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tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

奈良県は、かんてき(七輪)経済

2012年01月17日 | 奈良にこだわる
財団法人南都経済センターの「センター月報」2011年10月号に、統計データから見た奈良県の産業構造」という18ページもの堂々たる論文が掲載された。筆者は同センターの主席研究員で、中小企業診断士の島田清彦さんである。現在この論文は、同センターの月報「バックナンバー」の特集欄(2011年10月号)にアップされている。私は若い頃、島田さんと一緒に仕事をしたことがあり、当時は年長の私が指導的な立場にあったが、この大論文には舌を巻いた。信頼できる統計データを徹底的に読み込み、県の産業構造を詳細にレポートされている。県下のさる経済人は、この論文をもとに講演をされたそうだが、それも十分納得できる。

私はこの論文を3回読み返し、そのつどコピーをとって蛍光ペンを引いていたのだが、マークした箇所が多すぎて収拾のつかない状況になってしまった。発表から3か月も経ってしまったので、そろそろ当ブログでも紹介したいと思う。全貌をうまくかみ砕いて掲載する自信はないので、3点に絞って要点を掲載する。それにしても島田さんはぜひ、3年ほどの期間をとって、大きなテーマに取り組み、それを出版物にして世に問えばいいと思う。その資格も能力も、十分にある。南都経済センターさん、いかがだろう。

Ⅰ.全体の概要(ポイント)
まずは、島田さん自身が論文の冒頭に書いている「ポイント」(青字部分)を抜粋しながら補足する。私の補足部分は黒字で示しておいた。

[ポイント]県民経済計算や産業連関表等の統計データを見ながら 奈良県の産業構造の現状を整理する。
①2008年度の人口1人当たり県民所得は253万円、96年度比で17.2%減少(減少幅は全国2位)。

県民所得=雇用者報酬(給料など)+財産所得(利子・配当など)+企業所得(内部留保など) である。奈良県の253万円は全国で31位、近畿では最下位。96年度比減少額の1位は愛媛県(▲19.1%)だった。なお1996年は『失楽園』がベストセラーになった年で、バブルで落ち込んだ景気が回復していた時期(景気の山があった年)である。

②県際収支比率は▲22.1%(赤字額8,002億円)と高知県に次いで赤字幅が大きい。
「県際収支」とは、国際収支とよく似ていて、県ごとの経済活動の自立性を見る指標。これが赤字ということは、他県からの「移入額」が多いということ。企業活動の少ない県が赤字になる傾向にあり、東北、山陰、九州に赤字県が多い。

③企業所得6,669億円(1996年度比43.5%減)、製造業の総生産額5,799億円(同37.0%減)は、ともに減少幅(落ち込み度合)が全国最大。
グラフはトップに貼ってある(兵庫県は、95年の阪神大震災という特殊要因があった)。企業所得=営業余剰(付加価値-雇用者所得-固定資本減耗-純間接税)±財産所得(配当・地代の受取または支払)である。これで見ると奈良県の▲43.5%は、いかにも大きい。全県計では、わずか▲1.4%なのだ。

奈良商工会議所(奈良市)の会員数は、ピーク時の約4,000社から、現在は約2,500社と▲約38%だそうで、その数字もうなずける。製造業の総生産額▲37.0%も大きく、全県計では▲17.0%。製造業の弱体化は、全国平均を大幅に上回って進展していたのだ。工場誘致が求められる所以である。

④事業所数(50,424事業所)の全国シェアは0.86%で、従業者規模100人以上が少ない。
相対比較では、教育、学習支援、医療、福祉関係の従業者数が多い。

⑤県外就業率は29.0%と高く、15歳以上就業者約13万人分の職場が県内で供給不足になっているという見方もできる。
逆にいうと、県内では働き場所を提供できていないが、県外で働いて、給料(雇用所得)を県内に持ち帰ってくれている。

⑥2005年の産業別(34部門)県際収支をみると、電子部品など計9部門が県外マネーを獲得。
電子部品、その他工業製品、一般機械は黒字。逆に、商業、飲食料品、対事業所サービス(ソフトウェア、情報処理、出版、リースなど)は赤字。

⑦一般機械、金属製品等の7業種が有望産業。
県下で競争力の高い産業は、産業連関表によると、一般機械、金属製品、その他工業製品、電気機械、電子部品、パルプ・紙・木製品、繊維製品。

Ⅱ.5つの提言(県内産業の活性化に向けた視座)
島田さんは最終章に「県内産業の活性化に向けた視座」というタイトルで、5つの提言を書いている。それをかいつまんで紹介する。以下、青字部分が引用である。

1.人口減少社会の到来を踏まえた対策を
2035年の奈良県の人口は、2010年の5分の4にまで減少する。
全国平均以上の大幅な人口減少は奈良県経済の衰退に直結する重大な問題である。県民・県内企業のみを販売先としている産業・企業にとっては、全国平均以上に市場・顧客が年々縮小していくことを意味している。(中略) 当センターが昨年8月に実施したネットユーザー対象の「奈良県経済に関する県民意識調査結果」(以下「県民意識調査」という)によると、人口減少に備えた対策として、県民の多くが「地域産業の活性化による雇用機会の増大」64.9%や「積極的な企業誘致」52.4%を期待している。また、県民の約4割が子育て・教育の経済負担軽減や女性・高齢者が働きやすい雇用環境の整備等を求めており、これらへの支援強化を期待したい。

2.公的需要への依存度引き下げの努力を
奈良県の県内総支出を需要項目別にみると、公的需要が30.0%を占めており〔滋賀県19.7%〕、全県計(22.1%)と比較して奈良県経済は公的需要への依存が相対的に高くなっている。(中略) 少子高齢化に伴う社会保障費の増大、納税者数の減少による税収減少、財政制約による公共投資削減などを踏まえると、奈良県の経済規模を維持して経済活動の自律性を高めるためには、公的需要への依存度を引き下げる努力が不可欠である。


3.移輸出型産業の活性化による県外マネーの獲得
奈良県全体では8千億円の赤字だが(上記Ⅰ-②参照)、黒字を稼いでいる産業もある。
電子部品、一般機械等の稼ぎ頭の産業については、工場等の流出抑制の働きかけも重要であり、それらのサポーティングインダストリー(裾野産業、部品・周辺製品を造る製造業等)の育成・強化や道路網等のインフラ整備の推進が必要となる。

4.観光振興による交流人口増大と消費単価向上
魅力ある食事や土産物の創出、飲食・サービス等観光関連産業の育成・充実、体験型観光の開発等が期待される。「全国観光入込客統計」(観光庁)により2010年10~12月期の観光消費額単価(人/人回)をみると、奈良県は県外宿泊客の単価は35都府県平均を上回っているが、観光入込客数の多い県内日帰り客の単価は同平均の約40%、県外日帰り客の単価は同平均の約50%と少ない。このことは、いくら観光入込客数が増えても、その乖離分だけ県内経済へのプラスの影響度が少ないことを意味しており、観光入込客数の増大よりも消費単価引き上げと自給率向上が最優先課題と考える。


5.県民はバランスのとれた産業育成・支援を期待
ネットユーザー対象の「県民意識調査」によると、「当面力を入れるべき分野」として返ってきた回答は、棒グラフとのとおりであった。


県民意識調査によると、経済活性化や雇用機会の確保等のために当面力を入れていくべき産業分野としては、「医療、健康、介護などのサービス産業の育成」45.3%が最も多く、次いで「宿泊施設、土産物店、飲食店等の観光産業の活性化」42.3%、「古くからある地域産業の活性化」40.8%、「成長が期待される、環境・新エネルギーなどの新産業の育成」40.6%と続き、これら4分野が40%超となっている。(中略) 財政面等の制約があるため、バランスのとれた産業育成・支援を目指しながらも、総花的な支援ではなく、既存産業の健康・環境分野等新産業への参入支援や、産業・企業の絞り込みによる重点化が必要である
 
5位の「地域に密着した商店街や中小小売業の活性化」と6位の「農林水産業の生産性向上、新規参入者の育成・確保」は、「古くからある地域産業の活性化」に含めて良いだろう。だから、ごく簡単にいえば「医療、観光、地域産業活性化、新産業育成」、県民はこの4分野への「選択と集中」を望んでいるのである。

Ⅲ.奈良県は0.7%経済である
第4章に「奈良県は、0.7%経済である」と書かれている。「奈良県は1%経済」と言われることが多い。確かに総面積の全国シェアは1.0%、人口(2008年度)は同1.1%であるが、経済関連の全国シェアをみると、県内総生産(名目)は0.7%、うち製造業が0.6%、卸売・小売業が0.5%などと低下する。1%は1/100だが、0.7%は1/143であり、「1%経済」と「0.7%経済」の乖離を意識しておく必要がある。

これは私も、統計数字を見るたびに実感していたことである。1%と0.7%とでは、モトになる数字が大きいので、0.3ポイント分の差は、とても大きいのである。総面積の全国シェアは1.0%でも、可住地面積のシェアはジャスト0.7%だし、農業産出額シェアは0.55%、民営事業所数は0.84%、ホテル・旅館の客室数は0.60%、同施設数は0.85%と、ほぼ0.7%の前後に収まっているのである。

0.7%=七厘である。木炭コンロの「七輪」のネーミングは「わずか七厘のおカネで買える木炭で調理できるから」名付けられた。つまり、七輪は七厘なのだ。「七輪」のことを関西では「かんてき」という。だから洒落て、当記事のタイトルは「奈良県は、かんてき経済」とした。決して1%経済ではないことを強調したいのである。こんな立派なレポートにオチをつけては申し訳ないのだが、当ブログは、エコノミスト向けではなく一般読者向けのブログなので、まぁ、そこはご勘弁いただきたい。

労作を前にだらだらと書き連ねてしまったが、奈良県の産業構造のあらましと、そこから導かれる問題点、そして(見かけは1%経済だが)実態は「かんてき経済」であることを読みとっていただければ幸いである。お付き合いいただいた読者の皆さん、有難うございました。ここまで詳細にレポートされた島田さん、ますますのご活躍を期待しています。
コメント (6)
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