政治に呆れて、俗世を離れ詩歌に遊ぶ、ちゅーわけではないですが、趣味の研究の方で楽しみたいと思います。
今週の論文ナナメ読み。
ヒストン修飾に関連した論文を幾つか。
Nature Structural & Molecular Biology 2017, Thomas Cechの論文、Molecular analysis of PRC2 recruitement to DNA in chromatin and its inhibition by RNA。(PMID: 29058709)
抑制性ヒストンメチル化 (H3K27me3)を触媒するPRC2がどのようなメカニズムでDNAのCpG領域にリクルートされるのかはよくわかっていない一方で、PRC2はいろいろな蛋白、RNAに結合することが知られています。この論文ではPRC2の結合蛋白AEPB2がメチル化DNAと相互作用することでPRC2を蛋白が結合していないCpG領域に呼び込むというモデルを提唱しています。かつ、RNAがPRC2のDNAへの結合を競合的に阻害することでPRC2の機能を抑制することを示しています。このことはなぜ転写活性の高いDNA領域では、PRC2機能が抑制されているかというメカニズムの説明になると考えられます。
この研究の結果は、かつてX染色体siliencingのモデルなどで示されたnon-coding RNAがPRC2を特定のゲノム領域にリクルートするというモデルとは合わないものですが、転写とPRC2の機能の関係を考えると、まず転写の変化が先にあってクロマチンサイレンシングが誘導されるのだろう、と想像します。
関連して、Nature論文。Polycomb-like proteins link the PRC2 complex to CpG islands.(PMID: 28869966 ) これは中国から。PRC2に結合するPCL蛋白がメチル化されていないCpG領域にPRC2をリクルートするという話。
同じく、PCLがらみで、これはドイツから。DNA binding by PHF1 prolongs PRC2 residence time on chromatin and thereby promotes H3K27 methylation. Nature Structural & Molecular Biology (PMID: 29058710)同じく、PCL蛋白であるPHF1がPRC2のDNA上での滞在時間を延長してその機能を増強するという話。
いずれもPRC2のDNAへの作用を変化させるco-factorの話で、生物学的な観点からは、PRC2の機能が細胞分化の過程で、どのように遺伝子特異的に制御されるのかというメカニズムに興味があります。
他に目に付いたもの。
JCI、 iPS研究所の新聞ネタになった論文。Activin-A enhances mTOR signaling to promote aberrant chondrogenesis in fibrodysplasia ossificance progressiva. (PMID: 28758906)
異所性骨形成を起こす遺伝病、FOPの遺伝子異常が見つかって約10年あまり。アクチビンレセプターという名前のBMPレセプターであるACVR1の点突然変異が弱いBMPシグナル系の恒常的活性を引き起こすことによって、軟部組織に骨形成が誘導されます。ACVR1の変異がリガンド/シグナル系の特異性を変化させて、アクチビンで活性化されるようになるということがわかり、アクチビンの抑制が効果があることが示されています。この論文では患者さんからのiPSを使って低分子化合物のスクリーニングを行い、mTORの抑制が疾病抑制効果があることをマウスモデルで示しています。確かにマウスモデルでRapamycinは効いているようです。新聞ネタになったのは、iPSでスクリーンニングを行って見つけた薬(と言っても昔からあるものですが)が臨床試験に入ったという理由でした。この論文で、生物学的に面白い点は、ACVR1の変異で起こるBMPシグナル系とmTORの経路をつなぐものとしてENPP2を同定。ENPP2が実際のメカニズムとなっているのかはもうちょっと別のモデルで検討が必要なようです。
論文ではないですが、臨床の興味深い症例の提示。不安定血圧を示す女性が運動後に急性心原性心不全を起こした例。病理では軽度の心筋の炎症と繊維化、心エコーで心尖部の拡大と心機能の低下が認められた。心尖部の拡大を特徴とする心筋症をタコツボ心筋症と呼ぶ疾患概念ができたのは17-8年前のようですが、Takotsubo cardiomyopathyとして国際的な認知を得たのはここ十年といったところのようです。国際的な学術用語となっている日本語はたくさんありますが、偉い先生方が「タコツボ」と真面目な顔で連呼しているのが面白かったので。件の症例は褐色細胞腫によるカテコラミン過剰に伴う二次的タコツボ心筋症で、内分泌的治療とその後の手術で軽快したとのこと。
