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「飢餓浄土」石井光太

2011年03月27日 10時58分14秒 | 読書(ノンフィクション)


「飢餓浄土」石井光太

石井光太さん、最新刊。
過去の石井光太作品で、1番よかったのが「神の捨てた裸体」、
次に「物乞う仏陀」「レンタルチャイルド」がくる。(海外モノでは)
今回の作品は、それぞれの取材でこぼれ落ちた「ストーリー」、
さらに最新の取材で得たエピソードをまとめてある。
だからといって、質が落ちるわけでもなく、テーマにばらつきがあるわけでもない。
石井光太作品らしい、濃度の高い仕上がりになっている。

ボルネオ島、妊娠している(ようにみえる)娘と2人ペアで売春する母親を取材する(P93)
母親はベッドの端にすわり、結わえていた髪をほどいた。豆電球の下で、白髪が反射している。
目もとには無数の皺があった。
「ここにお客さんを呼んで、仕事をしているんですか」と私が尋ねた。
「ええ、1回につき、20リンギ(約530円)もらっているわ。外の宿をつかえば、お客さんはさらにお金を払わなければならない。けど、この部屋をつかえば、宿代も含めて20リンギでおさまる。インドネシア人の小娘なんか買うより絶対に得よ」


タイ北西部、ミャンマーとの国境に近い難民キャンプでHIV感染を取材(P110)
「ココナッツ・・・・・・どうしてそんなものをペニスに注射したんですか。麻薬と同じような効果でもあるとか?」
「いや、そんな複雑なことじゃありません。単純に、ペニスを大きくしたかったらしいんです。若い男なら、みんな巨根に憧れますよね。ペニスが大きくなれば女にモテると信じ込んで、仲間たちと集まってココナッツの汁を注射したそうなんです。どうやら、彼らの間ではココナッツの汁を注射すると、ペニスが大きくなるという迷信があるようなのです」(中略)
私はそれを聞いて、もし本当だとしたら、HIV感染が拡大している要因の1つなのではないかと思った。


1994年総人口の10分の1が、たった3ヶ月間で殺害された。
今は平穏なように見える、フツ族とツチ族も平和に共存しているように・・・。
ルワンダ虐殺の記憶について取材する。(P246-263)
「誰も語らないだけで、あのときの記憶は今もまだ脳裏にしっかり焼きついているんだな」と私はつぶやりた。
ルンドはうなずいた。
「忘れられるわけないだろ。永遠に忘れられないよ」

・・・これは、読んでみて、今回取材の中でも屈指の内容。
これと、枯葉剤の影響調査に、
ベトナムに行った「奇形児の谷」(P133)が秀逸。

【参考リンク】
『飢餓浄土』刊行直前インタビュー

【ネット上の紹介】
人食い日本兵の亡霊、乳飲み子を抱くオカマ、奇形児を突き落とした産婆、人間の死体を食い漁る野犬……棄民たちの世界を象るグロテスクな「幻」が露にする、戦場・密林・路上の実像。
[目次]
第1章 残留日本兵の亡霊(敗残兵の森;幽霊船 ほか);第2章 性臭が放つ幻(せんずり幻想;ボルネオ島の嬰児 ほか);第3章 棄てられし者の嘆き(奇形児の谷;横恋慕 ほか);第4章 戦地にたちこめる空言(戦場のお守り;餌 ほか)