護衛艦や哨戒機、哨戒ヘリコプターと連携し、僅かな兆候を集積することで潜水艦を探知する当時世界最高の哨戒機です。当時と記したのは現時点で川崎重工のP-1哨戒機と米海軍P-8A哨戒機が後継機に開発されたためで、今なお圧倒的な性能に陰りはありません。実際のところ、このP-3Cは中古機の取得を現段階で進めている海軍も少なからずあり、現在取得したとしても米海軍の近代化プログラムに沿て整備すれば第一線級の性能は維持できる訳です。
Himg_0621 2900t型護衛艦一隻117億円(昭和52年度)。P-3C哨戒機は高かった、という表現はこの一つの比較を見ると分かるやもしれません。実は、この護衛艦と比較した価格を見て驚いた、と言いますか、それとも1970年代は護衛艦が低い費用で導入できた、というべきなのかもしれませんが。2900t型護衛艦とは、はつゆき型護衛艦のことですが、満載排水量4000tの水上戦闘艦が117億円だった、ということを先日知りまして、P-3C哨戒機導入開始が1980年、はつゆき型護衛艦の就役開始が1982年ですから、ほぼ同時期であることが見て取れるのですが、P-3C哨戒機100機の取得は、結局大型水上戦闘艦に換算すれば、80~90隻分に匹敵する費用を投じて航空哨戒能力を整備したことになります。
Img_1145 はつゆき型護衛艦、海上自衛隊が護衛艦隊の近代化に向け12隻を大量導入し、拡大改良型である護衛艦あさぎり型とともに20隻の主力汎用護衛艦としての地位を築いたものですが、ガスタービン推進方式を採用、データリンクシステムを採用、対空・対潜・対水上各種誘導弾を搭載、対艦ミサイル防御能力付与、大型対潜ヘリコプターを搭載、という1980年代、世界第一線級の汎用フリゲイトに達したものでした。今日では、満載排水量4000tという手ごろな大きさで今なお現役艦が警戒任務に活躍中という護衛艦で、欧米の最新鋭艦と比べれば多機能レーダやデータリンク能力、ステルス性の面でやはり設計と就役から30年という時代の流れを覆う事は出来ませんが、北東アジア地域においてはかなりの性能を今なお保持している、と言えます。
Deimg_6679_1 1200t型護衛艦一隻65億円(昭和52年度)。1200t型護衛艦とは、海上自衛隊の護衛艦として最初に対艦ミサイルを搭載した護衛艦いしかり、を示すものです。実は、いしかり建造費は101億円と記憶していたのですが、どうもこれは記憶違いだったようです。実はこの護衛艦いしかり、がP-3C一機分に匹敵する、と考えていましたのでP-3C哨戒機100機は護衛艦いしかり100隻分の費用、と思い調べますとそうではなく、P-3C哨戒機100機は、いしかり型護衛艦150隻分に匹敵する規模、というものでした。もっとも、P-3Cの導入当時の計画は現在の為替相場との相違があり、あのF-15戦闘機も導入を検討していた時点では邦貨換算で一機あたり150億円、と言われていた時代があったので、そう簡単に単純比較はできないのですけれども、ね。
Deimg_6255 いしかり、は海上自衛隊の護衛艦としては非常に小型で満載排水量も1400t、二番艦は50t大型化したほど、小型のもので、沿岸防備用の駆潜艇を交代させる目的で建造され、これが対艦ミサイルを搭載したことにより大型化、護衛艦となりました。76mm単装砲に加え、ソナーとボフォース対潜ロケットに短魚雷三連装発射管を搭載し対潜戦闘能力を有するほか、ハープーン艦対艦ミサイルを搭載し水上打撃力が大きいほか、レーダーは簡素化され対水上レーダに低空監視を一部委ね主砲用射撃指揮装置が対空レーダ機能を担うという、小型ではありますが護衛艦としての能力を充分保持している一隻です。既に三隻とも除籍されており、今日的にはやはり水上打撃力へ機能を絞り過ぎた故の護衛艦としての無理を感じずにはいられないわけですが、それにしても本型が当方の曖昧な記憶ではP-3Cと同程度の取得費用と記憶していましたので、これには驚きました次第です。
Iimg_7516 2200t型潜水艦143億円(昭和52年度)。2200t型潜水艦というと、ゆうしお型潜水艦で、数排水量2900t、通常動力潜水艦としては世界でも大型の潜水艦です、はるしお型やそれ以降の海上自衛隊潜水艦も航続距離を重視し大型化してゆくのですが。水中高速性能を重視した涙滴型船体構造を採用し、ディーゼルエレクトリック方式、つまりスノーケルを出せる状況下ではディーゼル機関を動かし、潜航中はバッテリーにより推進する方式を採用、静粛性を重視した潜水艦ですが、護衛艦よりも高かったのか、P-3C哨戒機よりも高価ではありますが、参考までに同時期の費用を提示しますとこんなところ。
Img_1884 100、という語呂に拘るならば、P-3C哨戒機100機、というのは、はつゆき型護衛艦50隻、いしかり型護衛艦50隻、併せて護衛艦100隻分に匹敵する巨大航空機調達計画であったことになります。これは、海上自衛隊が大型護衛艦に匹敵し小型護衛艦を凌駕する一機当たりの費用を要するほどの高性能航空機を多数そろえてでも、洋上哨戒能力の強化に取り掛からねばならない、という一種の使命感を感じ取られずにはいられません。重ねて、世界各国では日本が100機のP-3Cを導入、開発国であるアメリカは200機以上を導入していますが、その水準に追随する海軍が出てこない背景には、それだけ数を揃える厳しさ、水上戦闘艦や潜水艦という一種花形装備の予算に食い込む事への躊躇がある、といえるやもしれません。
Biimg_5264 冷戦時代、我が国は西太平洋における海上通商路を防衛するべく、特に第二次世界大戦における潜水艦によるシーレーン途絶の反省から、対潜哨戒機の導入を重視してきました。海上自衛隊は草創期より米海軍の厚意もあり当時世界最先端の対潜哨戒機であったP-2Vネプチューン対潜哨戒機の無償供与を受けることが出来、経済成長とともに有償供与を受け、海上航空部隊を強化、更にエンジンや対潜器材を一新した川崎重工P-2J対潜哨戒機を開発、続いて1980年よりP-3Cオライオン対潜哨戒機の導入を開始しました。
Eimg_0500 P-3C対潜哨戒機は、非常に高性能である半面その性能に見合った取得費用と運用費用に維持費用が付くため、生半可な覚悟で導入する事は出来ませんが、日本以外に導入している国でも二桁数を導入した海軍は稀で、三桁のP-3C哨戒機を導入したのは日本とアメリカのみ、それだけでなくとも、他の機種、Tu-95派生型やIl-38,ニムロッドやアトランティックといった他の対潜哨戒能力を有する哨戒機を含めても二桁数を導入した国は非常に稀です。そこに日本は100機を導入した、西太平洋の海上通商路保護に向けた決心が見えてくるようです。哨戒機など戦闘機が出てくれば対応できない、という指摘はあるやもしれませんが、言い換えればその状況は戦闘機の行動圏内でしか潜水艦が行動不能となっていることを示しますので、ここまで追い込むことが出来ればシーレーン防衛などの洋上防衛任務はほぼ完了したこととなります。
Img_8255p さて、今日、西太平洋における安定秩序への軍事力での挑戦を試みる新興外洋海軍がその勢力を強めつつある状況が報じられているところですが、やはりまだ格好だけのものという印象があります、何故ならばその新興外洋海軍国は現在、初の対潜哨戒機を漸く試作している最中だからです。より正確には多目的飛行艇に限定的な対潜装備を施したものを7機導入、現在も3機程度が稼働状態にあるとされていますが、この規模では水上戦闘艦の量産規模と比較し、航空哨戒能力の重要性を認識しているとは思えません。
Aimg_0634 見栄えから、というだけの視点ならば、たとえば我が国もP-3C哨戒機を導入しなければ大型小型摂りあわせて100隻の護衛艦が導入できたわけですが、艦艇には航空機のような進出速力や集合分散の迅速化は出来ません、しかし、見栄えだけならば艦艇だけを揃えたほうが、海上自衛隊で言えば護衛艦の数が単純計算で現状の三倍になるわけですので、基地も艦艇で満員となり、何と言いますか“カッコイイ”、でしょう。しかし海上自衛隊は洋上航空哨戒能力の整備という見栄ではなく実能力を採りました。
Mimg_6043 もちろん、水上戦闘艦と艦載ヘリコプターだけでも洋上哨戒は可能ですが、哨戒機の有無はそのまま有事の際にその水上戦闘艦が潜水艦により先制攻撃される可能性がありますし、哨戒機が飛行しているか否かで、潜望鏡を挙げられるか、通信赤農家、移動は出来るのか、遠距離からのミサイル攻撃が可能なのか、など潜水艦の行動制約は大きく変わってきますので、海上防衛装備体系に哨戒機があるのかは大きな差が出てきますし、行動半径は数千km単位で大きな洋上哨戒機の存在は、例えば水上戦闘艦部隊の索敵能力にも大きな差異が生じてきます。
Img_7672 即ちこれは勝つか負けるかという議論での脅威論ではなく、武力紛争を回避したいという立場からの脅威論として語るべき、こういう点に尽きると思います。昨今、その新興海軍国の太平洋への進出が脅威論として語られており、勿論当方も、何を考えているかわからないだけに一応脅威、どちらかといえば驚異という視線を向けているのですが、何をやらかすかわからないだけであり、実能力では一応の差がある、ということは共通知識として有しておくべきかもしれません。ただ、この命題は当方とその共有知を持つ皆様ではなく、むしろ先方に認識してほしい物であり、洋上航空部隊に割く予算を水上戦闘艦が全部持って行ってしまい見栄に拘った結果、自陣営が優勢と勘違いし、軍事行動に出てくるような残念な判断はしてほしくないものですね。

