子供の頃は、近所に川があったり少し歩けば山があったりしたので、一年中出かけていってはムシを探したり、沢ガニを採ったりしていました。大人になったら自然の中で生活するというのが夢でしたが、なんだかんだで未だに実現できずにいます。しばらく前、子供のころ遊んだ山や川を訪れてみましたら、高速道路が通っていたり、住宅地になっていたりしていました。そうした開発以外にも、様々な様式で環境は変化(多くの場合、悪い方向に)していっていますが、近年、地球温暖化が目に見える形で人々の前に現れてきたためか、環境に関する人々の意識は高まってきていると思います。四季のある日本では、それぞれに風物詩がありますが、温暖化の影響は冬にもっとも現れてくるようです。雪国では積雪量が減ってきていますし、「御神渡り」で有名な諏訪湖は氷結しない年がでてきて、神様も通らなくました。
さて、この季節はお正月に向けての商品が並びますが、私がお正月と聞いてなんとなく思い出すのは高橋由一の「鮭」の油絵です。実物は西宮の大谷美術館での展覧会で一度だけみたような記憶があります。なぜこの鮭がひもで吊るされただけの絵がこんなにも有名なのかわかりませんが、確かにこのようなモチーフは西洋の絵画には見られないものだろうし、言われてみると東洋のワビサビみたいなものを感じさせなくもないと思います。また冷静に考えると、私の中でこの鮭の絵とお正月が繋がるというのも不思議なのですが、寒い国で穫れる鮭というイメージが冬と繋がっているのかも知れません。塩鮭やスモークドサーモンは私も好物だったのですが、その野生の鮭が鮭養殖によって危機にさらされているという話が先週号のSceienceに出ていました。同号のSceinceでは、近年の環境問題に対する意識の高まりを反映してか、レビューを含めて18本の論文のうち、エコロジー関連の論文が4本もあります。そのうちの一本で、カナダのある特定の地域で寄生虫によって野生の鮭が激減しているということが報告されています。寄生虫による死亡が直接原因ではあるのですがですが、論文では鮭の養殖場がその寄生虫の繁殖場となっている、つまり人間の養殖活動が原因である、と結論しています。この寄生虫、Salmon liceは鮭の体表に取り付くのですが、取り付いた病変部が鮭の体液調節に影響をおよぼすそうです。この寄生虫は海水中に住んでいるので、海で生活する大人の鮭にはしばしば付いているらしいのですが、大人の鮭で致死的な影響を与えることは少ないそうです。しかし、鮭の稚魚にこの寄生虫がつくと場合によっては80%以上の確率で致死となるそうです。幸い、この寄生虫は川にはいないので川で育つ子供の鮭に寄生することはなかったのです。この論文の著者らはカナダ西海岸の同地域の川を調べて、河口付近に鮭の養殖場のある川を通るピンクサーモンの寄生虫の感染率が高く、その流域での野生のピンクサーモンが減少していっていることを発見したそうです。そのメカニズムとしての大人の鮭についた寄生虫が養殖場で繁殖し、その川を通る鮭の稚魚に取り付くのではないかと考察しています。つまり養殖所が病原寄生虫の繁殖所となっているわけです。これは人間社会での「院内感染」を思い起こさせます。老人病院では疥癬症が集団発生することがありますし、なんでもない手術で入院したら、病院で育まれた薬剤耐性菌に感染して死亡してしまった例などを見聞きします。病気を治したり、療養したりする施設が逆に病原菌の繁殖所となっていることは問題になっています。この鮭の場合、養殖によって鮭の生産を上げようとする行為が、野生の鮭の危機を招くことに繋がっているということです。論文では、この寄生虫のために現在の割合で鮭の稚魚が死んでいくと、8年後には養殖所のある川では野生の鮭の絶滅が危惧されると述べられています。もちろん相関関係をみたこの手の研究では、因果関係を厳密には結論できないので、この論文の結論に反対する人もいるようですが、問題は因果関係が証明できるまで待っていては、野生の鮭は絶滅してしまう可能性があるという、その減少度の急激さなのです。
