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早送り、倍速では展望できない

2022年10月17日 | 読書
 「大いなる違和感」と題された序章は、昨年3月のあるビジネスサイトのネット記事。映画等の「倍速視聴や10秒飛ばしに対する違和感の表明」は話題を呼び、賛否両論が寄せられたという。記事を目にしたのは最近だったが、読書活動推進の仕事に携わっている身として抱いていた問題意識にも強く響く内容だった。


『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史  光文社新書)


 若い世代の、いわゆる読書離れについて詳細なデータは掴んでいない。しかしよく話題になるし、勤めている図書館にあってもその傾向は顕著だ。実際に接した子たちの声を拾っても「忙しい」「面倒」が溢れる。ゲーム等も含めた映像文化に染まっていることが大きな理由だろうと感じていた。しかし、現実はその上にあるようだ。


 この新書に添えば、書籍であれ映像であれ、「作品」というより「コンテンツ」という見方をすること。それは「鑑賞」ではなく「消費」だということ。従って、常に「コスパ」ここでは「タイパ」(タイムパフォーマンス)が重視されること。そうした心身に染まっているならば、本を開こうとする手はなかなか伸びない。



 書名に話を戻せば、そもそも仲間内の話題参加のためにこうした事象が起きたとされている。それ自体はTVが家庭に広まった1960~70年代にも見られたことだ。しかし現在と違うのは圧倒的な情報量、コミュニケーション媒体の進化、情報産業の膨張…それに伴う人々の意識変化はもはや止められないことが瞭然だ。


 背景に「キャリア教育」という語も登場する。確かに「役に立つ」をことさら強調し、そのために「個性」収集を圧しつけられている現状があると感じる。結果、人は急かされ、新しい価値観が拡がっていく。今、茫然としつつも何を為すべきか…まず自ら培った思考、感覚をスロー再生で確かめることからなのか。