北大路機関:はるな

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平成二十五年度十二月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2013.12.21・22・23)

2013-12-20 23:54:38 | 北大路機関 広報

◆自衛隊関連行事

 白息吹、装い整い冬支度。寒くとも雪ならば感じない寒さも雨天だと沁みて体感温度が下がる今日この頃、如何お過ごしでしょうか。

Bimg_0162 今週末は三連休ですが、自衛隊関連行事は行われず、僅かに音楽演奏会がある程度、しかし、海上自衛隊の基地一般公開が行われます。呉基地は22日のみ一般公開、年末年始の公開は行われません。佐世保基地の一般公開は21日から来年の5日まで、一般公開は行われませんのでご注意ください。

88img_3442 舞鶴基地は21日が午後のみ見学可能で、22日と23日が北吸桟橋の一般公開が行われます。ただ、悪天候時は一般公開の一部もしくは全部が中止となることがあり、特に転倒事故の危険がある降雪時は一般公開が見合わせとなる可能性がありますので、基地広報へのご確認をお勧めします。

◆駐屯地祭・基地祭・航空祭

  • 自衛隊関連行事はなし

注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関

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新防衛大綱(25大綱)・中期防衛力整備計画閣議決定、航空防衛力整備の基本点を総括する

2013-12-19 23:54:10 | 国際・政治

◆新型機・平時警戒増大、難題に挑む航空自衛隊

 25大綱では、航空自衛隊は平時と有事における境界線というべきグレーゾーン事態への対応を重視し、既存の有事への情勢対処能力を整備してゆくこととなります。

Adimg_1950 航空自衛隊は特に平時の警戒管制能力について、平時における多方面からの同時対領空侵犯措置任務に対応するべく、長期間の警戒監視管制能力強化を図る方針が明示されています。即ち、平時における警戒監視の継続的実施へ大きな課題であった数的充実へ着手される、というかたち。

Img_8934 警戒監視能力ですは、まず現在警戒群と警戒隊に区分されているレーダーサイト、防空監視所の態勢が全て警戒隊へ統一されます。他方、警戒航空隊は一個航空隊を維持しつつ三個飛行隊を基幹とする編成となり、早期警戒機部隊の運用体制が見直されることとなるもよう。

Nimg_8199_1 戦闘機部隊は一個飛行隊が増勢され、現在の12個飛行隊より13個飛行隊へ拡充されます。その反面、航空偵察部隊の専従部隊が廃止されるとのことですが、これは旧式化するRF-4偵察機の老朽化に伴う後継機RF-15開発の技術的中断が背景にあり、今後航空偵察は無人機と既存機への偵察ポッド搭載により実施されるようになるのかもしれません。

Yimg_8901 戦闘機整備は中期防衛力整備計画の五年間でF-35A戦闘機が28機改修されるとともにF-15Jの近代化改修も26機が実施されます。既にF-15の近代化改修は金d内化改修対応可能な機体についてかなり進んでいますので、これを継続している、というものなのでしょう。

Bimg_1502 空中給油輸送機を運用する飛行隊の増設も今回明示されており、現在の1個飛行隊から2個飛行隊へ増勢、これは戦闘空中哨戒など既存戦闘機部隊の空中給油の実施による長時間の警戒飛行を実施できる体制構築に向けての実施、と考えられるでしょう。

Img_8109 作戦航空機は従来の340機から360機へ、戦闘機定数は260機から280機へ、僅か20機ではあるものの、旧式戦闘機の代替を踏まえればかなりの負担となる航空部隊整備が行われます。他方、航空輸送部隊は3個飛行隊のまま、地対空誘導弾部隊は6個群の維持のまま、変更はありません。

Himg_31850 新型航空機ですが、空中早期警戒機の代替が開始されます。航空自衛隊は大型のE-767早期警戒管制機と、旧式化しているE-2C早期警戒機を、それぞれ4機と13機を運用していますが、このうちE-2Cについては早期警戒機ではなく早期警戒管制機へ代替される方針が示されました。

Img_7243 新中期防衛力整備計画で4機が導入される新型機は早期警戒機ではなく新早期警戒管制機とされていますので、早期警戒機であるE-2CはE-2Dへ、という近代化ではない模様で、しかしE-767のAPY-2レーダ装置が生産終了していますので、E-737AEWの改良型か米空軍E-3後継機と歩調を合わせるのか、関心事と言えるところ。

Img_3631 しかし、E-2C後継機は、現在一個飛行隊を構成している機体を二個飛行隊に分化する以上、最低でも8機程度を取得する必要があり、更に警戒飛行時間と情報処理能力が大きい早期警戒管制機が導入される方針ですので、その取得費用は大きくなることでしょう。航空自衛隊はE-767について、かなりの費用を継続的に投じてその能力強化に充てていますので、新型機がどう運用されるのか、これも関心事といえるもの。

Adimg_9824 空中給油輸送機は新型機が導入されます、恐らくボーイング767系統の新型機、米空軍の新空中給油輸送機と同等のものとするのでしょう。これは二個飛行隊が整備される方針ですが、中期防衛力整備計画において3機が導入される方針となっています。

Img_7046 小牧基地で集中運用されるのか、もしくは空中給油機の任務が最も大きい那覇基地へ前進配備するのかもしれません。このほか、航空救難団へ、ヘリコプターへの空中給油能力を有するKC-130の配備が継続されるのかは、第一線航空救難能力の整備への面から、やはり興味がわいてきます。

Img_1025 輸送機についてはC-1輸送機の後継機として新輸送機C-2の10機が中期防衛力整備計画において盛り込まれており、これは毎年2機程度の調達が見込まれていることとなります。C-1輸送機は初飛行から40年以上が経過しているため、新型機の導入は重要な課題です。

Img_4807 南西諸島への緊急展開任務には、特に戦闘機部隊の支援器材の空輸等で必要ではありますが同時に李雨情自衛隊の統合輸送任務においても必要な装備であるため、早い話が有事の際にどれだけ輸送機があっても空輸能力は充分ではありません。これが今後の展開としてどの程度取得されるのか、他の装備との均衡も関心事といえます。

Bimg_1402 このほか、滞空型無人機が陸海空協同運用として導入が開始され、中期防衛力整備計画において3機の取得が実施されます。全般的に無人機の部隊導入が大きく、その上で課題となっていた早期警戒機後継機、戦闘機不足、給油能力の強化、という指針が今回の中期防衛力整備計画において進められるようです。

北大路機関:はるな

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新防衛大綱(25大綱)・中期防衛力整備計画閣議決定、海上防衛力整備の新方針を概括する

2013-12-18 23:52:44 | 国際・政治

◆イージス艦2隻増備を中心として

 本日は前回について25大綱と注意防衛力整備計画について海上自衛隊の部分を見てゆくこととしましょう。

Bimg_4892 海上自衛隊は今回の新防衛大綱に際し、平時においては常続的監視能力を以て周辺地域における防衛警備を担い、有事における海上航空優勢確保及び弾道弾攻撃への対処という従来の防衛力の延長において改編を行う方式が示され、数的増勢が重視される模様です。

Bimg_1326 数的増勢は、現在進められている潜水艦の16隻体制から22隻体制への転換が継続され、同時に護衛艦定数も現状の48隻定数から54隻体制へ、6隻の増勢となります。決して大きな増勢ではありませんが、新防衛大綱は十年単位での防衛政策を示しているとされ、今後十年でこれだけの勢力、という数値目標が明示されたことは評価されるべきでしょう。

Img_84451 中期防衛力整備計画において特に提示されているのは洋上広域防空能力を有し、弾道弾迎撃任務においての最重要迎撃装備となるイージス艦二隻の増勢で、現在のミサイル護衛艦こんごう型4隻、あたご型2隻に加え新型イージス艦2隻を整備し、旧式化したターターシステム艦であるミサイル護衛艦はたかぜ、しまかぜ、を置き換える方針を示しました。

88img_2753 中期防衛力整備計画では更に、ヘリコプター搭載護衛艦くらま、の後継としてヘリコプター搭載護衛艦いずも型二番艦を建造、1973年はつのヘリコプター搭載護衛艦はるな、より始まった4隻の従来型ヘリコプター搭載護衛艦を4隻を全て全通飛行甲板を備えた新型に置き換える事となります。

