先月末、10/28に一分子法によるシークエンシング技術の進歩について書き留めたのですが、その後、11/6日号のNatureで、一分子シークエンシング法の開発をめぐっての記事がありました。
私は知らなかったのですが、ヒトゲノムプロジェクトのフランシスコリンズがつい最近まで所長を勤めていた NIHのヒトゲノム研究所(NHGRI)でも、高速で安価なシークエンス技術に投資してきており、その中心となる技術がナノポア(nanopore)シークエンシングという技術だそうです。前回紹介したように、一分子シークエンス法はヘリコスがすでに商業化していますが、より長いリードをより高速に読むという点で、現在もっともその目標に近いのが、Pacific Biosciences社のSMRTといわれる技術で、シークエンスしたいDNAをテンプレートにDNAポリメラーゼで相補鎖を合成させる際の蛍光ラベルした塩基の取り込みをリアルタイムでモニターするという技術です。アイデアそのものは目新しいものではないのですが、これをDNA一分子で行い、かつナノのレベルの正確さで蛍光を読み取るための技術というのはそう簡単に達成できるものではありません。しかし理論上、この技術では、DNAポリメラーゼの合成スピード、通常一分に1000塩基、という早さで読めるわけですから、現行の大量シークエンシングのスピードとは比べ物にならない速さです。速さで言えば、ポリメラーゼ反応などの化学反応を使う技術よりも、通常は物理的特性を検出する方が速いわけで、前回紹介したように日本やカリフォルニアでは、電子顕微鏡を使って、一本の梯子状に引き延ばしたDNAを顕微鏡で直接観察して塩基を読む方法を開発中の会社もあります。こちらだと長距離の連続した配列を一瞬で読んでしまうことが可能ですが、実用化はちょっとまだ先のようです。
ナノポア技術というのは、物理的シークエンシングの技術で、アルファヘモリジンという蛋白によって生体膜に開けた穴をDNAを通過させ、その時に生じる塩基特異的なイオンの流れを測定することで配列を決めようというアイデアです。ちょっと聞いただけでも、余りにsophisticateされ過ぎていて、これは使えないだろうという印象を受けます。イギリスに本拠を置くOxford Nanopore Technologiesという会社が主に開発を進めていますが、速度の問題(イオンのフローを測定するためには、ある一定時間DNAの一塩基がナノポアに留まる必要がある)、大量平行プロセッシングの困難さ(現在ようやく128同時平行)、正確さの問題(微妙なイオンのフローの測定でノイズに弱い)などなど、問題が山積みで、Pacific Biosciences社のSMRTの進歩と比べると、ちょっと勝ち目はなさそうです。Harvard のGeorge Churchも、結局、目標とする技術は、早く、安く、多く、という点に要約されるので、その点から考えてもナノポアが生き残るのは難しいと考えているようです。(日本では、「ポア」という言葉の響きも、オウム真理教事件を思い出させて良くないですね)
この記事の中で、もう一社、Complete Genomicsというカリフォルニアの会社も紹介されていますが、この会社は「disruptive human DNA sequencing technology」というポリメラーゼではなく、ligaseを使ったシークエンシング法を開発し、使用しているようです。(確かABIの第二世代のシークエンサー、SOLiDもpolymeraseではなくligaseを使っていたように思います)この会社は現在、$20,000でゲノム解読を請け負っています。
ナノポアのアイデアは美しいのですが、どうも実用に向いていないような気がします。そういう例は他にもあると思います。例えば、マツダのロータリーエンジンとか。概念的にはロータリーエンジンは普通のシリンダー型のエンジンよりはるかに美しいのに、実用上は良くありませんでした。今使っているアップルコンピュータのシステムやGUI環境はウィンドウズよりはるかに美しいのに少数派ですしね。
私は知らなかったのですが、ヒトゲノムプロジェクトのフランシスコリンズがつい最近まで所長を勤めていた NIHのヒトゲノム研究所(NHGRI)でも、高速で安価なシークエンス技術に投資してきており、その中心となる技術がナノポア(nanopore)シークエンシングという技術だそうです。前回紹介したように、一分子シークエンス法はヘリコスがすでに商業化していますが、より長いリードをより高速に読むという点で、現在もっともその目標に近いのが、Pacific Biosciences社のSMRTといわれる技術で、シークエンスしたいDNAをテンプレートにDNAポリメラーゼで相補鎖を合成させる際の蛍光ラベルした塩基の取り込みをリアルタイムでモニターするという技術です。アイデアそのものは目新しいものではないのですが、これをDNA一分子で行い、かつナノのレベルの正確さで蛍光を読み取るための技術というのはそう簡単に達成できるものではありません。しかし理論上、この技術では、DNAポリメラーゼの合成スピード、通常一分に1000塩基、という早さで読めるわけですから、現行の大量シークエンシングのスピードとは比べ物にならない速さです。速さで言えば、ポリメラーゼ反応などの化学反応を使う技術よりも、通常は物理的特性を検出する方が速いわけで、前回紹介したように日本やカリフォルニアでは、電子顕微鏡を使って、一本の梯子状に引き延ばしたDNAを顕微鏡で直接観察して塩基を読む方法を開発中の会社もあります。こちらだと長距離の連続した配列を一瞬で読んでしまうことが可能ですが、実用化はちょっとまだ先のようです。
ナノポア技術というのは、物理的シークエンシングの技術で、アルファヘモリジンという蛋白によって生体膜に開けた穴をDNAを通過させ、その時に生じる塩基特異的なイオンの流れを測定することで配列を決めようというアイデアです。ちょっと聞いただけでも、余りにsophisticateされ過ぎていて、これは使えないだろうという印象を受けます。イギリスに本拠を置くOxford Nanopore Technologiesという会社が主に開発を進めていますが、速度の問題(イオンのフローを測定するためには、ある一定時間DNAの一塩基がナノポアに留まる必要がある)、大量平行プロセッシングの困難さ(現在ようやく128同時平行)、正確さの問題(微妙なイオンのフローの測定でノイズに弱い)などなど、問題が山積みで、Pacific Biosciences社のSMRTの進歩と比べると、ちょっと勝ち目はなさそうです。Harvard のGeorge Churchも、結局、目標とする技術は、早く、安く、多く、という点に要約されるので、その点から考えてもナノポアが生き残るのは難しいと考えているようです。(日本では、「ポア」という言葉の響きも、オウム真理教事件を思い出させて良くないですね)
この記事の中で、もう一社、Complete Genomicsというカリフォルニアの会社も紹介されていますが、この会社は「disruptive human DNA sequencing technology」というポリメラーゼではなく、ligaseを使ったシークエンシング法を開発し、使用しているようです。(確かABIの第二世代のシークエンサー、SOLiDもpolymeraseではなくligaseを使っていたように思います)この会社は現在、$20,000でゲノム解読を請け負っています。
ナノポアのアイデアは美しいのですが、どうも実用に向いていないような気がします。そういう例は他にもあると思います。例えば、マツダのロータリーエンジンとか。概念的にはロータリーエンジンは普通のシリンダー型のエンジンよりはるかに美しいのに、実用上は良くありませんでした。今使っているアップルコンピュータのシステムやGUI環境はウィンドウズよりはるかに美しいのに少数派ですしね。