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「少女」を読む少年+50

2022年04月06日 | 読書
 隣市の学校へ通っていた頃、峠を下った集落でスクールバスを待つ一団を見て、何か自分でも小説が書けそう…と思ったことがあった。主人公は小学六年生女子。身体の中に感情が渦巻いている様子を…と思ったが、なんとなく重松清風になりそうなので断念(笑)。職業上の見方とはいえ、「少女」は面白い存在に違いない。


『短編少女』(三浦しをん、他  集英社文庫)


 風呂場読書は短編シリーズが続いていて、アンソロジーを読んでいる。これは「少女」を共通のモチーフとして、9人の作家によって書かれた一冊。既読作品が一つあり、萩原浩の直木賞作品に掲載されていた短編であった。他は初読だが、それなりの面白さに惹かれて読んだ。ただ、パターン化している点も感じる。


 少女に限らず、こうした世代を取り上げると、親の不仲、離婚、転居、転校そして学校内の軋轢、いじめ等々などが直接取り上げられたり、背景として出てきたりする。世相としての兆候だが、それに一番過敏に反応するのが少女という時期なのか。だからこそ、少女は刹那に美しく輝いて見えるのだとも言えるか。


 全てではないが、登場してくる同年代の男子の描き方は、設定は多様に見えてもどこか凡庸で鈍感(繊細さを突き詰められないという点で)で共通している。「少年」もドラマになる部分もあるが、どうにも幅が狭い。唯一、道尾秀介の「やさしい風の道」の主人公である「少女の弟」はなかなか面白みのある形象だった。



 「少女」といえば、我々の年代では五輪真弓の歌が有名だ。しかし個人的にはなんといっても、井上陽水『いつのまにか少女は』である。映画『放課後』(主題歌「夢の中へ」)で主演した栗田ひろみをイメージして作られた。ああ、あの映画、湯沢の光座で観たっけ、と半世紀前の少年は、そんなことしか思い出さない。