昔は自然は人間の力など及ばない程、偉大なものでした。最近のこうした話を聞いていると、人間の自然利用による環境変化の積み重ねによって、自然が自己治癒力を失ってしまうほどに脆弱化しているように感じてしまいます。私は「大人になったら」大自然の中で生活するという目標を、「無事に引退できたら」に目標変更しましたが、それまで自然の方が待ってくれるかどうか心配です。
さて、この季節はお正月に向けての商品が並びますが、私がお正月と聞いてなんとなく思い出すのは高橋由一の「鮭」の油絵です。実物は西宮の大谷美術館での展覧会で一度だけみたような記憶があります。なぜこの鮭がひもで吊るされただけの絵がこんなにも有名なのかわかりませんが、確かにこのようなモチーフは西洋の絵画には見られないものだろうし、言われてみると東洋のワビサビみたいなものを感じさせなくもないと思います。また冷静に考えると、私の中でこの鮭の絵とお正月が繋がるというのも不思議なのですが、寒い国で穫れる鮭というイメージが冬と繋がっているのかも知れません。塩鮭やスモークドサーモンは私も好物だったのですが、その野生の鮭が鮭養殖によって危機にさらされているという話が先週号のSceienceに出ていました。同号のSceinceでは、近年の環境問題に対する意識の高まりを反映してか、レビューを含めて18本の論文のうち、エコロジー関連の論文が4本もあります。そのうちの一本で、カナダのある特定の地域で寄生虫によって野生の鮭が激減しているということが報告されています。寄生虫による死亡が直接原因ではあるのですがですが、論文では鮭の養殖場がその寄生虫の繁殖場となっている、つまり人間の養殖活動が原因である、と結論しています。この寄生虫、Salmon liceは鮭の体表に取り付くのですが、取り付いた病変部が鮭の体液調節に影響をおよぼすそうです。この寄生虫は海水中に住んでいるので、海で生活する大人の鮭にはしばしば付いているらしいのですが、大人の鮭で致死的な影響を与えることは少ないそうです。しかし、鮭の稚魚にこの寄生虫がつくと場合によっては80%以上の確率で致死となるそうです。幸い、この寄生虫は川にはいないので川で育つ子供の鮭に寄生することはなかったのです。この論文の著者らはカナダ西海岸の同地域の川を調べて、河口付近に鮭の養殖場のある川を通るピンクサーモンの寄生虫の感染率が高く、その流域での野生のピンクサーモンが減少していっていることを発見したそうです。そのメカニズムとしての大人の鮭についた寄生虫が養殖場で繁殖し、その川を通る鮭の稚魚に取り付くのではないかと考察しています。つまり養殖所が病原寄生虫の繁殖所となっているわけです。これは人間社会での「院内感染」を思い起こさせます。老人病院では疥癬症が集団発生することがありますし、なんでもない手術で入院したら、病院で育まれた薬剤耐性菌に感染して死亡してしまった例などを見聞きします。病気を治したり、療養したりする施設が逆に病原菌の繁殖所となっていることは問題になっています。この鮭の場合、養殖によって鮭の生産を上げようとする行為が、野生の鮭の危機を招くことに繋がっているということです。論文では、この寄生虫のために現在の割合で鮭の稚魚が死んでいくと、8年後には養殖所のある川では野生の鮭の絶滅が危惧されると述べられています。もちろん相関関係をみたこの手の研究では、因果関係を厳密には結論できないので、この論文の結論に反対する人もいるようですが、問題は因果関係が証明できるまで待っていては、野生の鮭は絶滅してしまう可能性があるという、その減少度の急激さなのです。
昔は自然は人間の力など及ばない程、偉大なものでした。最近のこうした話を聞いていると、人間の自然利用による環境変化の積み重ねによって、自然が自己治癒力を失ってしまうほどに脆弱化しているように感じてしまいます。私は「大人になったら」大自然の中で生活するという目標を、「無事に引退できたら」に目標変更しましたが、それまで自然の方が待ってくれるかどうか心配です。