すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

三度目に、読み浸る

2021年04月07日 | 読書
 数年前にこの映画がシアターではなく自主上映会?のような形で案内があったとき、興味を持ったが行けずじまいだった。その後、TVで放送されたので録画はした。しかしこれも見ずじまいでディスクで眠ったままだ。心理的に避けているな、俺は…と自己分析。ところが文庫を見つけた三度目で、読み浸る。

『ペコロスの母に会いに行く』(岡野雄一 角川文庫)



 といっても、8コマ主体で長くとも数ページの漫画集、エピソードを綴っていく形式であり、軽読書の範疇である。ただいくつかあるエッセイも含めて、実に情感あふれる内容だった。親の介護(といっても施設訪問が主になっている)と幼い頃の思い出などを通して、人の一生の価値を問いかけられている気がした。


 特に「命がすれ違う春」と題された8コマは、なんとも言われない。車椅子での散歩の途中、母親は向こうからやってきた乳母車の赤ん坊と、顔を見合わせ微笑みをかわす。すれ違いざまに手を合わせる。そこに添えられた言葉は、人は齢をとればだんだんと子どもへ帰っていく、という意味の在りかを教えてくれる。

「命がふたつ並び
 すれ違う
 人生の重荷を降ろした笑顔と
 人生の重荷をまだ知らない笑顔の
 何とよく似たものか」


 筆者はいわゆる団塊の世代で、似たような境遇を持つ者は全国に何万人もいると思う。もちろん経験の質が違い、個々の歩んだ道は様々だろう。しかし同根を持つ者も多く、苦労した親、地域や周囲との関わりの濃さ、反抗や逃避を経ての自立、その果てに想う故郷と家族…と重なる風景に、心が温まるだろう。


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