Mimg_5979 一方、実質的な今回の防衛大綱改訂の目玉は護衛艦定数が現在の防衛大綱に明示された48隻から54隻に、一応1995年の水準であった約50隻の水準へ回帰したことが挙げられるでしょう。当初10隻程度の増勢が提示されていましたが、旧式艦の置き換えと増勢を同時に行うための現実的数値、という事なのでしょう。

Mimg_6956_1 新しい護衛艦は、従来の護衛艦よりも小型化し、拘束力と沿岸での運用能力を高めたものを装備するとしており、アメリカ海軍の沿海域戦闘艦と似た艦船の整備を想定していると考えられています。他方、沿海域戦闘艦は高速性能を重視する為燃費に問題があり、満載排水量で3000t程度と大型ですが、基本武装が限られており換装により任務に対応します。

Bimg_3091 このため海上自衛隊が装備する新しい艦艇というものは、換装用武装等の調達を慎重に行わなければコストが増大する可能性があり、更に高速度を発揮する機関出力や技術の関係上、建造費は6000t級護衛艦と同程度のものとなっており、日本はどのように開発するのか、技術研究本部の研究成果を待ちたいところ。

Iimg_6660_1 ただし、忘れてはならないのは、小型の沿海域戦闘艦としての護衛艦が護衛艦定数54隻のうち32隻の大型護衛艦のほか、22隻整備されることとなります。イージス艦2隻とヘリコプター搭載護衛艦1隻の建造は明示されていますが、このほかの艦艇整備はどうなるのでしょうか。

Img_0569 除籍時期の関係上、はつゆき型護衛艦、あさぎり型護衛艦の後継艦は、護衛隊群所要20隻を見ますと、むらさめ型9隻、たかなみ型5隻、あきづき型4隻がありますので、新型の25DDの2隻建造、それ以外の既存型護衛艦建造は一旦停止し、小型護衛艦として沿海域戦闘艦の整備に一本化する、という事なのかもしれません。

Mimg_7237 潜水艦増勢について、民主党政権時代の防衛大綱改訂に際して、従来の潜水艦16隻体制を、潜水艦運用年数を練習潜水艦を含め18年程度と非常に短期間で置き換えていた部分について、建造数を維持しつつ24年程度での交代を見込む方針へ転換し、22隻体制へ強化することが盛り込まれていました。

Biimg_8143 しかし、これが現時点で実施されていない背景には、最新型潜水艦そうりゅう型、前の潜水艦おやしお型に対し、それ以前の潜水艦はるしお型が経年劣化による潜水性能への戦術的影響が未知数であるとされたため、おやしお型潜水艦以降を24年間運用とした経緯があります。

Img_14100 従って、16隻体制から22隻態勢への増勢は、はるしお型潜水艦の除籍を以て本格化する事となりますので、これは新中期防衛力整備計画より、潜水艦の除籍が延命により中断し、新造潜水艦と共に潜水艦勢力が22隻体制に向けて強化されることとなるのでしょう。

Img_1361 基幹部隊は潜水隊数が現在の5個潜水隊体制から6個潜水隊へ、護衛隊については4個護衛隊群8個護衛隊体制はそのままですが、その他部隊は5個護衛隊から6個護衛隊へ増勢される方針が示されました。護衛艦6隻増勢が1個護衛隊増勢、潜水艦6隻増勢も1個潜水隊増勢、とは少々不思議ですが定数との関係と考えられます。

Aimg_6818 航空集団の作戦機数については、現状の通り170機体制が維持される方針で、反面、従来のP-3C哨戒機を新型のP-1哨戒機へ、従来のSH-60J哨戒ヘリコプターをSH-60K哨戒ヘリコプターへ、それぞれ近代化する際、質的近代化と共に量的縮小を行う方針、当初はこうした方針でした。

Img_9566_1p 質的向上とは高性能となった部分を機数の縮小により律的に量的縮小を補うことが出来た、という構図が成り立っていたのですが、これが転換、80機を60機へ、というように実施する方針が示されていたのですけれども、170機体制が維持されるため数的優勢を、というようになったもよう。

Biimg_1224 この点について、防衛省の中期防衛力整備計画には、既存航空機の延命改修を行い勢力を維持するとの方針が出されていますので、調達数が予算不足により十分な代替機を確保できないという状況にあっても、延命により除籍数を抑え、就役数の部分だけを純増させることが出来る公算とかんがえます。

Mimg_6969_1 機数の維持は実任務である哨戒飛行の頻度増大を示すものでして、これは他の装備強化と併せ、周辺情勢の緊迫化という防衛力強化の背景が如実に表れている、という事なのでしょう。他方、航空機延命改修は近年海上自衛隊で広く行われていますが、陸上自衛隊の他のヘリコプターに対しても実施する必要性はあるかもしれませんね。

Img_8845 輸送艦については、中期防衛力整備計画において既存の輸送艦おおすみ型3隻の改修が計画されています。改修は想定されるものとして搭載揚陸艇増勢や管制能力に航空機運用能力強化といったものから、船体延長改修までいろいろとありますが、何らかの措置が行われるのでしょう。

Gimg_9346 他方、防衛省が求めている統合輸送能力整備について、既存の輸送艦3隻体制では即応待機艦が1隻しか確保できないため、一応の構想としては大型輸送艦の建造が検討はされているといわれています。中期防衛力整備計画には盛り込まれていませんが、次期中期防には盛り込まれる可能性が残るところ。

Gimg_7600 輸送艦は、陸上自衛隊の水陸両用部隊創設に際し、その輸送能力として重要な意味を持ちますが海上自衛隊の輸送艦は揚陸用であり、着上陸を担う装備では不足する部分があります。特に輸送艦は大型のものを整備してきていますが、揚陸艇が多用な任務に耐えられるかが疑問であり、此処は課題と言えるもの。

Img_4414i このほか、掃海部隊等は現行水準が維持されることとなります。しかし、木製掃海艇からFRP製掃海艇へ転換したため、耐用年数が増大し、その分年間の建造数を将来的に抑えられることを意味しますので掃海艇建造費については他の装備品へ予算を充当できる部分となるかもしれません。

Aimg_4332 他方、沿海域戦闘艦は米海軍では機雷対処性能を盛り込んでいます。海上自衛隊が新しく導入する小型護衛艦がどのような任務に対応する性能を付与するかは現時点で全くの未知数ですが、この部分において掃海艇の任務との分担をどうするのか、今後の情報を待ちたいところです。

北大路機関:はるな

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新防衛大綱(25大綱)・中期防衛力整備計画閣議決定、陸上防衛力整備の新方針を俯瞰する

2013-12-17 23:51:20 | 国際・政治

◆2020年代を担う防衛力整備基本計画

 政府は本日、今後約十年間にわたる防衛計画の基本方針、防衛計画の大綱を発表しました。

G12img_9527 防衛計画の大綱において、統合機動防衛力整備という方針を示し、このもと、年々強まる南西諸島への軍事的圧力を現実問題として扱い、平時における警戒監視能力と共に有事における絶対航空優勢及び制海権の確保を主体とした我が国主権の維持を達成する防衛力を構築する方針を明示しました。

Cimg_8809 25大綱の制定に伴い、陸上自衛隊は1962年の五方面隊制度導入以来、実に半世紀ぶりであり陸上自衛隊創設以来最大の改編が行われます。この改編は、陸上自衛隊の北部・東北・東部・中部・西部各方面隊の一部方面総監部司令部機能を再編し、陸上総隊が創設されます。

Gimg_2747 陸上防衛力は実質的に機動部隊と地域部隊への分化にあたり、これまで陸上自衛隊は全国に配置する全ての師団と旅団を地域配備とし、機甲師団と中央即応集団を機動運用部隊とする運用を採ってきましたが、新しい防衛大綱では機甲師団に加え中央即応集団を発展的に解消し、空挺団のほか、3個師団2個旅団を機動師団機動旅団へ強化することとなりました。

Gimg_6436 陸上総隊の創設は、単純に幕僚機構を移管するための東部方面総監部の改編、というような話ではなく、東部方面総監部が陸上自衛隊の機動運用部隊を一括運用し、機動軍司令部というような機能を発揮することとなり、その名称は変わりますが機能は強化されるという事です。

Gimg_2437 これに伴い今後五年間の中期防衛力整備計画では2個師団が機動師団編制へ、2個旅団が機動旅団編制へ改編されることとなります。地域配備部隊としては五個師団と二個旅団が維持され、従来の地域配備部隊八個師団六個旅団からかなりの部隊が機動運用部隊となります。

Kimg_0911 機動運用部隊は陸上総隊の直轄運用を受ける事となり、その規模は一個機甲師団、三個機動師団、四個機動旅団、一個空挺団、一個水陸機動団、一個ヘリコプター団が充当される計画で、この通り非常に大きな規模の部隊が機動運用されることとなります。なお、機動運用部隊が平時管区を有するのか、地域配備部隊が担うのか、地方協力本部が担うのかは情報を待ちましょう。

Hbimg_7298 水陸両用団の創設は陸上自衛隊が本格的な両用戦部隊の創設を開始することを示し、従来の輸送ヘリコプターを補完する新装備としてティルトローター機の導入を開始する方策が示され、中期防衛力整備計画ではMV-22可動翼機、水陸両用装甲車の本格導入を開始するとのこと。