今週の論文ナナメ読み。
ヒストン修飾に関連した論文を幾つか。
Nature Structural & Molecular Biology 2017, Thomas Cechの論文、Molecular analysis of PRC2 recruitement to DNA in chromatin and its inhibition by RNA。(PMID: 29058709)
抑制性ヒストンメチル化 (H3K27me3)を触媒するPRC2がどのようなメカニズムでDNAのCpG領域にリクルートされるのかはよくわかっていない一方で、PRC2はいろいろな蛋白、RNAに結合することが知られています。この論文ではPRC2の結合蛋白AEPB2がメチル化DNAと相互作用することでPRC2を蛋白が結合していないCpG領域に呼び込むというモデルを提唱しています。かつ、RNAがPRC2のDNAへの結合を競合的に阻害することでPRC2の機能を抑制することを示しています。このことはなぜ転写活性の高いDNA領域では、PRC2機能が抑制されているかというメカニズムの説明になると考えられます。
この研究の結果は、かつてX染色体siliencingのモデルなどで示されたnon-coding RNAがPRC2を特定のゲノム領域にリクルートするというモデルとは合わないものですが、転写とPRC2の機能の関係を考えると、まず転写の変化が先にあってクロマチンサイレンシングが誘導されるのだろう、と想像します。
関連して、Nature論文。Polycomb-like proteins link the PRC2 complex to CpG islands.(PMID: 28869966 ) これは中国から。PRC2に結合するPCL蛋白がメチル化されていないCpG領域にPRC2をリクルートするという話。
同じく、PCLがらみで、これはドイツから。DNA binding by PHF1 prolongs PRC2 residence time on chromatin and thereby promotes H3K27 methylation. Nature Structural & Molecular Biology (PMID: 29058710)同じく、PCL蛋白であるPHF1がPRC2のDNA上での滞在時間を延長してその機能を増強するという話。
いずれもPRC2のDNAへの作用を変化させるco-factorの話で、生物学的な観点からは、PRC2の機能が細胞分化の過程で、どのように遺伝子特異的に制御されるのかというメカニズムに興味があります。
他に目に付いたもの。
JCI、 iPS研究所の新聞ネタになった論文。Activin-A enhances mTOR signaling to promote aberrant chondrogenesis in fibrodysplasia ossificance progressiva. (PMID: 28758906)
異所性骨形成を起こす遺伝病、FOPの遺伝子異常が見つかって約10年あまり。アクチビンレセプターという名前のBMPレセプターであるACVR1の点突然変異が弱いBMPシグナル系の恒常的活性を引き起こすことによって、軟部組織に骨形成が誘導されます。ACVR1の変異がリガンド/シグナル系の特異性を変化させて、アクチビンで活性化されるようになるということがわかり、アクチビンの抑制が効果があることが示されています。この論文では患者さんからのiPSを使って低分子化合物のスクリーニングを行い、mTORの抑制が疾病抑制効果があることをマウスモデルで示しています。確かにマウスモデルでRapamycinは効いているようです。新聞ネタになったのは、iPSでスクリーンニングを行って見つけた薬(と言っても昔からあるものですが)が臨床試験に入ったという理由でした。この論文で、生物学的に面白い点は、ACVR1の変異で起こるBMPシグナル系とmTORの経路をつなぐものとしてENPP2を同定。ENPP2が実際のメカニズムとなっているのかはもうちょっと別のモデルで検討が必要なようです。
論文ではないですが、臨床の興味深い症例の提示。不安定血圧を示す女性が運動後に急性心原性心不全を起こした例。病理では軽度の心筋の炎症と繊維化、心エコーで心尖部の拡大と心機能の低下が認められた。心尖部の拡大を特徴とする心筋症をタコツボ心筋症と呼ぶ疾患概念ができたのは17-8年前のようですが、Takotsubo cardiomyopathyとして国際的な認知を得たのはここ十年といったところのようです。国際的な学術用語となっている日本語はたくさんありますが、偉い先生方が「タコツボ」と真面目な顔で連呼しているのが面白かったので。件の症例は褐色細胞腫によるカテコラミン過剰に伴う二次的タコツボ心筋症で、内分泌的治療とその後の手術で軽快したとのこと。