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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

シリア内戦復興,日本・国連UNDP協同で発電所復旧へ要員派遣 シリア政府へ安全確保要求

2016-05-19 23:00:39 | 国際・政治
■内戦下シリアへ復興支援
 日本政府は国連UNDPとの協同でシリア内戦へ復興の人員を派遣するとの事がAFP通信により報道されました。

 これは我が国の吉川元偉国連大使が昨日18日にシリアのジャファリ国連大使や国連開発計画UNDP高官とニューヨークで会談し明らかになったもので、シリア国内の火力発電所について、復旧支援を行う共同プロジェクトへの参画としており、この復興事業はシリア政府の要請により行われ、緊急人道支援として計約30億円の資金協力を行うというもの。この計画について日本政府はシリア政府に対し、発電所復旧支援の際のシリア政府による安全確保を要請したとの事です。シリアは停戦中ですが内戦状態、万一の際には邦人保護と自衛隊の緊急派遣という問題にも直面する問題です。

 シリア内戦は停戦となっていますが、国内では停戦交渉の対象とならなかったISILや一部武装勢力との間で戦闘が大規模に展開しており、ここで火力発電所を修復する事となります、これにより三箇所の火力発電所を復旧する事でシリア国内の電力需要59%をまかなえるとのことで、シリア軍による警備を要請するかたち。ただ、万一不測の事態となった場合には、邦人保護任務について、日本政府も責任を負うこととなるでしょう。即ち万一の際には自衛隊が救出へ展開しなければならない、ということに他なりません。

 シリア内戦は実質的に継続されています。現状ではロシア空軍の猛攻と欧州中東有志連合の航空打撃により、ISILが首都と位置づけるシリアのラッカ周辺まで追い詰められ、ISILは非常事態宣言が出されているとのこと、ISILは首謀者であるバグダディ容疑者がラッカ市内に潜伏していると考えられることから、航空攻撃により行動自由を封殺し、武器供給は鹵獲武器に依存するISILにとり既にイラクでの新生イラク軍からの鹵獲が途絶している状況で、時間をかけシリア軍が大量の兵力で包囲し、市街地戦闘により制圧する最終段階が見えてきました。

 しかし、これはISILによる攻勢が昨今、地域奪取を目的とする軍事的な攻勢から単発的なテロへと移行しており、これは彼我混合の競合地域以外の地域でも突発的に襲撃事件が発生する危険性が増している事を意味します。実際、イラクの首都バグダッド北郊にあるガス工場を15日に武装集団が襲撃、その後ISILが犯行声明を出す事案がありました、犯行の概要は8名が襲撃し自爆攻撃を中心に展開し、これにより石油施設従業員や警備要員など7名が死亡したと報じられています。

 ISILの攻勢はこのように数名単位でのテロ攻撃へ攻撃の主体が移行しており、今回もその表れであるとの見方を示しましたが、ここで思い起こされるのは2013年1月16日に発生したアルジェリアガスプラント邦人襲撃事件のようなテロ事件でしょう。アルカイダ系武装勢力イスラム聖戦士血盟団によるこのテロ事件により邦人10名が殺害され、この事件を受け自衛隊法が改正、在外邦人保護の陸上輸送任務が付与され、邦人救出のための輸送防護車等が配備された事は記憶に新しいところですが、現在のシリア情勢は当時のアルジェリアよりも危険と云って間違いありません。

 この地域へ我が国が関与の度合いを強める意味ですが、それは中東のパワーバランスへの均衡回復です。シリア内戦は停戦状態の中で対テロ作戦が継続的に進行中で、ロシア軍のシリアでの行動の度合いは依然大きく、冷戦期にソ連が理想としていました中東地域での恒常的な策源地確保に成功しました、アメリカ軍は冷戦期のサウジアラビアでの常駐は湾岸戦争後も継続され、イラク戦争を契機にサウジアラビア及びクウェート駐屯部隊がイラクへ進攻し、そののちの駐留を経て実質的に大隊規模の陸戦部隊と航空基地隊を残し撤退、これは中東全域からイラクに集約して後の本土への撤退であり、中東での米ロ均衡は反転したといえるでしょう。

 ただ、忘れてはならないのは2015年1月20日のシリアアレッポISIL日本人拘束事件です、この事件では二人の邦人釈放へ2億ドルの身代金が要求され、その根拠が我が国によるシリア難民人道支援への反発でした。難民キャンプ運営費の日本側負担、という平和的な施策に対しても、そもそもシリア難民そのものがISILの支配を受け入れない反逆者とのISIL独自の解釈があり、その難民支援を行う日本政府はISILの敵である、として拉致邦人二人、自称ジャーナリストと自称民間ミリタリーショップ会社経営者という一般市民を拉致したわけです。発電所復旧はISILの照り攻撃目標とされる可能性が高い。

 シリアでの今回開始される発電所復旧支援はどのような規模の派遣となるかは未知数ですが、我が国政府からのシリア政府への要請が為された為、邦人が派遣される事を示しています。場合によってはシリア領内での邦人保護任務の可能性が生じると共に、併せて、シリア領域外においても、日本が国連と連携する形であっても、シリア領域内の復興支援に当たる事を逆恨みし、邦人がテロの標的となる可能性は高くなります、もちろん、ISILに従わない地域の人々は生存権が無い、としたISILの主張に賛同する余地は絶無であり、人道支援は我が国の精神からも求められる施策ですが、併せて、不測の事態への準備を世界規模で備える必要性がある事も、また重要であることに代わりありません。

北大路機関:はるな くらま
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