Gimg_6030 機動力強化に向け、戦車は一個機甲師団を中心とし、北海道の第2戦車連隊、第5戦車大隊、第11戦車大隊が効率化され維持されると共に西部方面戦車隊が新編されます。他方、既存戦車の合理化に置き換わる機動打撃力として、105mm砲と高度な打撃力を有する機動戦闘車の大量導入を行うとのこと。

Nimg_4953 機動戦闘車は主砲こそ74式戦車と同等のものですが、火器管制装置と行進間射撃能力が抜本的に向上しており、防御力は第二世代戦車と同様の視点の下機動力を強化していて、第9戦車大隊、第6戦車大隊、第1戦車大隊、第10戦車大隊、第3戦車大隊、第13戦車中隊、第14戦車中隊、第4戦車大隊、第8戦車大隊は機動大隊へ置き換えられる模様です。

Biimg_5297 特科火砲は、方面特科部隊より自走榴弾砲が全て多連装ロケットシステムに置き換えられるため、300門を基準とする装備体系へ移行します。この数は15個特科隊に相当する所要数となり、このほか、五個地対艦ミサイル連隊、七個高射特科群が維持されます。

Gimg_2816 高射特科群は中距離地対空誘導弾を装備する部隊ですが、現行編制と比較し一個群が縮小されます。これは一部方面隊の高射特科群への改編が行われるか、方面隊の陸上総隊への改編に伴う方面高射特科群の合理化、という背景が考えられるでしょう。

Img_6381 陸上自衛隊は戦車数が削減され特科火砲が縮減されますが、その分機動戦闘車が配備され火砲は重迫撃砲とロケットシステムにより近代化されます。新装備には自走榴弾砲である火力戦闘車開発による全特科部隊自走化が行われ、併せて近接戦闘車による情報優位、新装輪装甲車の開発による機動師団の装甲化も進むことになります。

Aimg_0792 他方、空中機動運用の在り方や多用途ヘリコプターの後継機選定、対戦車ヘリコプターの後継機選定という難題が山積する中、新しく可動翼機の導入を開始する指針を示しているため、陸上自衛隊は長く空中機動能力を重視してきた歴史があり、これをいかに展開するか、関心を抱かずにはいられません。

Gimg_5354 陸上自衛官定数については概ね15万9000名をめどとしており、実員は15万1000名、8000名を即応予備自衛官とする現在の実員のまま検討中であった増員は見送られたようです。海上自衛隊航空自衛隊については次回に紹介することとします。

北大路機関:はるな

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榛名防衛備忘録:将来艦艇日米共同開発②・・・米海軍全通飛行甲板型駆逐艦は最良の選択肢

