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「テルちゃん」玄侑宗久

2011年08月09日 22時49分11秒 | 読書(小説/日本)


「テルちゃん」玄侑宗久

正式な名前はエテル、でも皆からテルちゃんと呼ばれるフィリピン女性の物語。
フィリピンから嫁いできたのに、夫が急死する。
義理の母を介護しながら、子どもを育てるテルちゃん。
夫の生命保険と義母の年金で生活するが、目減りする一方。
そんなテルちゃんの、日本での日常を描く。

連作長編で、3編から成る。
「ぶわん」「ばろっと」「おぼん」
日本昔話と絡めながら、本編が進んでいく。
興味深い文章を紹介する。

P83
「浦島太郎みたいなお話は、フィリピンにはないの?」
「え」
「大きな海亀とか、いるでしょ」
「はい」
「子どもたちがいじめたりとか、ないの?」
「亀は、神さまの使いですから」
「・・・・・・・・・」


ちなみに(物語とは関係ないが)、海亀はワシントン条約により取引が規制されている。(byたきやん)
ウィキペディアによると次のように説明されている。
ヒラタウミガメを除く全てのウミガメは、IUCNレッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されている。特に、オサガメ、タイマイ、ケンプヒメウミガメの3種は「絶滅寸前」 (CR : Critically Endangered) とされもっとも絶滅の危険が高くなっている(2006年現在)。

P120
「だけどあれも、不思議な話だよな」
「・・・・・・なにが」
「亀を助けたことを、なんで乙姫さまはあんなに感謝するの?」
「・・・・・・妙な読み方をするのねぇ」
「だけど不思議だろ、亀と乙姫さまの関係」
「またあなた、・・・・・・嫌らしいこと考えてるんじゃないでしょうね」
「ちがうよ。だけど亀を助けたくれたからって、なにも鯛や平目まで踊ることないだろ。亀が勢揃いして踊るならわかるけどさ」
玲子は亀のラインダンスを想像し、思わず吹き出した。
「だけど鯛や平目だって嬉しかったんでしょ、亀が助かって」
「いやぁ、いいねぇ、その解釈。だけどあの踊りは乙姫さんが陰で糸引いてるわけだよ。そんでその陰に潜んでるのが、龍ってことだろう。乙姫さんは龍の奥さんさんだろ」
「・・・・・・ああ」
なんだか虚をつかれ、玲子は呆けた返事しかできなかった。


【ネット上の紹介】
フィリピンから北の町に嫁いできたエテル、愛称テルちゃん。幸せな結婚生活もつかの間、夫が急死。風習の違う日本に残って子供を育てながら奮闘する彼女の行く手に待っていたものは…。義母の介護と死、予期しない青年のプロポーズなど、さまざまな事件を乗り切って行く満月みたいなまあるい心のテルちゃん。今やなつかしき人と人との触れ合いを描いた、涙と笑いのほのぼの物語。