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tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

奈良県産業の構造改革を! through ナント経済月報2012年6月号

2012年06月16日 | 奈良にこだわる
一般財団法人南都経済センターの「ナント経済月報」2012年6月号を拝読した。本号は、ずっしりと重い70ページ建ての豪華版であった。ベテランの山城満氏(主席研究員)、島田清彦氏(主席研究員)らが健筆を揮うとともに、若手の岡本忠氏(主任研究員)、吉村謙一氏(研究員)らの進展著しく、今後とも、ますますの充実が期待できそうである(月報の内容は、同センターのHPにも載っている)。

今回の特集は3本立てで、いずれも経済や産業に関わるものであった。まず目を引いたのは「2009年度県民経済計算から見た奈良県の産業構造」(島田清彦氏)である。以前、当ブログで島田さんの「統計データから見た奈良県の産業構造」という論文を引用し、「奈良県は、かんてき(七輪)経済」という記事にまとめたことがある。県民経済計算や産業連関表などの統計データから、県の産業構造を紹介した論文のなかで「奈良県は名目県内総生産など、経済関連の全国シェアは0.7%にすぎない」という記述があったことに着目し、私は「奈良県は1%経済ではなく、七厘(0.7%)経済だ」と紹介したのである。今回の島田論文冒頭の「ポイント」を引用する(青字)。黒字部分は私の補足である。

1.2009年度の人口1人当たり県民所得は241万円、90年度比で20.9%減少(減少幅は全国2位)。
1人当たり県民所得の「水準」は全国で30位、近畿で5位(最下位=6位は和歌山県)。減少幅の全国1位は富山県である。

2.県外からの所得(純)は、奈良県は9,056億円で全国5位、県民所得に占める県外からの所得(純)の割合は21%と埼玉県に次いで2位。
「県民所得」は、県民が県外で稼いだ所得も含まれる。県外からの純所得(県外との所得の受払により生じる差額)9,056億円は、和歌山県の4.1倍、滋賀県の20.8倍に達する。

3.県際収支比率は▲23.7%(赤字額8,138億円)と高知県に次いで赤字幅が大きい。
県際収支とは経済活動の自立性をみる指標で、国際収支に似ている。県際収支(国際収支)が赤字である県(国)は、他県(他国)からの移入額(輸入額)が多いことを示している。

4.企業所得6,456億円(1996年度比44.9%減)、製造業の総生産額4,447億円(同51.7%減)は、ともに減少幅(落ち込み度合い)が全国最大。
「県民所得に占める企業所得の割合」も、全国で46番目(ワースト2位)である。

5.1996年度比で産業全体が19.6%減少するなか、建設業が60.3%、農林水産業が45.4%減少、製造業が51.7%減少となっている。
製造業の大幅な落ち込みとは、残念なことである。個別にみると、機械(電気、一般輸送用とも)の落ち込み幅が大きく、金属製品、繊維、窯業・土石製品も、大幅に減少している。



うーん、最新の県民経済計算においても、こんな厳しい結果が出ていたのだ。一方、山城さんは「TPPを巡る日本・奈良県の産業構造問題」という論文を書かれた。TPPの問題点については、当ブログに「TPP賛成に大義なし」などの記事を書いたので、繰り返さない。山城論文末尾の「まとめ」を引用する。

TPP締結は、輸出産業の壊滅か、農業の壊滅かという議論になりがちであるが、様々な視野からの議論が必要である。それは当然として、もっと根本的な問題は、TPPとは別の次元で、日本の産業構造の変化が遅れている点であろう。

確かな技術力と開発力を持つ奈良県内の中小企業は、「リーマンショック」からもいち早く立ち直り、関税もものともしない(もちろん低い方が良いが)。そこには、何らかのイノベーションがあった。画期的な新製品開発といったものから、今まで取り組まなかった「セールス」に力を入れたといったことまで、常にチャレンジングである。

農業分野においてもそれは言えよう。近年、「安全な食材」「地産池消」に対する消費者ニーズが高まっているが、人々の生活の成熟化が進む中、それは一過性のブームではない。しかし、これに応えるべき体制整備がスローなテンポでしか進まない。奈良県の農業は、高齢化の進展に影響は受けるが、TPPという個別要因による影響は小さいのではないかとも思われる。林業にいても、農業においても、集約化が進まない、ブランドづくりや販売ルートの開拓のテンポが進まないといったことが、衰退の最大の要因と考えられる。

工業、農業に関わらず、このまま、事業の高度化、産業構造の高度化が滞れば、TPPという過激な要因が有っても無くっても衰退は進む。




6/9(土)、大和文華館で「奈良・再発見セミナー」があり、薬師寺の松久保執事は「奈良時代あれこれ」、私は「いまドキッ!の奈良」という講話をさせていただいた。そこで私は、ある団体が2010年に行った「奈良県経済に関する県民意識調査」 の結果のいくつかを引用した(奈良県在住者800人を対象としたネット調査)。そのなかで

1.「奈良県の経済・産業は」 衰退している 51%、発展・成長している 5%
2.「奈良県に活気は」  ない 72%、ある 10%
3.「奈良県の影は薄い(大阪や京都の存在が大きいから)」そう思う 86%、そう思わない 8%


というマイナス側面の結果を紹介したあとで、

4.「奈良県に誇りや愛情を感じる 」 そう思う 60%、そう思わない 20%
5.「奈良県を良くすることに貢献したい」 そう思う 67%、そう思わない 6%
6.「奈良県の変化を」 期待している 81%、期待したいがムリ 14%

というプラス側面の結果を発表して、「奈良県民はまだまだ捨てたものではない」と締めくくった。しかし、どうも前半のインパクトが強すぎたようで、講話に関する会場アンケートに「奈良の悲観的なアンケート結果はいかがなものでしょう、不快感を与えます」と書かれてしまった。

今回の島田論文・山城論文とも、奈良県経済・産業の問題点をズバリ抉り出している。とりわけ山城論文末尾の「工業、農業に関わらず、このまま、事業の高度化、産業構造の高度化が滞れば、TPPという過激な要因が有っても無くっても衰退は進む」という指摘は鋭いし、アンケートの「奈良県の経済・産業は衰退している 51%」「奈良県に活気はない 72%」も手厳しい。

しかし、「奈良県に誇りや愛情を感じる 60%」「奈良県の変化を期待している 81%」という回答には、大いに励まされる。奈良県にはチャレンジングな中小企業があるし、勤勉な農林事業者がいる。農林業の集約化、ブランドづくり、販売ルートの開拓といった問題点は、事業者も気づいているし、自治体の取り組みも進められている。

決して予断は許さないが、落胆している場合ではない。この手詰まり状況をブレイクスルー(突破)できるカギは観光業にある、と私は見ている。世界遺産が3件、国宝の仏像が70件、国宝建造物が64件・71棟、特別史跡が11件と、すべて全国トップの観光資源を持つ奈良県で、最大の地場産業になりうるのは観光業である。観光業は、関連する産業が多岐にわたり、波及効果も大きい。これを軸に、奈良県の産業構造を再構築すべきではないか。
コメント
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