知り合いのgeneticistから新しい症例が出たという久しぶりのメール。前回の症例は、遺伝的証拠は強くはなかったのですが、ほとんど研究されていない遺伝子で、私の興味のある経路に関係する遺伝子だったこともあり、気合いを入れてマウスを作りました。残念ながら、期待したような形質が出ず、がっかり。その遺伝子の専門家の人ととりあえず共同研究をはじめてなんとか投資分を回収しようとしていますが、どうなることやら、という状態です。貧乏性なもので、なかなかスパッと損きりできず、先行き不明の中途半端なプロジェクトを複数抱えて悩んでおります。今回の遺伝子は、とある複合体の構成分子をコードしているのですが、この遺伝子そのものもほとんど研究がなく、もちろんマウスモデルはなし。ま、今回は軽い気持ちでやります。
実は、その人のいる施設に来月、別の研究者との用事で、初めて訪れることになっており準備を始めたところでした。お互い知り合いなので、当然、私が行くことになっているのを知っているのかと思ったら、知らなかった様子。直接会って症例については話をしようということになりましたが、話を聞いてみると、私が到着する日にほぼ入れ違いに学会出張、私が街を離れる翌日に帰ってくるという間の悪さで、せめて空港で会えないかな、と思ったのですけど、ちょっと無理そうです。初めて訪れる街ですし、こういう機会でなければ、多分二度と訪れることはないないだろうと思うので、会えないのは大変残念です。ま、この旅行をきっかけに私の運気の停滞が解消すればいいな、と思っています。
それとは別に、神経のグループから、神経のイオンチャンネル異常が原因の先天性の知覚障害の症例のマウスモデルを作りたいということで相談を受けて、とりあえず小さなグラントに協力しました。その研究グループはマウス遺伝学は経験がない上に人不足。これは深入りは危険と思ったのですが、まさか当たるまいと思ったグラントがあたってしまい、結果、ずるずると手伝うハメになっています。最初は簡単なノックインと思って引き受けたのですが、よく遺伝子配列をみると、多数あるこの遺伝子のファミリーはDNA配列レベルで極めて高い相同性をもっており、変異導入部位周辺にこの遺伝子特異的なgRNAを設計することが不可能でした。そのため、変異導入部位からそこそこ離れた特異的gRNAが設計できるイントロン部位に変異を入れるエクソン領域を挟んで二つのgRNAを設計し、その間のエクソン部位を飛ばした上で、長い一本鎖DNAのRepair templateを使って、欠損分をreplaceするという、京都弁でいえば「冥加に悪い」ことをすることになりました。配列をみてみると、Cas9よりもCas12aを使った方が小さく飛ばせるようで、そうなら効率も多少上がり、一本鎖DNA合成コストも多少節約できるので、今回、初めてCas12aを試してみようと思っております。無事マウスができればいいのですけど。