百醜千拙草

何とかやっています

価格と品質

2020-12-15 | Weblog
このところ毎日やってくるメールの10以上は、怪しげな科学ジャーナルからの原稿依頼です。科学出版では原稿を書く方が出版料を支払うので、彼らは金儲けのためにやっています。そういったpredatory journalと言われて問題になっている雑誌以外にも、特に商業雑誌がからんだ場合の科学出版にかかるコストの問題は以前から何度も議論されてきました。科学出版の商業主義に反対して、アカデミア主体のジャーナルということで、PLoSやeLifeなどの試みがあり、近年はpre-printなども、ある一定の効果をあげてきました。オランダの科学出版最大大手の出版社、Elsevierはそのジャーナルの講読に非常に高額の料金を課することが問題となって、複数の一流大学の図書館では購読を打ち切るという問題も出てきました。そう言う事情もあり、また科学研究の多くが公的基金によって支援されているのだから科学の成果は誰もが無料でアクセスできるべきだ、という意見もあって、科学出版はオープンアクセス化へと向かっていっています。

科学出版において、科学雑誌のトップはやはりNatureでありつづけています。ブランドの力というのが大きいわけで、Natureは「Nature」をタイトルに含む数々のシスタージャーナルを作って囲い込み、ビジネスの拡大を図ってきました。そのシスタージャーナルに加えて、オープンアクセスが売りのオンラインジャーナル、Nature Communicationsを数年前に作りました。その出版料はオンライン雑誌でありながら$5,000を超え、多くの人々を驚かせました。通常の出版料はその半分ぐらい。紙媒体の雑誌だとカラー印刷のコストが加算されて$5,000になることもありますけど、オンライン雑誌でこの出版料は高いと思います。Nature出版グループは、品質をたもつための高いリジェクト率のために、投稿原稿のプロセスに人員と費用がかかると説明しますが、たとえそれが真実であっても、その価格はちょっと度を超えているのではないかと考えてきました。ガソリンの値段のようなもので、オイル会社は、いつも値段は需要と供給のバランスで決まっているといういうわけですけど、値段の設定のメカニズムは不透明です。いずれにせよ、エクソンなどの大手石油会社がオイルの値段を決めるとそれが通っていきます。科学出版では、Natureの言うことがスタンダードになっていきます。

そのNatureの12・3号のフロントページで、Natureのオープンアクセス化の計画に触れています。


興味のある方は、DeepLとかで読んでいただければと思いますけど、オープンアクセスのNatureの出版料の設定が$11,390 (9,500 ユーロ、120万円)というのには驚きました。当然、投稿数が出版数に比べて圧倒的に多いので、出版されない投稿論文のハンドリングに費用がかかり、それが出版論文著者への負担の増加となっているという説明しています。私はまた別の理由もあるのではないかと思います。ひょっとしたら、オープンアクセスになるとNatureは購読者が減って、広告収入が落ちると考えており、その埋め合わせを論文掲載者にさせようということではないかと想像しています。

システムはまだ企画段階で、オープンアクセスを選ばないという選択も可能で、その場合は従来の掲載料ということらしいです。また「論文査読前払い制」というビジネスも考えているそうです。これは、編集のコストを投稿者に前もって負担させることで、最終的な掲載料を抑えるというモデルなわけですけど、これも結構高額です。一応、この前払い制を使うと、Nature側がグループ雑誌での出版にむけて、いろいろ便宜を図ってはくれるのですが、最終的に採否は論文のクオリティー次第となりますから、受け皿となる他の下位ランクの姉妹紙にもリジェクトされてしまった場合は、投稿者は$2,000以上の丸損となります。

当面、Natureに投稿するようなネタはありませんけど、もし私がNatureクラスの発見をして、論文がNatureにアクセプトされるような自体が生じたら、オープンアクセスは選びません。まず投稿前にpre-printで成果を発表して、アクセプトされたらツイッターで拡散すればいいのではと思います。

出版費用は研究格差を産む一つの原因になります。貧乏だと仮によい研究結果がでても出版できないということにもなりかねません。(通常、資金の潤沢さと研究成果は正比例するものではありますけど)いずれにせよ、研究格差は研究業界全体の今後の発展ということを考えると良いものではないと思います。

また、ブランドの力というのはすごいもので、掲載料が高いほど、むしろ評価と人気は逆に上がるものなのかもしれません。客のこない店が値段を上げたら突然人気店になったという話も聞いたことがありますから、人間の心理は複雑です。逆に言えば、研究内容の評価をブランドとか価格とかインパクトファクターに頼る単純な人が多すぎるとも解釈できますけれども。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする