百醜千拙草

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Chomsky's take on Trump

2016-11-18 | Weblog
前回、予備選の段階でのチョムスキーの大統領選に関する意見を紹介しましたが、その後、大統領選が終わった後のインタビュー記事が11/14に出たのを見つけました。

Trump in the White House: An Interview With Noam Chomsky

ちょっと長いので、飛ばし飛ばし適当に意訳してみました。興味のある方は原文を読んでみてください。カッコの補足などは原文にはないものです。

(質問)ノーム、考えられないようなことが起こってしまいした。予測に反して、ヒラリークリントンにトランプが勝ち、マイケルムーアが「卑劣で、無知で、危険なパートタイムの道化の、フルタイムの反社会人間」と呼ぶところの男が次のアメリカ大統領になることになりました。このアメリカ政治最大のどんでん返しとなった有権者の意思を決めたものは何だと思いますか?

チョムスキー:質問に答える前に、われわれがどう反応するかにもよりますが、人類の歴史で最も重要な日となるかもしれない11月8日に何が起こったのかをちょっと考えてみるのは重要だと思います。
誇張ではないですよ。
11月8日の最も重要なニュースはほとんど触れられることはなかったのです。このこと自体に意味があります。

11月8日、世界気候機構(WMO)は、COP21のパリ協定を推進するために開かれたモロッコの気候の変化における国際会議(COP22)において、報告を行いました。WMOは過去5年は史上で最も温暖化が進んだと報告したのです。さらに、海面の上昇、予想以上のスピードでの北南極の氷、特に南極氷河の融解が起こることを報告しました。北極海の氷の量は、すでに過去5年間、それ以前の過去29年の平均を28%も下回っているばかりか、北南極の氷による太陽光線の反射能の低下による冷却低下効果をもたらし、地球温暖化が促進していいます。WMOはまた、他の厳しい状況や見通しの報告とともに、現在の温度はCOP21で定めた限界温度に危険なほど近づいていると報告しています。

11月8日のもう一つの歴史的意義を持つかもしれない出来事もほとんど注意を払われませんでした。世界で最も強力な国が選挙を行い、その結果、政府、議会、最高裁、の完全なコントロールを共和党が握った問いうことです。これで、共和党は世界史の中で最も危険な組織となったのです。

最後の文句は突飛で言語道断に聞こえるかも知れませんが、そうでしょうか?この党は人類の生命の破壊に向かって突き進むことに専念しているのです。このような立場をとったものは過去に例がありません。これは誇張だと思いますか?われわれが今、目にしたものをよく考えてみてください。

共和党の予備選挙の間、ジェブ ブッシュのような中道者を除けば、すべての候補者が今、起こっていること(温暖化)を否定しました。ジェブ ブッシュは、全ては不確定であるが、水圧破砕法のおかげでもっと天然ガスを掘れるのだから、何も心配することはない、と発言しました。また、ジョン カシクは、温暖化が起こっていることは認めたが、「オハイオで石炭を堂々と燃やせばいい」と付け足しました。

最終候補、現在では次期大統領ですが、彼は、石炭を含む化石燃料の使用をもっと増加させるといい、規制を外し、再生エネルギーへと向かおうとする発展途上国を助けることを拒否し、総じていえば、崖っぷちへと一刻も早く向かおうと言っているのです。

トランプはすでに、環境保護院(EPA)を無くする第一段階として、悪名高い温暖化否定論者のマイロン エベルをEPA移行の責任者に据えました。エネルギー問題におけるトランプのアドバイザーである億万長者の石油会社役員であるハロルド ハムは彼の(政権移動後の)予測を述べましたが、予想されたものでした。規制の撤廃、企業と金持ちの減税、化石燃料の増産、オバマが止めたダコタ パイプラインの開通。株式市場は素早く反応しました。破産申請をした世界最大の石炭会社であるピーボディー エネルギーを含むエネルギー会社の株価は、トランプの勝利の後、50%も上がりました。
共和党の現実否定はすでに感じられます。、、、

(その後、バングラディシュを例に挙げ、海面の上昇と異常気象によって、バングラディッシュだけで数千万人の難民が出るであろうこと、この難民たちは、温暖化を作り出したアメリカなどの国へ向かうことになるであろうこと、人間が作り出した破滅的な環境の変化は悪くなりさえすれ、よくなることは見込めないこと、とりわけ南アジアでの被害が増えるであろうこと、現時点でもすでにヒマラヤの融氷によってインドでは三億人の人々が適切な飲料水が欠乏していること、などを述べています。また、もう一つの人類の生存を脅かす大きな問題は、核による破壊であると言っていいます。)

質問に戻ります。正確には、クリントンはトランプよりも多く票を集めたようです (100万票ほどクリントンが上)。トランプの勝利はアメリカの投票制度による(Electral College制)によるもの。興味深いのは、18-25歳の若年層においてクリントンははるかに支持が高く、サンダースはさらに支持が高かったことです。

現在の情報によると、トランプは白人層、労働者クラス、年収が5万ドルー9万ドルほどの中の下クラス、田舎、大学教育を受けていない層において、記録的な支持を受けています。これらの人々は中道派エスタブリッシュメントに対する怒りを共有しており、イギリスのEU離脱の投票結果と同じく、中道派政党の崩壊を示しています。多くの怒りは、過去のネオリベ政策の犠牲になったためです。前FRB議長のグリーンスパンの証言の通り、2007-08年の経済崩壊までの間の彼の成功は、「労働者の職の不安定さの増大」に基づいたものでした。虐げられた労働者は、ネオリベの基準からすれば健全な経済の指標である「上がらぬ給料や劣化する福利厚生」に文句をいうこともなかったのです。

このような経済セオリーの実験体となった労働者は、その結果に満足はしていません。ネオリベの経済の絶頂であった2007年でさえ、一般労働者の給与は以前よりも低く、男性労働者の給与レベルは1960年代と同等でしたが、一方で巨額の利益は上位1%のトップの懐に入ったのです。これは市場の圧力でも彼らの努力の結果でもなく、むしろ政治的決定によるものだと経済学者のDean Bakerは近年の論文で述べています。、、、

(以下、労働者の搾取を許すアメリカのシステムについての意見と、トランプ支持者の描写が続きます。)トランプ支持者は、トランプが彼らの酷い状況を改善するために何かをしてくれると信じさせらているのですが、実際の彼の政策はその逆です。

投票出口での調査では、トランプの支持者はトランプが「変化」をもたらすと見られているのに対して、クリントンでは苦境が続くことを示すと考えていることがわかりました。トランプが引き起こす「変化」はおそらく有害で悪い方への変化でしょうが、そうしたユニオンなどの組織を持たず、孤立化している地方の人々にとって、トランプの「変化」がどういうものになるかは、おそらくよく理解できていないのでしょう。(労働者の苦境という点においては)1930年代の大恐慌の時に多くの労働者が希望を持っていたことと、現在の労働者が絶望を抱えていることが決定的に違います。

他にもトランプの勝利に利したものがあります。研究によると、「白人優越主義」は南アフリカよりもアメリカ文化に強い力を持っています。将来、白人はマイノリティとなると予測され、従来の保守的文化が危機に瀕していると思われていることです。(白人優位のアメリカ文化が変わることに抵抗があるということ)

地球温暖化に関しては、40%のアメリカ人は何が問題なのかを理解していません。、、、

民主党は、労働者階層に対する真摯な関心を70年代までに捨ててしまい、以来、彼らから敵階級とみなされるようになりました。(共和党の)レーガンが親しみやすいジョークを言ったり、ジョージ ブッシュが発音をわざと誤ってみたり(Yale大学で彼があのように喋っていたとは考え難い)して、(普通の労働者階級のアメリカ人に仲間とみなされようとしたのと同じく)、トランプは、政党な怒りを持つ人々の声となったということです。

教義主義システムは人の怒りを、企業から(その企業がデザインした)政策を実行する政府へと向かわせました。企業と投資家の利益を過剰に守るためのシステムは一様に「自由貿易協定」とメディアでラベルを張り替えられます。
ビジネス界にとっては、人々の嫌悪が(資本家ではなく)政府官僚組織に向かい、政府が人々の総意を反映する、国民の国民による国民のための機関となるかもしれないという(期待によって起こる)反政府的な考え方に向かうことは、喜ぶべきことです。

(質問)トランプはアメリカ政治の新しい動きを示しているのですか、あるいは従来の政治にうんざりした人々の反ヒラリー票の現われですか?

新しさは何もないです。両党ともネオリベ期間の間に右傾化しました。現在の新民主党は、かつての「中道共和党」と呼ばれたものと同じです。バーニーサンダースが提唱した「政治改革」はアイゼンハワー(1950年代、共和党)を驚かせるようなものではありません。共和党は金持ちと企業優遇する方向へ向かったが、それでは票が取れないので、政治的に組織されていない団体へと近寄りました、キリスト教原理主義者、移民排斥主義者、人種差別団体やグローバリゼーションの犠牲者たちです。

その結果は明らかです。こうした支持層からの候補者、バックマンやケインやサントラムはあまりに極端なので、共和党主流派は彼らを降ろすのに苦労しました。2016年は、それ(共和党主流派によるトランプ降ろし)にしくじったのです。

クリントンは恐れ嫌われた政治を代表している一方、トランプは「変化」を代表しました。キャンペーンは彼の政策の吟味がされることなく成功しました。トランプは「アメリカ人全員を代表する」と言ったが、国がここまでひどく分裂しており、彼自身が女性やマイノリティーを含むアメリカの多数のグループに深い嫌悪を表明している中で、そんなことがどうしてできるのでしょうか?イギリスのEU離脱とトランプの勝利に類似を感じませんか?

イギリスのEU離脱、ヨーロッパの右翼化、国粋主義の台頭に(それらのリーダーはトランプの勝利を我がもののように祝福した)類似点が多く見られます。オーストリアとドイツの選挙を見てみると、1930年代の辛い時代の記憶が蘇ります。今だにヒトラーの演説は覚えています。意味はわからなかったが、その調子や聴衆の反応は身震いするようなものでした。

(質問)トランプには、経済、社会、政治問題における彼のスタンスを決めている政治理念が欠けているようですが、彼の振る舞いには、明らかに権威主義的なものがあります。トランプが「友達ヅラをしたファシスト」の台頭を示しているという意見は正しいですか?

私は、長年、カリスマ性のあるイデオローグの危険性について述べてきました。この社会にたぎっている恐れや怒りを利用して、それを本当の悪の根源ではなく、より壊れやすいターゲットにそれを誘導するような人間です。それが、社会学者バートラムグロスが「友達ヅラしたファシスト」と35年ほどの前の研究で呼んだものです。しかし、それは実直なイデオローグであることが必要です、ヒトラーのようなタイプです。つまり、唯一のイデオロギーは「自分だ」というような(トランプのような)タイプではない人間です。しかしながら、トランプを野に放った「力」を考えると、危険であることに間違いはありません。

(質問)共和党政権となり、上院、下院、最高裁を共和党がコントロールすることになるのですが、次の4年間、アメリカはどうなるでしょうか?

多くの部分がトランプのアドバイザーと誰が任命されるかによるでしょう。今のところ、あまり魅力的な人選ではないですが。

トランプがライアンのような財政政策を取るならば、裕福層には大きな恩恵があるでしょう。トップ0.1%の層は14%以上の減税となる一方、一般には全く減税はないと予想されます。、、、、
一つ明るい動きはトランプが約束したインフラストラクチャー政策です。これはオバマの経済振興政策と本質的に同じであるのですが、それを隠しています。共和党議会で、負債を増やすことを理由に潰されてきたものです。当時は、その通り(負債の増大を起こす)だったかも知れませんが、現在の低金利を考えると、確実にトランプの政策に組み入れられるでしょう。しかし、極端な裕福層への減税と国防省への予算増大とセットになって。

(インフラ政策反対者に向けて)逃げ道はあります。ディック チェイニーがブッシュの財政官オニールに「レーガンが 財政赤字は問題ないことを証明した」と説明した通りに。つまり、共和党が人気を得るために作り出した財政赤字は、誰か(民主党が望ましい)にツケを回して、後始末をさせれば良い、ということです。このテクニックは短期的にはうまくいくかもしれません。

(質問)トランプとプーチンはお互いを認め合っているようですが、アメリカーロシアの新たな関係についてはどうですか?

一つの希望的観測はロシアとの国境線での危険な緊張の緩和があるかも知れません。(ロシアとの国境であり、メキシコ国境ではありません)。また、ドイツのメルケルや他のヨーロッパの指導者たちにすでに見られるように、ヨーロッパがトランプのアメリカを距離を置こうとするかも知れません。ひょっとしたら、プーチンが復活させようとしているゴルバチョフが考えたような軍事同盟なしのユーラシア大陸安全保障システムの実現へと進むかも知れません。

(質問)トランプ下でのアメリカの外交政策は、オバマやブッシュ政権下以上に、軍事的なものになるでしょうか?

これについては自信を持って答えることはできません。トランプはあまりに予測不可能です。言えることは、動員と活動を組織化して行うことで、政策に大きな影響を与えることはできるということです。



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