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宮西達也作品を読み解く(4)

2023年10月19日 | 絵本
 ティラノサウルスシリーズはウルトラマンシリーズ同様、人気が高い。裏表紙のコピーをみると、「愛情物語」「友情物語」という括り方で紹介されている。手元の『キラキラッとほしがかがやきました』『であえてほんとうによかった』の2冊を見て少しだけ深掘りしてみたい。いずれも、最初は「乱暴者」「嫌われ者」だ。





 それがある者との出会いによって変化していく。「キラキラッ~」は災難と裏切りによって苦境に立たされた時、「であえて~」も本当の出会いは、島に取り残された災難からと言ってよい。物語が動き出すのは非常時という点だ。そういう出来事によって、人物の本当の気持ちや頭の働かせ方(知恵)などに気づいていく。


 根本は「やさしさ」や「人を思う」意味に収斂されていくが、前段階で正直さを吐露する場面が描かれる。自分自身の心底をさらけ出してこそ、近づくことが出来る境地だ。それは自己否定、そして悲しい結末となる。どちらも象徴的に「赤い実」が登場する。食べると幸せになる、元気になる実は「血」と重なる。


 『おまえうまそうだな』から始まるシリーズには、題名の変化もある。もちろん重層的な意味を持つが、爬虫類的、強者の語から共感的な価値のある語がダイレクトに出るようになった。穿った見方をすれば手に取りやすいとも言える。しかしそれは、題名は表紙とともに一種の顔であり、メッセージとなるからだろう。


 最後にもう一冊。『きょうは なんて うんが いいんだろう』は、まさしくWINWIN(今は使わないか)の極致。誰(動物)も殺さないストーリーは安心感がある。幸せに満ちていればみんな殺生しないよ、そんな生き方もあるじゃないかと思わせてくれる。クマ騒動が激しい秋田県で、駆除された一方を考える。


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