北海道の先住民族アイヌのことを少しは理解したいという殊勝な心がけで(?)7月29日から8月1日まで4日間の連続講座に参加したのだが…。
道の開拓記念館(現在閉鎖中)や札幌学院大でアイヌに関する講座を時折り受講していたが、もう少ししっかりとアイヌ民族のことについて知りたいと思っていた。そうした中で今回の連続講座のことを知った。
4日間もの連続講座に耐えることができるのか、少々不安もあったが思い切って受講してみることにした。
講座は、公益財団法人 アイヌ文化振興・研究推進機構が主催する「アイヌ文化普及啓発セミナー」という堅い名称の講座だった。
セミナーの講座名・講師等については次のとおりだった。
【7月29日】
《第1講座》「首都圏で35年」~関東ウタリ会の長年にわたる取り組み~
関東ウタリ会々長 丸子 美記子 氏
《第2講座》「千島列島のアイヌ文化」~環境に適応した先住民族の生活様式~
北海学園大学人文学部教授 手塚 薫 氏
【7月30日】
《第3講座》「遺跡が伝える北海道の鉄文化」
札幌国際大学人文学部教授 越田 賢一郎 氏
《第4講座》「ムックリに魅せられて」~父から受け継いだ技と想い~
工房「ムックリの鈴木」代表 鈴木 紀美代 氏
【7月31日】
《第5講座》「アイヌ民族とエゾシカ管理」~イメージからの脱却に向けて~
北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授 山崎 幸治 氏
《第6講座》「トンコリに魅せられて」~学校、地域、そして世界の舞台で~
演奏家、アイヌ文化活動アドバイザー 居壁 太 氏
【8月1日】
《第7講座》「蝦夷錦がたどった道」 館工業高等専門学校教授 中村 和之 氏
《第8講座》「鳩沢佐美夫 その生涯と創作活動」 東京理科大学工学部第一部准教授 木名瀬 高嗣 氏
1講座90分だから、合計560分間もアイヌ民族の文化のことを学んだことになる。
ただ、講座の趣旨はあくまでアイヌ民族の“文化”を理解することだった。私の思いは“アイヌ民族”そのもの、あるいは和人が過去に犯した“民族差別”についてもっと知りたいというものだった。そのあたりの齟齬はあったものの、全体としてはアイヌ民族が古くからこの寒冷な地にあって文化を育んできたことは各講座から理解することができた。
私が求めていたことに関しては、1日目の丸子美記子氏、3日目の居壁太氏がお話の中で触れられた。
丸子氏は網走管内・美幌町の出身だという。彼女は物心ついたときに自分が他の人(和人)と違うことに気づいたという。そしていわれのない差別を経験した。その差別から逃れるために関東に移住したが、そこでは北海道よりさらに少数派としての苦汁を舐めたようだ。
それが彼女をして関東に住むアイヌの人たちの絆を深めるために、そしてアイヌの立場を他に訴えていくために、その立場に立たせたようだ。
彼女は言う。「もっともっとアイヌのことを知ってください」と…。
居壁氏もまた北海道・浦河町の出身で、東京に移り住んだ方だった。彼の場合はアイヌ民族に伝わるトンコリという楽器に出会ってから自らの出自(アイヌ)のことについて考えるようになったという。
彼は言う「アイヌ人は、全ての人、全ての自然に対して感謝の気持ちをもって生きている。自分のために命を捧げてくれる動物たち、植物たちに対して、アイヌは特にそれを大切にし、命は自分だけのものじゃないよ。自分一人じゃ生きられないよ、と。親、兄弟、近所の人、沢山の人が自分を支えてくれているよ。和人は確かに過去においてアイヌ民族を虐げてきた歴史があるが、それをも乗り越えてお互いに感謝しながら生きていきたい」というような趣旨のことを述べた。
居壁氏はその語り口と同様、優しい心の持ち主なのかもしれない。だから居壁氏の考えがアイヌの人たち全ての考えを代表するものではないかもしれない。しかし、私には彼の言葉の深層にアイヌの人たちの持つ哀しみを見た思いだった。
今日(8月4日)の北海道新聞の第1面に「今こそアイヌ語」と題して、アイヌ語を継承する重要性を指摘する記事が掲載された。今アイヌ語は今「消滅の危機にある」とユネスコから指摘されているということだ。
私たちが育った北海道、そこはもともとはアイヌの人たちが暮らしていた地である。そのことを忘れないために、また忘れさせないためにも“アイヌ語”を、そしてアイヌの人たちの“精神”を継承していきたいものである。
※ 最近はどのような講演・講座に出席しても写真撮影を断られることが多い。本講座も例外ではなかった。悪用されることが多いからだろうか?したがって、本欄の写真もウェブ上から拝借したもので、当日の氏たちの表情ではないことをお断りしておきます。