2013-12-16 22:51:22 | 国際・政治

◆日米数十隻のDDHが平和秩序を支える
 海上自衛隊至高の装備ヘリコプター搭載護衛艦/DDH,ひゅうが型護衛艦をアメリカ海軍へ提示し、全通飛行甲板型駆逐艦カリフォルニア級として提示する、長文化しましたので二回に分け、昨日に続き本日第二回の掲載です。
88img_7187 ひゅうが型を米海軍が採用したと仮定しての艦名について。伊勢型戦艦の就役は1917年ですので、米海軍はカリフォルニア級航空駆逐艦にネヴァダ級戦艦ネヴァダ、オクラホマ。ペンシルヴェニア級戦艦ペンシルヴェニア、アリゾナ。ニューメキシコ級戦艦ニューメキシコ、ミシシッピ、アイダホ。テネシー級戦艦テネシー、カリフォルニア。コロラド級戦艦コロラド、メリーランド、ワシントン、ウエストヴァージニア。等など。日本は伊勢型以前に扶桑型2隻を超弩級戦艦として建造しましたが、これを米海軍に当てはめると更に凄いことに。
Aimg_6969 ううむ、日本が伊勢型の前の二隻を含んだ場合でも扶桑、山城、伊勢、日向、長門、陸奥、と建造しているだけなのに超弩級戦艦は、サウスカロライナ、ミシガン、デラウェア、ノースダコタ、フロリダ、ユタ、ワイオミング、アーカンソー、ニューヨーク、テキサス、が加わります。流石は今でも大型艦とイージス艦を桁違いに建造している米海軍、昔でも建造している戦艦がやけに多い。閑話休題、艦名候補にかつての戦艦名を挙げることが出来るでしょう、オハイオ級戦略ミサイル原潜と被らないように旧戦艦の名前を充当して見劣りしない大型艦です。また、旧戦艦の名称を受け継いだオハイオ級戦略ミサイル原潜は水中排水量18500tですが、ひゅうが型は満載排水量19000tですので、戦艦の艦名を受け継いでも名前負けしないところでしょうか。
Img_6908 八八艦隊構想として、ヘリコプター搭載護衛艦の増勢を、私見ですが何度か、提示しています。海上自衛隊は護衛艦隊隷下の四個護衛隊群を構成する八個護衛隊について、イージス艦による対弾道弾を含めた防空担当の護衛隊とヘリコプター搭載護衛艦を中心とした対潜担当の護衛隊にわけ、現状の四個護衛隊にのみヘリコプター搭載護衛艦が配備されている現状に対して、海上自衛隊護衛艦隊の護衛隊群護衛隊の任務対応能力共通化を行うべく、ヘリコプター搭載護衛艦8隻とイージス艦8隻による八八艦隊の構想を提示しています。仮に米海軍が護衛艦ひゅうが型を採用すれば、運用研究や米海軍その相互連携の観点から、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦増勢に繋がる期待も込めて。
Bimg_0819 本題へ。沿海域戦闘艦はモジュールの換装で様々な任務に対応することとしていますが、ひゅうが型は運用する航空機を入れ替える事で瞬時に様々な能力に対応する駆逐艦、航空機運用能力は艦艇に最大の多用途性を付与します。F-35Bを12機搭載し戦力投射任務に、MV-22を10機搭載し緊急展開任務に、AH-1ZとUH-1YにCH-53Eを搭載し強襲揚陸艦に、MH-53を8機搭載し航空掃海母艦に、SH-60を15機搭載し対潜巡洋艦に、MH-60とMH-47を甲板係留し特殊作戦母艦に、兎に角航空機を載せ替える事であらゆる任務に対応でき、その素早さは沿海域戦闘艦のモジュール換装所要時間とは比較にならないほど。
Avimg_9956 このようにヘリコプター搭載護衛艦の利点は非常に多岐に上るものなのですが、大量配備が現実的なのかを考慮しなければなりません。米軍は外国製装備を導入した事例もありますが、高性能であっても運用体系と合致せず導入しなかった高性能海外装備も多いのですからこの点は重要です。そこで、建造費はアメリカ海軍が駆逐艦として大量に建造することは現実的なのか、乗員数は既存の米海軍艦艇よりも大きすぎ人員面の負担は無いのか、運用費用では沿海域戦闘艦と比較し無理しすぎている部分は無いのか、新型艦であるのだがこれまでの米海軍装備体系と離れすぎている部分は無いのか、こうした部分を一つ一つ見てゆきましょう。
Img_6248 予算ですが、ひゅうが型の建造費は1000億円、インディペンデンス級沿海域戦闘艦の建造費は高騰していますが一応数十隻建造で一隻8億ドル、フリーダム級は同条件で5億ドルに抑える構想、これよりも高く、アーレイバーク級の8億ドルよりはやや高い建造費ではありますが、沿海域戦闘艦と比較し、航空機運用能力が大きい分一隻の任務対応海域が広くなりますので、少数で対応することが可能です。また、ズムウォルト級駆逐艦の建造費30億ドルよりはかなり低く抑えていますし、アメリカ国内の造船所で量産することで建造費を押えることは可能かもしれないものがあります。
Img_7039 技術面ですが、沿海域戦闘艦は技術的に非常に先進的な技術を多数盛り込むと共に艦船建造技術を必ずしも受分有しない関連企業の協力を受けて建造したことから建造に難航し、開発計画の高騰を招きました。しかし、ひゅうが型であれば、一応既に確立した技術に依拠したものですのでアメリカ国内の造船所での生産に大きな技術的問題は生じませんし、沿海域戦闘艦ほど大量建造せずとも必要な海域での優勢獲得に必要な能力を有していますので、先進技術の応用などに未経験の造船所に発注するリスクは生じません。
Aimg_7590 将来発展要素については、新型機を搭載するだけで性能を一新できます。これだけではもちろん無く、統合電気推進やレールガン搭載などを、現段階で有していませんが、カリフォルニア級航空駆逐艦フライトⅡとして将来的に統合電気推進艦を設計し、カリフォルニア級航空駆逐艦フライトⅡ-Aとして飛行甲板端に垂直発射砲方式や舷側配置でレールガンを搭載することは可能となります。武装ですが、ひゅうが型は艦砲を搭載していません、しかし20mmCIWSを搭載しています。それではあんまりだ、とおもわれるかもしれませんがCIWSのマウント重量は5.4tですので、ズムウォルト級駆逐艦の副砲や沿海域戦闘艦の手法として搭載している57mm単装砲のマウント重量は6.5t、置き換えての搭載は可能でしょう。
Nimg_7055 協同能力ですが、まず、ひゅうが型護衛艦と沿海域戦闘艦を、単純に一択による結論を出すのではなく、相互補完方式を採ったと仮定した場合を提示しますと、無論子の提示をしますと沿海域戦闘艦を完全に置き換えるものではないという視点に繋がるものではあるのですが、ひゅうが型護衛艦の航空機運用能力の高さが沿海域戦闘艦へのヘリコプターによる必要物資輸送、所謂バートレップ方式により戦闘を支援することが出来まして、近年は従来の弾薬や食料などのドライカーゴに留まらず、燃料のバートレップ輸送の研究が進められていますので実現すれば沿海域戦闘艦の母艦として、非武装の補給艦が入れない海域へ進出することも可能、この連携の能力の大きさは計り知れません。
Img_1977 乗員ですが、アーレイバーク級は323名とフライトⅡAで380名、ひゅうが型は乗員360名、航空機を最大限搭載する場合、整備要員など航空要員が加わり乗員は500名に達するともいわれていますが、基本状態の乗員数はともに300名の真ん中程度ですので、駆逐艦同士で比較した場合アーレイバーク級、ひゅうが型、そこまで大きな違いはありません。流石に乗員数を比較すると沿海域戦闘艦よりははるかに大きい訳なのですが、アメリカ海軍の主力駆逐艦であるアーレイバーク級と比較した場合はそこまで違わないのです。
Img_659_2 運用費用を見てみますと、単純には比較できないという前提、若干暴論ですが、機関出力はそんなに違いません。燃料搭載量と航続距離は比較できる情報が手元にないのですが、機関出力から見てみることとします。ひゅうが型護衛艦は速力30ノットを発揮するべく機関出力10万馬力、25000馬力のLM2500ガスタービンエンジン四基を搭載しています。対してLCSのフリーダム級は最高速力45ノットで96000馬力、ロールスロイスplcMT30ガスタービンエンジン二基とディーゼル機関により発揮しています。 また、もう一つのLCS,インディペンデンス級は47ノットの速力を発揮するべくGE-LM2500ガスタービンエンジン二基の7万馬力とディーゼル機関を搭載しています。
Yimg_5733 ヘリコプター搭載護衛艦は形は違えど水上戦闘艦。軽空母的な装備と解釈した場合、その用途に身構えてしまい、軽空母であれば護衛を点ける必要、補給と整備体系の問題が障壁となるのですが護衛艦である、ひゅうが型は奥の可能性を秘めています。速力30ノット、多数の航空機を搭載できる一方で駆逐艦として様々な任務に対応できる、建造費も現実的であり技術的に確立されているほか海上自衛隊での運用実績も大きい、日本側がアメリカに提示できる防衛協力はこの優れた設計の護衛艦をシステムとして導入を進める事であり、アメリカ側はこの航空駆逐艦という新しい概念の装備を航空母艦の護衛や戦力投射任務に対応できると共に搭載航空機の運用技術を日本に提供し相互の防衛力を強化できる。
Simg_4731 利点はこれまでに述べたとおりの多用途能力に加え、艦が大型ですので将来発展性が非常に大きいことが挙げられます。艦載機に新型が開発されたならば即座に能力を一新できるのは航空機運用能力の強みですが指揮通信能力等の向上も大型の船体は充分受け入れることが出来るでしょう。また、もう一つの利点として全通飛行甲板型艦艇のもつポテンシャルで、現在、揚陸艦と軽空母の中間を担う戦力投射艦という概念が新しく各国海軍の中で育ちつつありますが、これら戦力投射艦に拮抗する能力を持つと共に太平洋上でその占有を企図した勢力増勢を行う某新興海軍国の始めるであろう航空母艦による周辺国への示威行動に対し、日米数十隻の全通飛行甲板型水上戦闘艦のポテンシャルは無視できない存在です。
Simg_0106 欠点は、沿海域戦闘艦を米海軍が導入しその運用を蓄積しようとしている中に全通飛行甲板型の駆逐艦という新しい装備体系を導入するため混乱が生じる点でしょうが、これは海上自衛隊が研修を受け入れる事でかなり解決することが出来ます。原子力空母ほど航空機は運用できずドック型揚陸艦ほど揚陸支援は行えずイージス艦ほど防空能力は高くありませんが、これらの能力をすべて備え世界最高水準の対潜戦闘能力を持つのが特色というもの。用途は沿海域戦闘艦よりもかなり大型であることで、ステルス性や沿岸部への接近能力では3000tと19000tという大きさの違いが障壁となりますが、航空機運用能力と無人機の積層運用がこれを解決できるでしょう。
Aimg_3329 欠点、あとは米海軍がスプルーアンス級駆逐艦並に30隻前後を導入すると、横須賀を訪れた際に「やっぱり米海軍は無駄に金持ちだよなあ」、と艦船ファンが海上自衛隊と見比べ落胆し、横須賀基地が全通飛行甲板型駆逐艦だらけになり手狭になるので曳船の要員が絶望するところでしょうが、これは逆に、前者だけは利点ともいえまして、併せて某新興海軍国が航空母艦による軍事的圧力をもって示威行動を採ろうとする際に、アメリカにはやっぱり敵わないや、と抑止する効果が期待でき、武力紛争を回避する要素となるところでしょうか。ただ、相手の戦意を喪失させるという意味は重要です。戦後の今日の視点ですが、もし日本が戦前、空母だけでアメリカは四年間で大型のエセックス級空母24隻建造でき、一年間で50隻のカサブランカ級護衛空母を建造出来ると知れば、もう少し慎重になったでしょうから。
88img_1292 戦艦伊勢と戦艦カリフォルニア。先代の戦艦達は太平洋を挟んで巨砲を突き付けあっていましたが、新世代のヘリコプター搭載護衛艦と航空駆逐艦同士は共に信頼できる同盟国同士、日米連携の象徴と言えるのではないでしょうか。先の大戦では、国際広域である海洋を特に公海において排他的に我が国が占有しようとしたことが摩擦の要素の一つとなりました。国名は伏せますが西太平洋における海洋秩序を排他的に軍事力で組み替えようとする某国は、我が国の戦時中のこうした行動を批判しつつ、我が国と同じ方法を採ろうとしています、それが過ちであると矛盾する行動を続けるならば、我が国は同盟国と共に、そうした行動を平和裏に是正する努力が必要であり、その選択肢として全通飛行甲板型駆逐艦の米海軍配備と海上自衛隊との連携はあるのだと考えます。

北大路機関:はるな

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榛名防衛備忘録:将来艦艇日米共同開発①・・・アメリカ海軍は、ひゅうが型を取得すべきだ!

