エッセイ  - 麗しの磐梯 -

「心豊かな日々」をテーマに、エッセイやスケッチを楽しみ、こころ穏やかに生活したい。

緑雨の景観  (山種美術館)

2006-06-11 | 文芸
       《山口蓬春(1893~1971)の「梅雨晴」》

(2006.6.7)
 東京メトロの「九段下」で下車、地上に上ると目の前にお堀が、靖国神社を右手に見て九段坂を左へ、千鳥ヶ淵の緑道を歩いた。
 数時間前に通り雨があったようだ。そのあとの晴れわたった初夏の木漏れ日がさわやかに、美しかった。桜の季節はさぞにぎわったであろう、桜の大木が左右に落ち着いた静かな並木道だった。
 都会の喧噪が遠くに聞こえる静けさに、堀の対岸の北の丸公園から、誰かが練習しているのだろうかトランペットの音が聞こえてきた。
 梅雨の季節に、雨上がりの澄んださわやかな散歩道を数百メートル、緑のトンネルを抜け、山種美術館を目指した。

 山種美術館では、いま【 緑雨の景観 -美しい日本の自然- 】が開催されていて、今回はそのテーマに惹かれての訪問だった。
 千鳥ヶ淵の緑道のアジサイはまだつぼみに色はなかったが、一足早く見事なアジサイ、山口蓬春の「梅雨晴」を鑑賞できた。他に、東山魁夷の「緑潤う」や奥田元宗の奥只見の山々を描いた「山潤雨趣」、宇田荻邨の「五月雨」などを観て堪能した。
春に風俗画*に興味を持ち、その後、日本画、特に近代日本画に魅力を感じていた。展示された作品はいずれもテーマのように、緑に映える、雨に煙る、あるいは雨上がりのすばらしい美しい日本を描いたもので、他に奥村土牛、川合玉堂、菱川春早などの傑作を鑑賞することができた。

 美術館を出て、隣の千鳥ヶ淵戦没者墓苑へ立ち寄った。
戦没者墓苑は、先の大戦での無名戦没者の墓で、昭和34年に創立された国立墓苑で、名前も分からない35万人もの戦没者がここに眠っている。
 献花用に用意された黄色や白い菊の花を供え、いまの平和の礎になられた、先の戦争に散った多くの戦没者の御霊にこころからのお礼を述べ、冥福を祈った。そして、あらためて戦争のむなしさ、悲惨さを思い、平和の尊さをかみしめた。

《松尾敏男(1926~)彩苑》


*拙ブログ 3/12 「風俗画を鑑賞」