探検家で、武蔵美術大学の教授を務める関野吉晴氏がゼミの学生たちとカレーライスを作るうえで必要なすべての材料を一から自分たちで作るという計画を提案し、実際にその軌跡を追うドキュメンタリーである。
今日(5月19日)、札幌プラザ2・5で表記映画の上映と関野氏の講演があると知って駆け付けた。関野氏はアフリカに誕生した人類がユーラシア大陸を通って南アメリカ大陸まで拡散していった約5万3千キロの行程を自ら脚力と腕力だけをたよりに足かけ10年の歳月をかけて遡行したグレートジャーニーを完遂したことで知られる探検家である。
関野氏はグレートジャーニーの完成と相前後して武蔵美大の教授に就任していた。
※ 武蔵美大で講義中の関野吉晴氏です。
今回の映画は、「モノの原点を知ることで社会が見えてくる」と考える関野氏が学生たちにそのことを伝える手段として、カレーライスに必要なすべての材料を一から自分たちで作るということを学生たちに提案し、9ヵ月にわたる学生たちの試行錯誤の様子をドキュメンタリーとして追い求める映画である。
学生たちは、田植えの経験も、野菜を種から育てる経験も初めてだった。その作業の姿はいかにも頼りないものだった。そして最大の懸案は、カレーに入れる肉をどうするか、という問題だった。当初はダチョウを飼育しようとして幼鳥を飼い始めたが神経質なダチョウは環境に慣れることなく三羽ともに死なせてしまった。代わりに飼い始めたのが烏骨鶏とホロホロ鳥だった。やがてその鳥たちが成長して、カレーライスの材料としなければならない時になって、ゼミ生たちの中に迷いが生じ始め「鳥たちを屠るべきか、生かすべきか」悩んだが、学生たちは「人は命を食べないと生きていけない」という現実を直視する中で結論を導き出す。映画の中で、ともすれば感情的になりやすい(?)女子学生が冷静に自分の考えを述べる姿が印象的だった。
※ 学生たちは慣れない手つきで懸命に農作業に励みました。
関野氏は言う。実は「一から作る」という実践はカレーライス作りが初めてではなく、その前に学生たちと「カヌーを一から作った」という体験があったそうだ。そのことを知っていた後輩たちが、関野氏に再びと要請があったことで、関野氏は今度は「カレーライスを一から作る」ことを提案したという。こうした一から何かを作るという一見無駄な行為を通して学生たちに「何かに気付いてほしい」という願いがあるそうだ。
※ プラザ4・5のステージで映画の背景や氏の生き方を語る関野吉晴氏です。
「学生たちは今気づかなくともよい。今回のプロジェクトが彼らの人生のどこかできっと生きてくるはず」だと…。それは関野氏がグレートジャーニーから得た貴重な体験でもあるようだ。
関野氏のお話は一見とりとめのない話のようにも映ったが、そこには氏の地球に対する、あるいは人生に対する哲学のようなことを拝聴した思いだった。氏は今年70歳になるようだが、まだまだ夢をたくさん持っていると語る姿が魅力的だった。