百醜千拙草

何とかやっています

挫折と成功と骨密度測定機

2007-12-25 | Weblog
先週末、一年前から見たかったWill Smithの映画、「Pursuit of Happyness」をDVDで見ました。「Happyness」はサンフランシスコの中華街の託児所の壁の落書きに由来しています。売れない医療機器の個人セールスマンの主人公が、小さな子供を連れてホームレスまで身を落とします。フェラリーに乗った証券マンとの出会いがきっかけで、証券マンとなるべく、シェルターで生活しながら、証券会社のインターンをし、ついに20倍の関門を突破して正社員に採用されるという実話をもとにした映画です。Will Smithと子役の彼に実子の好演が光っています。私は日本人のせいか、この手の映画に弱いのです。幼い子供を連れ、将来の希望も見えず苦労と困難が連続する中、ぎりぎりの所で踏ん張っている主人公、売れない研究者生活が長い私にとっては自分のことのようです。ポスドク時代になかなか論文が出なかった時は、私も小さい子供を連れて路頭に迷う夢をしばしば見ました。将来の安定性いう点では現在も状況としては良くなっているわけではありませんが、そうした不安は不思議と感じることが少なくなりました。映画が教えてくれていること、また自分自身の経験で学んできたことは、「最後まであきらめない者が勝つ」ということだと思います。私は意志が強いわけではないのですが、かなりあきらめが悪い方です。意志は弱い方でしたが、あきらめが悪いので、強い意志を持たねばならない状況にしばしば追い込まれて、意志の方も多少鍛えられました。オスカーワイルドが「獄中記」の中で言ったように、人生の困難や苦難は、実は「啓示」であり天のはからいなのだろうと思います。自らの人生に与えられる困難を耐えて乗り越えること、それ以上に素晴らしいAchievementはないのでないかと思います。映画の中で、Will Smithが、アメリカ独立宣言の中の「幸福を追求する権利」を引いて、幸福は追求しても決して与えられないのかも知れないと苦労の中つぶやくのですが、最後の最後に正規社員採用を知らされて「幸福」を実感するにいたります。本当の幸福というものは、全身全霊をかけて求めて、はじめて与えられるものなのでしょう。
ところで、主人公は実はポータブルの骨密度測定機のセールスマンという設定なのですが、映画の舞台であった80年初頭には、おそらくそういう機械は存在していなかったのでは、と思ったのでした。90年代の私が大学院時代に、臨床義務の割当の一環として、骨密度の測定をやっていたのですが、当時の骨の密度の測定は、主にはSingle photon absorptiometry (SPA) というγ線の放射性同位元素を使ったもので、X線を使った現在主流となっているDEXAと呼ばれる骨密度測定機はようやく市場に出たか出なかったかという時代でした。放射性同位元素をポータブルの機械に入れて自分のアパートにおいておく事などできないでしょうし、半減期が来るごとに放射性同位元素は新しく入れ替える必要があるので、映画での機械はX線を使ったものである筈です。超音波を使う骨密度測定装置があることはあるのですが、それはDEXAよりももっと後にできたものなので、状況を考え合わせると、映画での設定ではポータブルのDEXAであろうと思われます。しかし、それでもそう考えるとこれは80年初頭にそういう機械が存在したとは考えにくいので、実際のモデルでは違うもののセールスマンであったのであろうと思います。このポータプル骨密度測定機は、この映画の中で、成功、失敗、希望、人生などのさまざまなものの象徴として扱われているのですが、どうして実際には存在もしなかったであろう「骨密度測定機」という設定にしたのか、ちょっと謎です。誰がこのアイデアを思いついたのでしょうか。映画のモチーフはありがちなのですが、Will Smithとその子供の演技が良かったこと、自分の身につまされる話であることから、個人的には、中々の映画だったと思います。
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