すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

絶対温度、堪能したい

2019年04月13日 | 読書
 料理に関する物語やドキュメントは昔から好きだった。TVバラエティはさすがに食傷気味だが、それでも関心は残っている。当然食い気があるからだが、それ以上に技術・精神性が表現されやすい、わかりやすいからだろう。ただ凡人には想像し難い世界があることは承知だ。この一冊にもそういう印象を抱いた。


2019読了36
 『天才シェフの絶対温度』(石川拓治  幻冬舎文庫)



 大阪、レストラン「HAJIME」。ミシュランガイドの三ツ星シェフ米田肇の物語である。「絶対温度」という文庫版題名は、第一章の見出し「できれば、ドアの取っ手の温度も調節したい」によく表れている。料理とその場に対してこれほどの情熱を傾ける人間が、日本にいると知っただけでも価値があると思わせられた。


 大学を出て一旦就職し、そのうえで思いが固まった段階で職を辞め、料理の道を目指した米田。料理学校の授業後は、必ず講師へ質問を浴びせかけるようになった。この言葉が彼を象徴していると言える。「先生はこの野菜を1センチ角に切りなさいとおっしゃったけど、なぜ1センチ1ミリ角ではいけないのですか?


 一生懸命さはもちろんだが、異常なほどの頑なさも読み取れる。しかしそれだからこそ、国内での辛い修業、フランスへ渡ってからの労働許可問題など、まさに悪戦苦闘としか呼べない事態を切り抜けられた。最終的に、その人格を作った父母の偉さをしみじみと感じた。従って「教育書」としても十分に刺激的な本だ。


 著者の書くノンフィクションは、徹底的に人物に寄り添い、情景を見事に描くので惹きつけられる。久しぶりに、風呂場読書から離れて一気読みした。それにしても一度は味わいたい「人を感動させる料理」。有名な料理人の味を少しは堪能した経験もあるが、HAJIMEはさすがにハードルが高い。最低7万という。遠い。