すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

ランドクの中にやさしさ、ふかさ

2021年11月05日 | 読書
 この2冊は若い人この場合実年齢を指しているが、薦めたいなあと、しみじみ思った。



『世界を、こんなふうにみてごらん』
 (日高敏隆  集英社文庫)


 著者自身ではなく、弟子の今福道夫氏によって「あとがき」が記されている。それによると、亡くなった2009年に読書情報誌『青春と読書』に連載されたエッセイがまとめられた一冊だ。非常に平易な文体ではあるが、実に本質的な内容が書かれている。「やさしく、ふかく」の見本のような文章である。「どんなものの見方も相対化して考えてごらんなさい。科学もそのうちのひとつの見方として。」という一節にも表れているように、科学至上主義、原理主義ではない人間のあり方を、自らの体験をもとに例を示し、語りかけてくれる。「日本の知の最高峰」の姿を感じることのできる書だ。若い人たちに薦めたい。



『「無言館」にいらっしゃい』
 (窪島誠一郎  ちくまプリマ―新書)


 図書館で実施した「おすすめブック」家族読書の部に、「無言館」という語を文章中に見つけた。該当本は未読だったが、戦争に関わると想像できた。中古書店でこの書名を見て、即購読した。無言館とは長野県上田市にある美術館であり、飾られているのは「戦場から帰ってこられなかった画家のタマゴたちの絵」である。ここで「無言」の意味が迫ってくる。手紙などの文章とは違い、当時の思いや考えが直接綴られることはなく、一つの造形が残るのみである。それらの絵から何を感じ、受け取るかは、観た者に任せられる。しかし、時代という背景を知ったうえで対峙すると、きっと浮かび上がる「念」は強くなる。実際のそうした体験が、今求められる気がする。