百醜千拙草

何とかやっています

無党派マッケーンの戦略

2008-09-09 | Weblog
いい加減に大統領選の話はやめようと思ってはいるのですが、マッケーンのスピーチについて何も言わないのもどうかと思い書き留めておくことにしました。これで終わりにして、少なくとも11月の投票までは大統領選については触れない予定です。
 先週末、共和党党大会で共和党大統領候補のマッケーンが演説をしました。マッケーンの大統領候補指名受諾の演説は、さすがにオバマの悪口に終始したペイリンの演説とは違い、党派をこえてアメリカ人全体に呼びかけるような形となりました。政策面で、オバマとの対比を用いることはありましたが、オバマへの攻撃は殆どなし。ある意味、非常に優等生的で好かれるスピーチ、悪く言えばピンボケという感じでした。共和党の悪政を叩き、力強い政策をアピールできる民主党と異なり、マッケーンはリベラルとはいえ共和党候補、立場上言いたくないこと、言えないことが多いわけです。ブッシュの悪政で一番困っているのは、実は同じ共和党のマッケーンでしょう。演説中にブッシュに触れたのは、イラクへの増員を決めた時の話のみで、なるべく現共和党政権には触れないようにしていました。民主党は、マッケーン政権は第三期ブッシュ政権に他ならないという批判を展開していますから、マッケーンとしては、それを肯定する様な言動は一切できませんし、かといって、同じ共和党の現政権をおおっぴらに批判することもできません。なんといっても、ブッシュ政権を成立させたのはマッケーンの力によるところが大きいわけですし。マッケーンは政治をよくするためにワシントンに「Change」をもたらすと言いました。これはとりもなおさず、現共和党政権に対する自己批判ですから、オバマが「Change」を叫ぶようには、大きな声では言えません。しかし、実際のところはマッケーンは共和党と言っても、がちがちの保守派ペイリンとは違い、リベラル中道ですから、本来、共和党の中核をなしている田舎の時代遅れの白人を支持基盤とする保守派とは相容れない所があります。どう考えても都会に住む現代人とは頭の作りが違うとしか思えないペイリンをVP候補にしたのも、おそらく田舎のガチガチの保守派票を確保するという目的もあったのでしょう。スピーチでは、マッケーンは自ら、Maverickであるといい、共和党であるが、ガチガチではないリベラルであることを強調し、民主党派、共和党派という党派以前にアメリカ人は、みなアメリカ人であり、自分は、党や自分自身やある特定の人のために働くのではなく、一般アメリカ人のために働いていくのだということをアピールしました。これによって、民主党票や独立票の一部を取り込もうという戦略です。マッケーンとしては微妙な立場です。共和党保守派からはリベラルで信用できないと思われる一方、民主党をはじめとする党外からは、なんだかんだ言ってもマッケーンは共和党でブッシュ路線と思われています。共和党でありながら、ブッシュから距離を取らねばならないマッケーンはリベラルであることをむしろ強調して、「共和党も民主党も関係なく、皆のために働くよ」と言うしかないわけです。うまくいけば、オバマを支持したくない非共和党の人々が、「皆のために働いてくれるマッケーン」に投票してくれると期待しているのでしょうでしょうが、一方では、これは立場のしっかりしない頼りがいのない八方美人ととられて、逆効果にもなりかねませんし、共和党の中核をなす保守派の反感も買いかねません。このあたりがピンボケスピーチの原因ということでしょう。ペイリンをVP候補に選んだことで、保守派を押さえる一方、自分のリベラル派としての寛容さを全面に出して、共和党外にもアピールするという戦略でしょうが、二兎を追うもの一兎も得ずの喩えのように、プラスとマイナスが打ち消し合って、共和党外からも共和内からも敬遠されてしまうことも考えられます。8年前のブッシュ、ゴア選の時には、マッケーンが大統領選脱落後、マッケーン支持のリベラル層の票のおかげで、ブッシュが勝てました。8年後、マッケーンは、そのブッシュの悪政のために恩を仇で返された形となり、苦しい立場に追い込まれています。土俵際に追いつめられて、捨て身のペイリン抜擢という奇策を繰り出したところに、その苦しさが見てとれます。ここで唯一、マッケーンがとれる手は、彼自身の人間的魅力、包容力を見せて、一政治家ではなく一人の人間としてアピールし、党派を越えて、個人のレベルで語りかけることしかありません。そして、実際、マッケーンはそうしたのでした。オバマのようなプリーチャーではないマッケーンは、いつもの朴訥としたしゃべりで不器用に語りかけました。民主党を強く攻撃することもできず、共和党の自己批判を展開するわけにもいかない八方ふさがりのマッケーンに残された戦略、同胞アメリカ人に個人レベルで語りかけること、においてマッケーンの不器用なしゃべりはかえって誠実さのアピールに役立ったかもしれません。私は、マッケーンを個人的には嫌いではないし、こんな状況で選挙戦を戦わなければならなくなったことに、むしろ同情しています。しかし、いくらリベラルのMaverickとはいえ、共和党は共和党、坊主憎けりゃ袈裟まで憎し、共和党に次期政権を取らせるわけにはいきません。万が一、共和党政権となって、そして、大分勘違いが入っていそうなペイリンが余計なことをやりだしたりすると、良識あるアメリカのアカデミアと一般国民は引き続いて、不条理な困難を押し付けられそうな気がします。共和党保守の人には独特の臭気があって、今のアメリカ政治にもっとも相応しくない人々です。ブッシュやペイリンがそのステロタイプに思えます。
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