百醜千拙草

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パロディー捏造論文

2007-11-27 | Weblog
ここ100年間での人口爆発と産業革命に起因する急激な地球環境の変化に対する人々の問題意識はここ数年ますます増大してきています。温暖化をはじめとする地球の環境の不可逆的な変化は、「人間の活動」が主たる原因であると考えられており、先進国では車や工場が主に化石燃料を燃焼させる事によって生じる二酸化炭素が、地球温暖化の主な原因であると信じられています。この100年間で大気中の二酸化炭素の量は約30%も増加したというデータがあります。植物は光合成によって空気中の二酸化炭素を光合成によって固形の有機化合物に変化させて空中の二酸化炭素を減らすことができますが、生命活動の維持にはこの有機炭素化合物を再び二酸化炭素と水へと還元することが必要となりますから、これらのアナボリズムとカタポリズムのバランスがうまくとれないと、空中の二酸化炭素量がすぐ上昇することになります。現在そうした二酸化炭素のシンクとなっているのが海底で、微生物により固化された二酸化炭素が海底深く沈んでいます。海の微生物の活動が空中の二酸化炭素の緩衝作用の大きな部分を担っているといってもよいと思います。ですから気球規模で海底微生物のバランスが崩れることは、地球温暖化にそうとうな影響を与えるであろうことは皆が危惧していることです。もちろん、人間の二酸化炭素をつくり出す様々な活動を抑制するというのが、諸悪の根源を断つための唯一の策なのですが、一旦、高エネルギー要求性の現代の便利なライフスタイルに慣れてしまった人類が、エネルギー活動を抑制するのは容易なことではありません。京都プロトコールは、二酸化炭素排出抑制に向けての最初の一歩だったのですが、プロトコールの目指した数字というのは、地球温暖化を食い止めるにはとても効果が期待できない程度の目標であった上に、アメリカなど地球温暖化を推進している産業国がそのプロトコールでさえ守ることができないと努力を放棄してしまいました。まもなく京都プロトコールが失効するにあたって、次世代の地球温暖化対策をどうするかで専門家は頭を悩ませています。地球温暖化は予測よりもずっと早いペースで進んでおり、遠くない将来、北極や南極の氷の融解による海面の上昇のため陸地の多くの場所が水没し、異常気候が惹起され、農作物に多大の影響を与え、食料危機を引き起こすであろうと予測されています。専門家は地球温暖化はすでに非常事態に突入していると考えており、京都プロトコール以上の厳しい目標を設定して遵守しない限り、地球は壊滅的打撃を受けることになると警告しています。
 にもかかわらず、未だに将来の地球よりも目先の問題にしか目が向かない人は多いわけで、地球温暖化対策の現在唯一の方法である脱産業化は、先進諸国での大多数の人々の生活に多大な影響があることは間違いなく、「人間の活動によって地球が温暖化している」という常識に反対しようとする人もいます。温暖化の抑制に向けての努力を小手先の技術でごまかそうと考える人も多く、それに対して、最近のNatureのコメント欄では、よく言われる喩えを用いて「タイタニック号の甲板の椅子を並べ替えているような場合ではない」と厳しく非難しています。
さて、地球温暖化に関して最近話題になっている、ある「論文」があります(ありました)。この The Journal of Geoclimatic Studiesという雑誌に掲載されたとする、「 Carbon dioxide production by benthic bacteria: the death of manmade global warming theory? 」というタイトルの「論文」は、空気中の二酸化炭素の上昇は、主に太平洋と大西洋の大陸棚の海底にすむ腐生真性細菌の増殖のせいであると述べてあります。海底微生物の活動が二酸化炭素濃度に影響を与えうるのは述べた通りですから、海底微生物のバランスが崩れると、急激な二酸化炭素の上昇がおこることは理屈上、考えられます。この論文は、アリゾナ大学のDaniel A. Kleinなる人物をはじめとするグループが執筆したことになっており、このジャーナルの出版局は、沖縄大学の気候学部でタナベヒロコなる人が責任者となっています。ところが、沖縄にある理系学部を持つ大学は琉球大学で、沖縄大学気候学部という学部はありませんし、調べてみるとアリゾナ大学にもDaniel Kleinなる教官はいないし、そもそも著者が属していたとされるDepartment of Climatologyという学部さえ存在しないということが分かり、この論文はでっちあげであることが明らかになりました。実はこのでっち上げ論文の意図は、「人間の活動」が地球温暖化の主原因であるという主張に反対している人々が、如何に科学的に無知であるかを証明するための実験であったと、自称、「本当の著者」のMark Coxなる人がScience誌にコンタクトしてきたそうです。そして実際に、このでっち上げ論文のニュースを掲載したイギリスのWeb siteを見て、いくつかの地球温暖化人災説に反対するWeb siteがこの論文を、(でっちあげであることを知らずに)取り上げたらしいです。(でっち上げであることがわかってから、消去されました)専門家によると、論文は一見あたかも本物のように見えるが、よく見ると基本的な内容に明らかな問題があるらしく、本当に反地球温暖化人災説者の人の知能テストであったのかも知れません。例えば、論文では、藻の繁殖によって、二酸化炭素を産出する細菌を餌とする Tetrarhynchia属の brachiopod molluscsに属する生物が減少したと述べられているのですが、実はbrachiopodとmolluscsは全く独立した動物門であるそうです。(最近の捏造科学論文の出来具合をみると、やる気ならば専門家にも分からないほどのウソをつくのは難しい事ではないのですから、わざと誤りを導入してあるようにも見えるそうです)
 「科学」という世の中を理解するための方法が唯一最上であるとは思いませんが、万人にとって科学よりも良いと思われる体系が現時点でない以上、科学的根拠をもって議論をすべきであるのは当然です。勿論、それを必ずしも信じる必要はありません。その科学的根拠というものが、実は結構危うい土台に立っているのだということを認識させられたのが、一連の論文捏造事件やこういったパロディー論文だと思います。ガリレオの時代の科学の常識と現代の常識は異なりますし、解釈するのは人間ですから、科学研究の結論が必ずしも一致するというものでもありません。しかし「悪法も法」の喩えのように、「科学的根拠をもって議論する」というルールで話し合いが行われる現代では、科学的でありさえすれば、良い科学も悪い科学も同様の価値を持ち得ます。それを悪用しようとするのは、それほど難しいことではないのです。今回の事件で私は、科学の危うさを再認識したような気になりました。
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