久しぶりに刑事裁判を傍聴した。独特の緊張感の中、審理が進むのを見守ったが、案件が「道路交通法違反」だったためか(?)即日結審となった。裁判を終えた後、裁判長より刑事裁判の基本的なことについての解説も伺うことができた。
8月24日(水)午後、札幌市資料館主催の「刑事裁判の傍聴と解説」のイベントに参加した。札幌市資料館では、年間を通して様々なイベントを開催しているが、建物が元「札幌控訴院」であることから「法・司法を学ぶイベント」にも力を入れている。
今年度も2回の「刑事裁判の傍聴と解説」イベントを計画しているが、今回はその1回目だった。参加者は希望者の中から選ばれた14名が札幌地方裁判所で13時30分から開廷した刑事事件を傍聴した。裁判の案件は前述したように「道路交通法違反」に関する件だった。
その交通違反とは、被告Aは某日夜、勤務を終えて帰宅する際に時速60km制限の道路を89kmオーバーの時速149kmで走行したところ、路上に設置されていた「オービス(速度違反自動取締装置)」に検知・記録され、後刻検挙されたものである。
印象的な場面があった。それは裁判の開始に当たって、裁判長が被告に向かって「裁判長、検事、弁護士からの問いかけに対して答えたくない場合は答えないと意思表示しても良い。無言でも良い」とし、「問いに対しては簡潔に答えること」と言った場面である。これはどの裁判においても必ず行われていることと思われるのだが、実際に立ち会って聞いてみると「ずいぶん慎重なんだなぁ」という思いを改めて感じた。
裁判は被告Aが起訴事実を全て認め、真摯に反省していたことからスムーズに審理が進められた。審理の中で、被告Aは生後5か月の娘が風邪を引いたとの妻からの連絡に動揺し、勤務後に一刻も早く娘の顔を見たかったために、ついつい速度を出してしまったと弁明した。その中で明らかになったことで、被告Aは物流会社の倉庫でフォークリフトを運転する仕事をしていたという。その勤務だが、朝の5時に始業し、仕事を終えたのが夜の21時過ぎだったという過酷な就業実態が明らかになったことだ。おそらく繁忙期だったのだろうが、あまりもの長時間勤務の実態を聞いて、交通違反を犯したという事実は別にして、被告への同情を禁じえなかった。
裁判は事実認定について争うところはなく、検事から「89kmオーバーという悪質な交通違反ということを鑑み懲役4ヵ月を求める」と求刑がなされた。対して弁護士は「子どもの病気を心配するあまりつい速度違反を起こしてしまったこと、被告が真摯に反省していること、などを鑑み執行猶予を求める」旨の最終弁論を行った。さらに裁判長は被告に対しても最終陳述を求めたが、被告からは「真摯に反省して、立ち直る」旨の言葉があり結審した。私はここで閉廷となり、判決言い渡しは後日なのではと思っていたのだが、予想に反し、その場で裁判長からの判決言い渡しがあった。その判決内容は「被告を懲役4ヵ月に処する。その執行を2年間猶予する」と言い渡した。そして「判決内容に不服のある場合は、上告する権利がある」と述べ、閉廷した。
閉廷した後、小休止を取った後、今回の裁判を指揮した裁判長が直接私たちに対して解説してくれた。その内容は「刑事裁判の役割」、「刑事裁判の原則」などについてだった。
「刑事裁判の役割」については、①起訴状に記載された犯罪事実について、被告人が有罪であるか否か。②有罪であるとして、どのような刑を科すのが相当か(量刑)。がその役割であるとした。
「刑事裁判の3つの原則」については、①証拠裁判主義(事実の認定は証拠によらなければならない)。②被告人が有罪であることについては検察官が立証責任を負う。(無罪推定)③有罪とするには常識に照らして間違いないといえるだけの確信を持つ必要がある。という3つの原則があるとした。
そして、今回の道路交通法違反以外の刑事事件も、裁判において刑罰を科すためには法律に規定 されていることが必要だとした。(刑法、薬物関係の法律、等)その他、自白事件と否認事件の裁判の違いなどについても解説されたが省略したい。
前述したように、10数年前に一度刑事裁判を傍聴した体験があった私だが、ほぼ記憶にはないことから初めての傍聴体験といってもよい今回の体験だった。人身事故などを伴わない交通違反案件だったが、厳粛な雰囲気の中で行われる裁判は私にとって得難い体験だった。
※ 裁判中の写真撮影はもちろNGだったので、札幌市資料館内に復元されている「旧刑事法廷」を代わりの写真として掲載します。