百醜千拙草

何とかやっています

友人からのメール

2020-12-03 | Weblog
大学院時代に小さな学会に出たときに、同じようなアイデアのプロジェクトをやっていたのが縁で知り合った友人からメールがきました。
 私より一世代弱上の方で、当時は外資系製薬会社の研究開発部門に所属されていました。やっていた研究は基礎研究だったので、当時の製薬会社は研究内容に鷹揚だったのだなあと思います。今ではアカデミアでさえ、応用研究的なヒネりがないと資金調達は難しいですからね。しかし、考えてみればさらに当時より10-30年前は、製薬会社の研究所が世界トップクラスの基礎研究成果を上げていました。ロッシュが資金提供していたバーゼルの免疫学研究所、ニュー ジャージーの研究所などなど。
 それから、世の中、世知辛くなりはじめ、カネもうけ至上主義で、企業はカネにならない基礎研究所を閉めはじめ、歴史あるバーゼルの免疫学研究所もロッシュの研究所もなくなり、優秀な研究者は各地のアカデミアに移りました。
日本でも、製薬会社は次々と研究所を統合、閉鎖し、研究開発はベンチャーにアウトソースしロイヤルティーを払って見込みのある成果を買い上げるというスタイルになりました。その波を喰らい、その昔の友人の所属していた研究所もまもなく閉鎖、その後、アカデミアに移り、アメリカ留学後、日本の研究所で研究をつづけておられました。広い意味で同じ分野ではありますけど、最初知り合った時の研究題材からお互いに多少離れたので、研究上の接点はないのですが、学会で会えば、一緒に愚痴を言い合うぐらいの関係がずっと続いていました。数年前に会った時に、ウチの研究所は定年が早いので、あと数年で定年になるので悩んでいるというようなことを言われました。私立大学などへの転職を考えていたそうですが、業績は十分なのですけど年齢がひっかかり、面接までいってもなかなかオファーをもらえないという話をされました。研究所の前の所長は医者だったので、定年後は地元に帰って一医師に戻ったのだが、自分はPhDだから、その選択はないのだとも。

メールは中国のベンチャー企業に就職したとの知らせでした。そのベンチャー創業者も研究者で、友人の研究を高く評価して、友人の前の職場での発見に基づいた薬を開発するというプロジェクトをまかせることになったそうです。
 すごいなあ、と感嘆しました。私はまだ彼の年齢までしばらくありますけど、言葉も通じない外国に住んで、研究の商品化を目指さなければならないというプレッシャーを受けながら働けるかと言われたら、自信は全くありません。
 それにしても、中国に研究の場を求める日本人が増えてきたというのは、中国の勢いが上がり、日本の研究レベルと活気が下がってきて、立場が逆転しつつあることを示しているのでしょう。

日本で問題になっている、反中嫌韓、人種主義というのは、中国、韓国の台頭によって、アイデンティティーや生活や職を失うかもしれない弱い立場にある日本人の恐れからきているのではないかと思います。苦しくなる一方の日々でも、日本人は優秀だという思い込みで日本人であることを自らの優秀さの拠り所としていた人たちの気持ちは想像できます。日本は没落し中国と韓国は台頭して、立場が逆転してしまいつつあり、日本人であることはそもそも何の優位性も意味しないことを突きつけられ、拠り所の根拠を失いつつある。その結果として、中国や韓国に責任を転嫁し、それは反中嫌韓は信仰となってエスカレートする。そういうメカニズムではないかな、と想像します。アメリカ白人の人種主義も同じ構造でしょう。差別主義者は不幸な人々ではありますが、同情はできません。

それはともかく、彼の今後の活躍が楽しみです。そのうちコロナが収束して、学会がリアルになったら、会う機会もあると思うので、たっぷり中国での研究話を聞きたいと思っています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする