参勤交代において、鶴崎からの行きかえりの船の出入りは、その華やかさに船頭衆の御舟歌の歌い上げが又花を添えている。
御舟手と呼ばれる藩主直属の人達が、声をそろえて藩主のお召し船「波奈志丸」と一行の無事の出航・帰航を願って高らかに歌い上げたのであろう。
昨年わたしはその「御舟歌」の歌詞を調べられ、「御舟歌」復活によせて を出版された松本政信様から、貴重な御著をご恵贈いただいた。
一部は熊本県立図書館に寄贈の手続きをして納本した。これらの歌詞を読むと、海の男たちの豊かな感性や、大らかな気性などが伺われる。
残念ながらメロディーが失われてしまっており、その実態を知ることは不可能だが、歌詞を読んでいると鶴崎の海に朗々と響く様が目に浮かぶようである。
そんな中に、八代を歌っている歌詞があった。ちょっと気を使ってくれている様が微笑ましい。
音に聞へし八代の 景は筆にも延べがたし エイ
鏡の池の壱りおし 己が影をやつまと 見るらんと エイ
口すみ見ぬる其人も 心づくしの旅そかし
実(け)にやいにしへ西行のおふ つらねしうたにもおしなめてん
ゑひ物をおもわぬ人にだに エイ 心つくる秋の惣と エイ
かよく(う?)に詠みし言の葉も かゝる折にや花咲いづる葉き(萩)原の
袖も尾花に続キぬる エイ ふもと(の)里の山あらし エイ
遠寺の鐘に夢さめて エイ つきす渡る名取川
音(雪カ)の雲いのしら島や 礒うつ波の音迄も
少将(瀟湘)の雨を聞ク エイ 平沙の落雁まの前に エイ
宇柳しげり岸続き エイ 一葉船の帆の見へて
漁りする火の影見れば エイ 漁村の夕照を遠からす
エイヤヨ/\此ノ サン波の色入り日の跡に名を見へてん
ゑひそぎ過く 憂きにかくれの宿おもしろやン エイ
あまの塩やくけむりたに 松の木末に打なひき
風をいとうと詠めしを エイ
浮世の事とわすれツゝ おも(ひ)いづれは此ノ浦に エイ
住むひ人はとくふちの 深き心はたのもしや
なんぼもおもしろいそよのん エイ そりやさす