2013-12-15 13:01:31 | 国際・政治

◆カリフォルニア級航空駆逐艦30隻建造案
 新防衛大綱において護衛艦定数の増勢方針は確実な方向で調整されています。この中で、増勢される将来艦艇を米海軍沿海域戦闘艦LCSと共通する艦艇を構想している、との報道もありました。しかし、未開発分野へ安易に共同開発を行うのはFS-Xの事例やEF-2000等、少々不安も残るところ、そこで別の視点を考えてみました。
88img_6800 未開発分野へ日米で挑むのではなく、日米が完成品を提示し装備と装備の合同による新しい装備体系を開発する方が良いのではないか、そんな視点からこの命題を見てゆきましょう。護衛艦の米海軍との共同開発を意識しているようですが、北大路機関の提案として我が国としてはヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが型を将来沿岸海域戦闘を念頭に置いた大型駆逐艦として提示できないか、と考えてみました。ひゅうが型護衛艦をアメリカ海軍絵カリフォルニア級航空駆逐艦として27~31隻程度の取得を提案する。カリフォルニアは、原子力巡洋艦カリフォルニア級を思い出しますが、1921年に就役したテネシー級戦艦の二番艦の艦名でもあります。ひゅうが型護衛艦は伊勢型戦艦二番艦日向の艦名を受け継いだもので同時期の戦艦同士を並べたもので語呂がいいですし、どうせ護衛艦ひゅうが型もアメリカで生産されたならば巻寿司のカリフォルニアンロールのような状態になるでしょうから丁度よいのではないか、と。
88img_8487 アメリカは満載排水量3000t前後のものを模索しているのに、いきなり満載排水量19000tの世界最大級の駆逐艦を提示するとは、海上自衛隊は、ひゅうが型をDDHとしていますので、DDという部分がある以上駆逐艦であるわけですが、まあ、アメリカ海軍としては日本側が一佐を艦長としている以上、海軍大佐が指揮する艦艇は巡洋艦ですので、この分は一考の余地はありそうですけれども、それはさておき、かなり大型のものを大量に取得させよう、という発想は違和感を感じられる方がいるかもしれません。ただ、沿海域戦闘艦の求められる人mへは対応する能力をヘリコプター搭載護衛艦は有していますし、以下に記す通り想定任務が違っていますので、共同開発を沿海域戦闘艦と小型護衛艦で実施した場合、どうしても国際共同開発につきものである双方の要求不一致に伴う開発遅延と開発費高騰に落ちる可能性が無視できないのです。それならば、日本が育てた一流の装備であるヘリコプター搭載護衛艦装備体系をアメリカに完成品として提示し、その見返りに米海軍の艦上無人機や戦闘機運用体系の提示を求める、というような完成品同士の相互提供により単体システムを共同開発するという従来の発想から、単体完成品の相互提示による装備体系の共同構築を行う、という選択の方が良いのではないか、と。
Himg_0835 沿海域戦闘艦は米海軍では世界を任務海域として沿岸部での対潜哨戒から制海権確保に機雷掃討、戦力投射と兵員輸送などを想定しているもので、武装をモジュール化し換装することで低脅威度海域での戦闘から従来型隊水上戦闘までを想定しているもの。対して日本では海上自衛隊が求めているものは南西諸島を中心とした機動運用の想定で、運用要素は従来の小型護衛艦の域に或るもの。双方は一応満載排水量で3000t前後あたり、という想定は共通化できるのかもしれませんが、運用能力の要請が異なりますので建造費が大きく変わってきます。
88img_4068 それならば、日本としては既に完成したものを提示し、日米で同型艦を共同運用する事は出来ないでしょうか。ヘリコプター搭載護衛艦は海上自衛隊が1973年のヘリコプター搭載護衛艦はるな就役以来40年間に渡り技術を強化し戦術を開発してきた我が国が世界に誇る洋上防衛システムです。日本としてはヘリコプター搭載護衛艦からのMQ-8のような無人機の運用やF-35B戦闘機というような将来航空機の運用などのノウハウを学ぶことが出来、アメリカとしては大型駆逐艦としてすでに設計が完成しているものをアメリカ国内の造船所で建造しますので設計分野ではリスクが少ないですし、求められるならばアメリカ海軍の要員を護衛艦ひゅうが、いせ、に乗艦させ、訓練や運用面での実習が、もちろん日本側も無人機や垂直離着陸機運用を米艦艇へ研修へ向かうというバーターが前提ですけれども、可能です。
Himg_1430 沿海域戦闘艦とヘリコプター搭載護衛艦では任務が違い過ぎないか、と問われるかもしれませんが、沿海域での戦力投射任務は、沿海域戦闘艦はストライカー装甲車を一個中隊程度搭載するものや、特殊作戦部隊をヘリコプターにより投射する事を以て対応することとしていますが、ひゅうが型護衛艦ならば、航空機格納庫にはストライカー装甲車一個中隊は余裕で搭載できますし、飛行甲板上も後部飛行甲板のミサイルを搭載したVLSの付近以外に装甲車を並べれば、一個大隊でも収容できます。降ろす手段は現行では自走乗艦できませんので、改良するか、甲板にスロープを設置、重輸送ヘリコプターの搭載などの必要性は出てきますが、戦力投射は一世代前の強襲揚陸艦と比較しても引けを取りません。
Himg_1164 ひゅうが型は軽空母ではなく全通飛行甲板型の水上戦闘艦、駆逐艦ですので、かつての制海艦、中途半端な軽空母構想として提示され中途半端であるがゆえに正規空母と任務と予算を食い合う懸念から設計のみなされて中止となった制海艦と同じ轍を踏みません。駆逐艦、ひゅうが型は100kmの最大探知距離を持つとされた護衛艦しらね型のOQS-101の後継であるOYQ-21ソナーシステムを搭載していますので、対潜中枢艦としての能力を充分有しています。OYQ-21を対米供与するかは別の話となりますが、補給整備面からタイコンデロガ級巡洋艦やアーレイバーク級駆逐艦に装備されているSQS-53を装備する事も出来るでしょう。短魚雷発射管や対潜用アスロックのVLSへの搭載が出来ますので、対潜中枢艦として運用できるほか、ニミッツ級原子力空母等の対潜直衛艦としても能力を発揮できることは間違いない。
Aimg_0673 ひゅうが型は、対空戦闘能力も優れています。あきづき型護衛艦に搭載されている国産多機能レーダ・射撃管制装置FCS-3は同時多目標対処能力があります。特に比較されるイージスシステムは遠距離探知能力に優れる一方中距離低空目標探知に限界があるSバンドレーダーを採用していますが、FCS-3は中距離及び近距離でも低空小型超高速目標への対処能力を重視するCバンドレーダーを採用していますので、例えば航空母艦の直衛任務に充てた場合、射程50kmのESSM対空ミサイルを最大64発搭載できますので、空母艦載機とイージス艦の防空網を突破する攻撃機や対艦ミサイルの攻撃から空母を防護可能ですし、単艦で沿岸部へ進出し任務に当たることも可能です。また、MCH-101掃海輸送ヘリコプターの搭載を最初から念頭としていますので、沿海域戦闘艦に求められる機雷戦対処能力も十分備えているもの。
Himg_1186 FCS-3がアメリカ海軍の装備体系との相互互換性で問題がある、もしくは技術的に対米供与には一考の余地が生じる、という場合にはロッキードマーティン社製イージスシステム、イージスIWSならば艦橋に統裁可能です。イージスIWSはノルウェー海軍のフリチョフナンセン級ミサイルフリゲイトに搭載されているもので、アーレイバーク級や、あたご型等に装備されているSPY-1Dレーダーを簡略化したSPY-1Fが搭載されています。フリチョフナンセン級は日米のイージス艦のような長射程のスタンダード対空ミサイルを搭載せず、米海軍がシースパロー対空ミサイルの後継として導入し、海上自衛隊でも、ひゅうが型や、むらさめ型、たかなみ型、あきづき型が搭載しているESSMを主要装備としていますので、ちょうど良いところ。
88img_1292 従来型の海上戦闘では上記の通り威力は最大の能力を行使できます。そしてもちろん、この25年間重視されている低烈度紛争に際しては航空機による哨戒能力と部隊輸送能力が威力を発揮しますし、テロ対策や海賊対処でも航空拠点は能力が最大限活かせ、災害対処や人道支援では輸送能力で従来の駆逐艦とは比較になりません。米海軍は無人機や航空機による戦力投射を行い沿岸部での戦闘を想定しているようですが、海上自衛隊も運用を計画しているMQ-8無人ヘリコプターは沿海域戦闘艦の場合、3機の搭載が限界ですが、ひゅうが型ならば30機搭載しても十分余裕があります。200km進出し6時間の哨戒が可能、必要ならばヘルファイア対戦車ミサイルを搭載し戦力投射も可能なこの航空機を多数運用することができるわけです。そして、格納庫をどう運用するかによりますが、F-35B戦闘機を甲板係留と併せ最大12機搭載することが可能な駆逐艦ですので、沿岸での多くの任務に対応できるでしょう。次回、能力と利点、現実性についてもう少し考えたいと思います。

北大路機関:はるな

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歴史地震再来と日本安全保障戦略⑨ 筑紫地震,日本書紀に記録された最初の巨大地震

2013-12-14 23:43:09 | 防災・災害派遣

◆飛鳥時代の北九州を襲った巨大地震

 地震災害ですが、これは何処で発生するかにより被害が大きく変わってくるのは当然で、無人の山間部で発生するか、都市部で発生するかにより被害は変わってきます。その典型的な事例として筑紫地震の事例をみてみましょう。

Dgimg_0483 岐阜県の根尾谷断層は、6mもの上下のずれを生じさせた日本の地質史上最大の内陸部地震であった1891年10月28日、濃尾大震災による断層破壊を刻銘に残し今に至ります。濃尾大震災は震度6、死者7300名と、一見その後の関東大震災と比較し被害が小さい印象を与えるのですが、これは当時最大震度が6であり、震度7制定以前であったこと、そして発災が現在の東海道本線拠点駅が置かれている大垣市の北、人口希薄な本巣郡が震源だったことと勘案し、犠牲者の数を見ますと、その大きさが極まってくるのではないでしょうか。

Dimg_3355 しかし、歴史をさかのぼる事飛鳥時代の天武天皇治世下、西暦に換算すれば679年に我が国では同じように断層が6mにわたり跳ねあがる巨大地震の記録があります。これは筑紫地震として日本書紀に記録されているもので、口述伝承を除く文献に残る地震記録としては日本最古の地震被害記録となりました。記録には巾二丈即ち6mに渡り地面が持ち上がったと記録され、20世紀にはいり、本格的な地質調査が開始、1988年の久留米市教育委員会による調査では、やく20kmに渡りこうした断層破壊の痕跡が見つかったとのこと。

Eimg_60150 これが筑紫地震による被害と推測されるのは、九州全域に降り積もる錦江湾の姶良火山大規模噴火による火山性堆積物という地質学上の指標があり判別が容易であると点に加え、飛鳥時代の土塁などに対する被害が確認できたため、かなりの確率を以て確証できた、とのことです。被害記録などは前述の断層破壊のほか、大規模な地滑りが発生し民家などが多数破壊された、という程度であり、律令制度が完全に確立する過程の時代とあって、倒壊家屋数や人的被害は大まかな規模さえ判明しないのですが、小規模な地震とは考えにくい。

