直木賞作家・泡坂妻夫氏の本職(?)は、「上絵師」だというが、着物に家紋を描く職人さんのことである。
氏には「家紋の話ー上絵師が語る紋章の美」があり、これを購入して知った。
同じ直木賞作家・森田誠吾氏は実家の広告制作会社精美堂を継いでおられたが、古い職人さんが版木や印章の彫りなどもなさるらしい。
また「わが俳句交友録」の著者・車谷氏の話だが、この人は名にし負う悪筆らしい。
俳人であるが、悪筆故に人様から色紙頂戴の話が合っても頑なに拒み続けている。
あるとき素晴らしい印章をみて、自分も作ってみたいと思い自ら腕を振るって原稿を作った。
これを何故か森田氏の処に持って行っている。
森田氏は一目見て「自分が彫る」と言い出され、数十年物の乾燥しきった硬く石のようになった「つげ」の木を使い数日かけ、サロンパスを張りまくって仕上げられた。
そこで森田氏は「礼はいらぬが何か色紙を頂戴したい」と言い出された。これには車谷氏も頭を抱え込んでいる。
それでも何とか物にして届けると、森田氏は「全力投球の気持ちが書にあらわれている。いつか取り替えてほしい」と言い、「作句も無心であれば、書もまた無心、無心の一筆お願い申し上げておきます」「思い捨つるな叶わぬまでも、縁と浮世は末を待てと申します」と結んであった。
一流人の交わりは含蓄深く羨ましいものだと思ったことである。
森田誠吾氏と言えば、私の大好きな作家の一人で「魚河岸ものがたり」で直木賞を受けられた。
NHKでドラマ化され、今では大歌手となった今井美樹や名俳優小林薫などが出演した名作だった。
「銀座八邦亭」や「明治人ものがたり」「江戸の夢 忠臣蔵と武玉川」 などを愛読した。
二刀流の達人は世に色々居られるようだが、仕事も半流・趣味も半流の私などは足しても半流の情けなさである。