「初恋温泉」吉田修一
前回読んだ「悪人」が面白かった。
そこで、他の作品も読もうかな、と。
短編集だけど、なかなかつぶぞろいで楽しめた。
特によかったのが、タイトルになっている「初恋温泉」。
初恋の女性と結婚したが、温泉に出かける前に離婚を切り出される。
男性の心理も、女性の心理もよくつかんでいる、これは巧い。
印象に残る文章を紹介する。
P11
別れたいと思う気持ちは、いつの時点で口から出てくるのだろうかと重田は思う。
別れたいと思ったときか、それとも別れようと決めたときか。
P48
「幸せなときだけをいくらつないでも、幸せとは限らないのよ」と彩子が言った。
「どういうことだよ?」
これが分からないから、離縁されるんでしょうね。
でも、この重田さんの「分からない気持ち」も、よく分かる。
「悪人」より、だいぶタッチ軽めの作品集。
文章も読みやすい、とても芥川賞作家の作品とは思えない。
芥川賞受賞作家で、エンターテイメント系の作品も書ける作家は珍しい。
私の知っている限りでは、田辺聖子さんくらい。
山田詠美さんも、そうだけど、「ベッドタイムアイズ」で芥川賞候補になったけど、受賞はしなかった。(残念)
その代わり、「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」で直木賞受賞。(これも、ある意味すごい)
PS
ところで、レジに持っていくとき、タイトル、ちょっと恥ずかしい。
【ネット上の紹介】
初恋の女性と結婚した男。がむしゃらに働いて成功するが、夫婦で温泉に出かける前日、妻から離婚を切り出される。幸せにするために頑張ってきたのに、なぜ―表題作ほか、不倫を重ねる元同級生や、親に内緒で初めて外泊する高校生カップルなど、温泉を訪れる五組の男女の心情を細やかにすくいあげる。日常を離れた場所で気づく、本当の気持ち。切なく、あたたかく、ほろ苦い恋愛小説集。