Fimg_5119 断層破壊の水準から類推するだけでも地震の規模が想像できるのですが、この地震の発生で最も危惧するのは、仮に濃尾地震と同程度のマグニチュード8前後の地震であった場合、その被害は九州北部だけではなく朝鮮半島南部に地震被害として波及する可能性があるのです。震度分布などはまだ不透明な地震であり今後の研究の進展を望みたいところではあるのですが、地震被害は耐震強度に関する確たる方針に基づいた都市計画が為されている九州よりも朝鮮半島南部の方が大きくなるのではないでしょうか。

Img_3619 筑紫地震が仮に再来した際、その震源には久留米市、隣接して福岡市など大都市圏が広がっています。震度7の大規模地震が発生した場合、震源が浅ければ局地的とはなるでしょうが建築物と人的な被害が非常に大きくなり、仮に震源が深ければ震源付近の揺れは抑えられるものの揺れが広域化します。ただ、耐震構造を充分配慮した都市部であれば被害は抑えられ、勿論山岳崩壊などの危険は当然残り、姶良火山や加久藤火山に阿蘇山の火山性堆積物の積層地域では地震亀裂がラハールを誘発する可能性があるのですが、被害は局限化することが可能です。

Img_9576 内陸部での直下地震であってもその規模によっては被害がプレート境界地震ほどではないにしろ広域化することは研究として知られており、重要なのは震源の深さです。しかし、この筑紫地震はこの地域に断層が6mに渡りずれを生じさせ得るという歴史的教訓を残しているほか、その規模と被害の範囲は僅かな地割れと姶良火山堆積物の変動という痕跡でしか知ることが出来ず、堆積層の調査はその労力、つまり費用対効果の問題から十分に行うことが物理的にできません。

Cimg_27000 地震は発生場所によりその被害が変わってくる、とはこのこと。歴史地震が問いかけるこの地震の最大の恐怖は、防災が一種の社会的な様式として定着している我が国では再来に対し、当然看過できない被害は及ぼす事でしょうが、想定外というほどの被害を及ぼすかと問われれば充分勘案しなければならないだろう程度の建築物強度や防災体制の官民における準備などが為されています。しかし、それならば海峡の向こう側に或る朝鮮半島南部の防災対策はどうなのでしょうか、この点を考えると、何とも言い切れないものが出てくるのです。

Himg_1241 朝鮮半島南部での被害、特に九州北部から300km程度の距離には韓国水力原子力の月城原子力発電所があります。我が国では震源から遠くない距離に九州電力玄海原発などが置かれていますが、原子力規制法に基づく最大限の地震対策が義務付けられている我が国の原子力施設と比較し、韓国国内法ではマグニチュード6.5規模への耐震性を基準としていますので、300km圏に隣接しマグニチュード8クラスの地震が発生した場合、果たして対応できるのか、という疑問が生じます。

Aimg_2525 これはもちろん、原子力事故が韓国南部で発生した場合、日本海と我が国日本海沿岸が汚染されることを意味するのですから。誤解されがちですが我が国の福島第一原発事故は東京電力と関連企業に自衛隊や関係各省庁に米軍とフランス電力公社の協力によりかなり抑えられ、被害を局限化できています。しかし、これが韓国国内で想定外の地震被害により原子力事故が発生した場合、防災インフラの基幹部分から、これらを福島第一原発事故のように抑えられるとは限られないという事を忘れてはなりません。

Img_1992k 歴史地震は様々な問いかけを我が国の現代における防災政策に投げかけてくるのですが、このように我が国領域で発生した大規模地震が隣国に及ぼす被害の可能性について、加えてその隣国が十分な対策を行っていないという状況が現在生じています。国際的な協力の在り方、防災揚力の必要性というものは通常の公序として求められるものですがどの程度の政策への反映を前提とした国際協調を行うかは当事国の防災への意識により変わってくるものがあります、いわば危機感の共有というものが重要であり、この点での日韓関係を見ますと非常に不十分と言わざるを得ないように感じる次第です。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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平成二十五年度十二月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2013.12.15・19)

2013-12-13 23:26:13 | 北大路機関 広報

◆自衛隊関連行事

 雷や名は知らねども雪の峰、夜中に雷鳴が聞こえたり初雪が舞う中にそろそろ暖かいところに行きたくとも中々、という今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか。

Gimg_9040 今週末の自衛隊関連行事は、那覇基地航空祭が行われます、緊急発進件数では最も忙しい那覇基地第83航空隊が展開している基地で、過密空港である沖縄の表玄関那覇空港と滑走路を共にしているため、飛行展示には制約があるのですが、文字通り防空の最前線、注目の航空祭です。

Gimg_9465 沖縄の那覇基地、当方としては今年、行かず地や那覇知らねども行きの未ね、という航空祭ですが、将来的に築城基地から一個飛行隊が那覇基地に移転し、海上に第二滑走路の建設が始まることから那覇基地は冷戦時代の千歳基地のように今後より重責を担うこととなること間違いありません。

Gimg_8995 そんな那覇基地は海上自衛隊那覇航空基地と隣接していますので第5航空群のP-3C哨戒機の飛行展示が行われますし、那覇空港には第15旅団の那覇駐屯地が隣接、第15ヘリコプター隊も駐屯していますので陸海空自衛隊の展示飛行など、航空祭としての行事も盛りだくさんです。基地と空港の関係から東京より日帰り可能航空祭としても知られる。

Gimg_1847 ロシア海軍対潜駆逐艦アドミラルヴィノグラードフ舞鶴親善訪問、太平洋艦隊鑑定団指揮官アンドレイアナトリエヴィチヌズネツォフ大佐指揮下、駆逐艦に加え航洋曳船カラル、補給艦イルクートを伴い舞鶴を訪問し、舞鶴港と若狭湾において救難訓練や立入検査訓練などの共同訓練を行います。

Gimg_1815 対潜駆逐艦アドミラルヴィノグラードフはウダロイⅠ型駆逐艦で、対潜ヘリコプター2機と長距離対潜誘導弾を用いる大型艦、100mm単装砲2門を背負い式に搭載する勇壮な艦容で、全体的に兵装と電装品を盛り合わせ攻撃的な印象を与えるロシア艦の特性を端的に示している。

Gimg_1943 第3護衛隊司令伍賀祥裕1佐以下ヘリコプター搭載護衛艦しらね、がホストシップとして派遣され、入港は16日月曜日の予定で、日ロ共同訓練は18日水曜日と20日金曜日に実施、19日木曜日に一般公開を行い20日に出港予定とのこと。

◆駐屯地祭・基地祭・航空祭

注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関

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新防衛大綱と我が国防衛力の課題⑤ 専守防衛、何処までの武力攻撃事態を見込むのか

