俳人・中村汀女の故郷は水清らかな(だった?)江津湖に程近い、数年前生家跡を訪ねたことがある。
汀女は裕福な斎藤家の娘で、江津湖にはその斎藤家の名前を冠した「斎藤橋」がある。
汀女は美貌の人である。近くにはボート練習所が有り五高生徒など男どもを魅了したらしい。
処で、同姓同名の二人の尾崎一枝さんがいらっしゃるが、お父さんはそれぞれ高名な小説家、「人生劇場」の尾崎士郎氏並びに「暢氣眼鏡」の尾崎一雄氏である。
二人の対談による共著「二人の一枝」が、同姓同名であるがゆえのエピソードなどあり大変面白い。
そして尾崎士郎氏のお嬢さんは、中村汀女の長男・湊一郎(TBSプロデューサー)氏に嫁がれている。
その一枝さんの話が車谷弘著「わが俳句交友録」の汀女さんの話の中に登場する。
あるとき尾崎一雄氏が「お宅の一枝さん(士郎の娘)が・・面白いことを書いていましたよ」と汀女に話しかける。
「私は鼻が低いので、中村一族の集まりへゆくと恥ずかしくなっちまう。中村一族はどうして皆さん、あゝ鼻がたかいんだろうって・・・・」
すると汀女は結婚前に親類にあいさつ回りの為に人力車で熊本の街を走ると「鼻・鼻・二段鼻」と行合う子供たちが囃し立てたと話して、声を立てて笑ったという。
二段鼻とは鉤鼻のことだろうが、そうは見えない。鼻筋の通った高い鼻が団子っ鼻の子供たちには眩しかったのだろう。