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桜と絵本と豆乳と

参参参(三十三)没頭の読み書き

2023年10月04日 | 読書
 何をもって「読書の秋」というか。没頭の瞬間を愉しめればいい。


『墨のゆらめき』(三浦しをん  新潮社)

 何故か、時々読みたくなる書道関連モノ。漫画は多いが小説はあまりないので手にしてみた。ちょうどTVで『ばらかもん』という軽いドラマもやっていたし、少しそんなモード(どんな?)に入ったのかな。なかなか続けて修行できない一つに、書道がある。小学校から手をかけ、大人になっても通信添削をしてみたのだが、どうにも挫折してしまう。いつかいつかと思いつつ出来ないのは、きっと「心を込める」「没頭する」能力に欠けるのではないか。この小説の遠田薫という書家は、いいかげんそうに見えて芯がぶれない、作風の自在さに秀でているが、それが本来の姿とは言えない。何度目の正直かわからないが、また筆を持ちたくなる。





『5と3/4時間目の授業』(高橋源一郎   講談社文庫)

 教育に携わっていながら、この学園の存在は頭になかった。「きのくに子ども村学園」…フリースクールではなく、文科省の認可を受けた正式の学校である。こうした自由度の高い場で育つ子どもの将来は、どんな姿なのか。今は非常に興味がある。この本は作家高橋源一郎がその学園の生徒を相手に2日間「授業」をした記録だ。しかし、自分の概念からするとこれは「講義」ではないかなと思う。この考え方の相違が決定的ともいえるか。いずれ高橋は「たぶん、読んじゃいなよ」と「なんとなく、書いちゃいないよ」という2つのテーマで、饒舌に語りかけている。生徒の反応はまさしく多種多様だし、そこに「学び」があるかどうかの判断も読者に問うている気がする。個人的には「木村センさんの遺書」の紹介が、ずんと心に残った。



『ひと』(小野寺史宜 祥伝社文庫)

 数年前のベストセラー。図書館内でも気になっていた本だが、文庫があったので購入した。母親の急死、大学中退、惣菜屋でのバイト、友人関係…何か大きな事件があるわけではないが、一人の若者の「境遇」を、実にディテールにこだわって見せてくれるような内容だ。些細な言動に込められた人間の素性や本性、強さと弱さをないまぜにしながら、何か大切な芯をつかみ取ろうとする主人公の姿に共感が湧いてきて、知らず知らずに読み進めたくなる。本屋大賞2位らしいが頷ける。「ひと」というシンプルな題名は、いったい何を指しているか。読み手が想像することか、解説の中江有里は「孤独」と解したのだろうか。