京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

 見上げる月に… 

2009年09月07日 | 映画・観劇
            

「…露は今夜従(よ)り白く、月は是れ故郷の明かり」

戦乱の中、白露の時節に当たって、消息のない弟たちの身を思いやっている詩の一節(杜甫「月夜(げつや)に舎弟を憶(おも)う」)。
空の高さを実感しながら、お月さん相手に起きているのも悪くはなさそうに思えるこの頃の月だ。

アメリカ映画『扉をたたく人 The Visitor』を観に行く道すがら、なかなか出会えない赤まんまを見つけた。「この世に雑草という植物はない」と、どこかで目にした言葉。たどってみれば『牧野日本植物図鑑』の著者、牧野富太郎氏だった。

  「赤まんま」は秋の季語、名もなさそうな草でも懸命に咲いている。
          
孤独に暮らす大学教授と移民の青年タレクとの出会い。閉ざされたような教授の「心の扉」を開いたのは、他者からの人間的な優しさのノックだった。眠っていた他人への思いやりの心は反応し、新しい空気に触れる楽しさを感じていく。わずかな勇気が扉を開かせる。他者に決して無関心ではいられなかった教授の人間性は、人と人とをつないだ。自らの再生と共に。

アフリカン・ドラム、ジャンべの奏者であるタレク。不法滞在を理由に拘束され、移送先も告げられぬままに行方も分からずじまい。自国を逃れる事情も様々だろうが、逃れた先での状況も異なる。不法滞在と人権擁護、その現実的な厳しさを突き付けられた。

タレクの移送先は“国外”だった。シリアへの強制送還なのか。彼が幸せに暮らしているのならいいが…。今宵の月は、タレクへの思いをいざなうことになりそうか。彼の見上げる空にも月が輝いていてほしい。
コメント (4)
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