2013-12-12 23:52:15 | 防衛・安全保障

◆防衛と九州、脅威の能力と防衛グランドデザイン
 防衛計画の大綱改訂が発表されるまで間近とはなっていますが、ここで原点についての論点を示してみましょう。有事に我が国はどういった防衛を想定するのでしょうか。
88img_2901 最近、考えてみれば納得するものの、一瞬戸惑ったことがあります、それは“戦前や開戦期、本土防衛などと考える者は官民軍問わず非国民扱いされた”、というもの。一瞬、終戦時に本土決戦への固執があったことを知識としてもつ者には錯誤に陥りますが、なるほど、開戦時までは我が国の陸軍国防体系は外征が基本、海軍は海岸要塞こそは一応整備していましたが基本は艦隊を以て外洋で相手を迎え撃つ、敵を本土に迎え撃つなどは以ての外だったわけです。なるほど、時換われば価値観換わる。
Bsimg_4312 もちろん、我が国が現代の防衛政策を考える上で、有事の際には外地において敵野戦軍主力を殲滅し首都を攻略する、という発想は無く、当然のように専守防衛が念頭にはなるのですが、考えてみますと、どういった武力攻撃事態を周辺国で我が国へ武力攻撃を行う国が能力として展開し得るのか、という視点に立った防衛政策がどの程度行われているのか、勿論自衛隊では実任務への防衛計画として為されているのでしょうが、そのために防衛力が充分か不十分なのか、装備数が自衛隊の有事必勝計画に充分か不足か、という観点から見えてこない。
Img_1167 我が国は何処までの有事への対応を想定するのか、これは防衛計画のグランドデザインを画定するうえで必要不可欠な要素なのですが、周辺国への配慮からか、この部分は余り示されていません。もちろん、過度に情報を開示し手の内をさらす必要はありませんが、防衛計画のグランドデザインを明示出来なければ、具体的な防衛力を整備することも出来ません。当然ですが、過剰な軍事力を我が国が整備することは財政の面から不適当ですので、仮想敵の脅威評価、とはいかずとも、周辺大国を、偽米国防総省議会報告のようにまとめ、どういった脅威が及びうるのかを画定する必要は、と思うところ。
Mimg_1023 どこまでの武力攻撃事態を見込むのか、この命題は必然的に周辺国の軍事力がどこまでの我が国への武力攻撃能力を有するか、動員力と政治的意図までを見込んで検討しなければなりません。更には、我が国はどういった事態まで対応しなければならないのか、勿論、軍事力とは運用そのもので用法が大きく変わるという前提でゃありますが、憲法上の範囲から逸脱することは防衛行政として許されませんが、憲法上の自衛権の可能な行使の範囲と国民の権利、財産権と生存権との均衡点を図る上からも必要な視点でしょう。
Iimg_9932 そこで一例として九州を挙げます。九州、九州への着上陸や空挺浸透の可能性はあるのか。一見荒唐無稽な論調ではありますが、例えばこうした一見乱暴な視点から見てみましょう。もちろん、周辺国では急ぎ二万t級強襲揚陸艦の建造に着手する国も出ていますが、仮に強襲揚陸艦が十隻程度整備されただけでは脅威とはなり得ません。他方、制海権と航空優勢を喪失すれば若干数、例えば一個連隊程度の着上陸後、我が方の港湾施設などを占拠されるのみで、通常の輸送船舶による管理揚陸を受ける可能性があります。
Nimg_3184 予め注意しておきたいのは、想定として在り得るのかあり得ないのか、という点も踏まえ考える必要がありますが、先方の視点からを踏まえ、願望を評価とせず客観的な分析を行う、こうしたうえでの九州着上陸想定は一例であり、これを以て九州に機甲師団を、地対艦ミサイル連隊増勢を、という命題を示すものではありません。一例なのですから、対処法の想定は自衛艦隊による海上補給路寸断や絶対航空優勢奪還という防衛力整備に依拠した対処要領は無数にありますので、これは我が国の想定脅威の最大値を考慮する全体の論理展開における一例として挙げたにすぎません。
Kimg_9280_1 こうしたうえで、九州島への着上陸を想定しますと、政治的にまったく意味が無いのか、と問われましたら、そういう意味ではありません、政治の延長としての軍事という視点に依拠すると必要性は皆無ではないのです。仮に我が方がこれを喪失した場合、政治的に大きな譲歩を強いられることとなりますし、南西諸島防衛の重要な拠点を喪失することにもなります。これは周辺国が我が国に無条件降伏を求める手段としての、わたしたちが義務教育の歴史で学ぶような敗北ではなくとも、一時的に我が重要地域を占拠することで他方面での政治的譲歩を図る、という手段として無視できるものではありません。
Gimg_5947 もちろん、冷戦時代は同様の命題が北方方面に対し充てられる脅威想定があり、例えばソ連軍の強襲揚陸能力は限られていた一方で、空挺強襲とヘリボーン強襲を行い道北地方や道南地方、場合によっては道央地方へ強襲と陽動を並行して実施し、盆地や隘路等戦略上の要衝緊要地形を確保したうえで輸送船による管理揚陸を実施した場合、複数師団規模の展開は物理的に可能でした。他方で、関越地方や山陰地方への限定侵攻を行う事も能力場は不可能ではなく、必要性と問題点の均衡が取れ得なかったため実施されなかったから、と考えるもの。
Img_0859 これをもとにソ連側が求める太平洋への緊要地形、有事における海峡通航権の確保や、日米同盟への政治的対応を外交面で実施することは可能でした。他方これが実施されなかった背景には日米関係と米太平洋戦略上の我が国との関係の意義があったためではありますが、アメリカ側との衝突も辞さない急迫不正の国家利益が生じた場合、幸いにして生じませんでしたが、強行された可能性は充分に存在したでしょう。東西冷戦は、様々な視点はありますが、米側の軍拡攻勢と欧米の緊張緩和攻勢の相乗で体制の変革を強いられた、ということが出kますが、冷戦構造が長期化すれば、こうした上記可能性の否定はできたのでしょうか、という視点も必要と考えます。
Iimg_9050 ともあれ、我が国の防衛を想定する場合、周辺国の太平洋戦略、例えば周辺国がアメリカとの核均衡をめざし、戦略ミサイル原潜の増勢を行う際に海洋策源地として南西諸島西側海域の聖域化を必要とした場合、在沖米軍の退去を政治的に必要とする可能性が捨てきれませんし、我が国南方の戦時中までは日本本土であった地域において、その地域の独立を認めず武力併合を行う際の布石としての南西諸島への圧力、その後のその地域を策源地としての太平洋戦略の拡大の障壁除去へ、九州島への侵攻の可能性は捨てきれません。
Fimg_6687 更に自衛隊発足時からの想定では、朝鮮半島情勢が緊迫化し、特に周辺国がこの地域の衛星国化を期し、一方に対し軍事援助を行い、武力併合の可能性が生じた際、我が方としては対岸に脅威が展開するのを待って専守防衛を貫くのか、その他の選択肢として何らかの手段を得られるのか、という視点から見た場合、前者の場合は想定脅威が九州北部へ及ぶ蓋然性が生じます。我が国の位置と周辺国の太平洋政策の関係上、日米関係と環太平洋における均衡体制への挑戦、という可能性は安易に否定できません。
Eimg_2500 視点を変えるならば、朝鮮半島における友好国としての韓国の今後における米韓関係及び中韓関係が経済面以外の面で、特に軍事的な関係性を以て比重の均衡点が転換する可能性はあるのか、という視点や、同国の近年の国防政策における整備装備が示す将来の運用環境等を俯瞰した場合、周辺国との軍事緊張が生じた際の日韓関係の位置づけからも、我が国防衛政策に不確定要素が生じる可能性も見ていく必要があります。だからこそ、製作ではなく、相手に能力があるのか、という視点が必要で、そのための防衛体制は専守防衛の政策上、どういった状況までを想定しなければ、という視点こそが求められる。
Img_1057 即ち、我が国の防衛主眼は南西諸島における島嶼部防衛が当面の重要な課題としてのコツ現状は否定するものではありませんが、南西諸島島嶼部への我が国との軍事衝突も辞さない姿勢を持っての国家意思遂行の背景へは、単なる島嶼部の、特に現時点で極一部を問題領域として対日圧力を掛ける姿勢が目的への終止符であるのか、次の段階として周辺事態というべき行動を採る布石とするのかは見通すことなく、島嶼部防衛を主眼とした政策を展開することは防衛力のグランドデザイン構築を行う面で余りに近視眼的ではないか、という疑問符がどうしても生じるところ。
Cimg_2955 例えば南西諸島の海洋資源に対する周辺国の圧力を主眼とした南西諸島防衛計画を建てることに対して、武力奪取した海域での海洋開発を行い利益を得る可能性よりは、国際公序からの逸脱による国際金融市場での制裁による開発不能の可能性が当然生じるわけなのですから、南西諸島有事は手段として周辺国が目指すものであり、太平洋戦略における対日関係の転換強要や、台湾島における在沖米軍台沖連絡線遮断、有事における原潜部隊の太平洋中央部策源地構築などの視点も踏まえ想定している必要はないでしょうか。
Img_1654 仮にこうした可能性を踏まえた場合、その策源地攻撃の一環として、他の地域への武力攻撃が行われる想定を我が国としてもつ必要は生じてくるわけです。こうした意味では、九州は例示であり、他の地域への攻撃という可能性も生じられます。更に本州島に対して弾道弾攻撃が継続されて実施される可能性を示し、継続的に我が国政策決定への介入を期して持続された場合、我が国は自衛権の一環として策源地攻撃の可能性を捨てていませんが、航空攻撃では策源地攻撃へ不十分な状況が生じた場合、次の段階を想定するのかどうか、という視点も検討を避ける事は出来ません。
Bimg_3104 もちろん、防衛計画の大綱は自衛隊法とその上位に或る日本国憲法の下で展開するものなのですから、専守防衛を越えた防衛力、例えば周辺国の首都へ軍団規模の部隊を転換させる能力整備などは逸脱に当たります。逆に言うならば、我が国シティズンシップの討議に稀に生まれる“有事の際、仮に日本が侵略されたとして日本は勝てるのか”、という命題は、“憲法上相手国の首都を制圧することが難しい以上、負けないことは出来ても勝つ事は出来ない”、という不可避の結論を出る事は出来ないわけです。
Bs_img_1295 他方、こうした制約下では、我が国の防衛政策は何処まで展開することが出来るのか、という視点、何処までの武力攻撃事態を想定するのか、という視点は、相手の平時の戦力のみならず動員力と周辺国との外交関係による展開が少なくない影響を及ぼしますし、仮に周辺事態が発生し、我が国の介入有無を別次元の話として我が国周辺に脅威が及んだ場合、限定戦域での防衛を超えた事態を何処まで想定しなければならないのか、という視点が求められてくるもの。かなりあいまいで難しいですが、これが無ければ防衛のグランドデザインが描けません。
Bsimg_0879 ただ、この視点は単に戦車が何個大隊必要で、護衛艦は何隻必要だ、戦闘機は其処此処に航空団、というような単純な話ではなく、陸自軽視でも艦隊決戦重視でもなく、どういう任務の下で防衛力を整備するか、という一件曖昧なものとはなるでしょう。しかし、これを逆に言うならば、防衛力整備とは必要な装備は中期防衛力整備計画で明示すればよく、その大元となる防衛計画の大綱は、自衛隊が何処で何と戦うのか、という視点こそ明確に想定する必要があるでしょう。

北大路機関:はるな

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