すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

ゆえに貴重、ゆえに必読

2016年06月09日 | 読書
 『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(橘 玲  新潮新書)



 この新書はある意味痛快、冒頭の一行から挑発的である。

 最初に断っておくが、これは不愉快な本だ。だから、気分よく一日を終わりたいひとは、読むのをやめたほうがいい。

 確かに読み進めいくと、気分が高揚してうきうきしたり、次はどんな展開か楽しみになったりは、けしてしない本だ。
 それどころか、そこまで言うか、センセーショナルなデータだけを突き付けて何になる、と憤る人だっているだろう。

 もし、ここに書かれてあることは会話で自信満々に語ったりしたら、世の中の嫌われ者だろうなと想像はつく。
 しかし、私自身は途中から、なんだか慣れてきて?著者が本当に言いたいことを探るようなモードに入ってしまった。

 そして、「あとがき」にある「本書の企画を思いついた」発端については、深く納得したものだった。
 著者のスタンスがよく表れている最終行である。

 私は、不愉快なものにこそ語るべき価値があると考えている。きれいごとをいうひとは、いくらでもいるのだから。

 遺伝や人の外見、そして教育、子育てなどにおける、いわば「努力」や「向上心」に冷や水をかけるようなデータに溢れた本と言ってもいい。
 専門分野の研究者はどう評価するかはわからない。夥しい参考文献もあるが、妥当性を問う人は多いのではないか。

 しかしいずれにしても、それはある面の「現実」を示していることは確かなのだと思う。
 例えば、次のような一見暴論と思えることもずばり書かれる。

 子どもの人格や能力・才能の形成に子育ては、ほとんど関係ない。

 かなりページを割かれてある双生児研究のデータが添えられ、一瞬反論のしようがなくなる自分を感じたりするのだ。

 ともあれ、それも一つの読書の醍醐味といえるかもしれない。
 ゆえに貴重な一冊だ。


 さて、なるほどと思った「美貌格差」。
 先日、テレビ番組「世にも奇妙な物語」で「美人税」というテーマの話に笑ったが、それとずいぶん似ている気がした。
 しかし、この新書での結論付けで一番格差があるのは、男性の容貌らしい。
 自分のことは棚上げするが、そういう観点は笑い話や冗談でなく、もっと真剣に考えられていいことだと思った。