○『まほろ駅前多田便利軒』
小説家は登場人物のキャラクターを設定するのに案外身近な人をモデルにしていることが多いのではないか。事実インタビューでそう答えるところをテレビで見たり、エッセイなどでそのことについて触れているものを読んだりしたことがある。複数の人物から作中のひとりのキャラクターを創り上げるということもあるかもしれない。全くモデル無しというわけにはいかないだろう。
さて、三浦しをんの直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』だが、主人公の二人、多田啓介と行天晴彦の場合もそうだろうか・・・。
私には二人のキャラを作者はいくつかの「漫画の登場人物」からイメージしたのではないのかな、と思えた。但しなんとなくそんな気がするというだけで、その根拠を示すことはできないが。また場面の展開も、コマ割された漫画のシーンの連続のように思えた。文中に二人の名前、多田と行天が頻出することもあるいは関係があるのかもしれない。
ウェブマガジンの連載をまとめた『しをんのしおり』新潮文庫 によると
**私の漫画体験は、小さいころ近所のお兄さんから貸してもらっていた「週刊少年ジャンプ」に始まる。その後はジャンルにこだわらず何でも読んでいたのだが(後略)** とのことだ。
本書の前にこのエッセイを読んでいたことと、目次のデザインと中とびらのイラスト(写真)から、あるいはそんな先入観を抱いていたのかもしれない。
ところで肝心の小説だが、「俺には子どもがいた」と多田が行天に告白する終盤、急にシリアスな雰囲気が漂いだす。
そしてラストの2行・・・。
この小説をこれから読もうという方、最初から読んで欲しい。蛇足ながらそう付け加えておく。