百醜千拙草

何とかやっています

コーンバーグの死去に因んで

2007-11-30 | 研究
ノーベル賞科学者、アーサーコーンバーグは、遺伝子工学の基礎となった種々の重要な発見をした近代DNA生化学の巨人でしたが、先月末に亡くなりました。その追悼文が、最近のCellにUC BerkeleyのRandy Schekmanにから寄せられています。彼は自分にとって最も重要なmentorとして、コーンバーグとそして少し先立って亡くなったDan Koshland(UC Berkeleyの生化学教授で、前Science誌のChief-Editor)を挙げています。コーンバーグの試験管の中でのDNAの合成、DNA polymeraseの発見 (この歴史的な発見を記述した論文はDNAをテンプレートとしてDNA PolymeraseがDNAを合成することを最初に示したのですが、当初、試験管で合成されたDNAが本当のDNAでないと最後まで疑ったJBCのエディターがアクセプトを拒否したそうです)を始めとする、遺伝子工学の先駆けとなった輝く業績は、ハードワークと基礎を大切にするコーンバーグスタイルの賜物であったと述べられています。最近のトランスレーショナルリサーチに重点を置く風潮を公然と非難し、基礎研究の重要性を喧伝したとあります。(応用研究ではなく)基礎研究が医学の実際的な発展に最も寄与してきているのは事実であって、基礎研究の進歩なしには医学は後退し魔術と同じレベルになってしまうと言ったそうです。私もトランスレーショナルが悪いとは言いませんが、限りある研究資金はまず必要な基礎研究の充足に使われるべきであると強く思います。基礎をおろそかにした応用とは砂上に楼閣を築くようなものです。
また、この追悼文では、ジムワトソンについて触れられています。(何かにつけ話題になる人ですね)ワトソンの「Double Helix」はゴシップ本であるとクリックも含む複数の人が批判しましたが、それとは別に、コーンバーグは、ワトソンが後進の若い研究者に「科学で成功するためには、素晴らしいアイデアが一つあればよいのだ」というような誤った印象を与えてしまったのではないかと危惧していたと書いてあります。基礎を重視し、ハードワークを信条としていたコーンバーグならではでしょう。確かにワトソン、クリックの二重螺旋構造は素晴らしいアイデアですが、ゼロから思いついたわけではなく、ロザリンドフランクリンやモーリスウィルキンスのDNA結晶解析のデータを知っていたからではないでしょうか。事実、クリックはロザリンドフランクリンを共著者にしようとしたそうですが、彼女の方が辞退し、彼女の論文は独立にBack-to-backで同号のNatureに掲載されることになったのでした。言ってみれば、ワトソンはおいしい所だけを盗んで、レビューもなしでNatureに論文が載り(エディターが、この論文のモデルが正しいのは自明であると言ってレビューなしでアクセプトしました。「自明」ならば科学の発見ではないのではないかと思うのですが)、そしてノーベル賞を貰い、ある意味、その一本だけで一生うまくやってきた訳ですから、確かに「よいアイデア一本で大成功できた」極めて稀な例で、arrogantになるのもわからないでもありません。フランクリンが癌で早世することがなければ、4人のノーベル賞は認められませんから、ワトソン、クリック、ウィルキンスが賞を貰う時期は誰かが死ぬまで遅れたはずで、ワトソンのトントン拍子も出だしでずっこけていたかも知れません。因に、コーンバーグの学者の血は受け継がれたようで、息子であるRoger Kornbergは2006年のノーベル化学賞を受けています。
コメント (1)
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