現在オークションに出品されている品である。写真下段・左に書かれているのは幽齋公の御教歌である。
拝見してすぐ分ったのには理由がある。史談会会員のO氏のお宅の史料をお預かりした折、この教歌に出会い読み下しに苦労をしたからだ。
天明年間境野意明が謹写してO家に贈呈されたものだと思われる。
士の道にかなう教歌として、多くの人が軸にしたり写し取ったりしたことが推察される。
細川玄旨君記しおかせられ
たるよしのかけ物にしたるを
うつし侍る
身のために君をおもふは口おしや
きみのためなど身をば思いて
身のために君をおもふは欲心なり
方向をして忠節をなし君の
ため能すれば或は立身し知行
おとしむ褒美を請なむ ほめら
れ念比にあらむと我が身解さる時は君を
恨ミ奉公しても何の甲斐なしなど
云うて却って仇逆心の種となるものなり
また君の為に小身をおもふときは君に
奉りし身なれば心を正しく候を
理にはむかしと思ふも君か為なり
身を全うしてははつかしめを取らして
慎も君のためなり 辛労苦労
をして或ハ弓鉄炮等武芸を嗜
も君のためなり 昼夜それ/\の
役義を務るも君の為と思ひ
ぬれば何を勤ても骨折ぬるとて
も君のためなればすこしも恨なく
是を真実忠奉公人忠臣の士と
いふなるへし
天明乙午冬十一月
従境野意明謹写