民家 昔の記録 山形県 (8008)
■ 山形県の六十里越街道、この山形と鶴岡とを結ぶ街道をかつてバスで移動したことがある。80年の夏のことだ。途中、湯殿山の麓の朝日村(現在は鶴岡市)の大網の民家を訪ねた。
この地方では寄棟の屋根にハッポウと呼ばれる開口部を設けている。養蚕をするようになって、蚕室に必要な採光と通風を確保するために造られた。
屋根に開口部を設けることは雨仕舞い上、弱点を作ることになる。豪雪地帯でもあるから、雪仕舞いにも支障を来たす。そこでかなり注意深く開口部を設けている。ちょうど雨や雪を避けるためにコートのフードを顔の前まで突き出すようなしつらえだ。屋根の棟の置き千木も数がたくさんあって印象的だった。
雨仕舞いと採光・通風、この屋根のジレンマを解消する工夫が全国各地の民家に多様な造形を生み出した。
***
森敦の芥川賞受賞作品『月山』はこの地方を舞台にした小説だった。73年の作品だからすっかり内容を忘れてしまった。確か映画化されたように思う。ひとりの男がこのハッポウから激しく雪が降る様子を見ているシーンがあったような曖昧な記憶がある。
もうあれから26年も経過した。あの山村はいまどんな様子なんだろう、民家はまだ当時の姿を留めているのだろうか・・・。
○繰り返しの美学を繰り返す(0608)
前回のサッカーワールドカップ、日韓共同開催決定を機に全国各地にいくつもサッカースタジアムが建設されました。サッカースタジアムの場合、スタンド後方に柱は建てられますが、視覚的に邪魔になるので、前方に柱は建てられません。後方だけ柱を建てたのでは屋根はフィールド側におじぎをします(当然 先端が重力で下がる)。この問題をクリアして、屋根をどのように架けるのかが、設計者の腕のみせどころなのです。
松本市郊外にある県営施設アルウィンでは、スタンドの外側で屋根を下方に引っ張っています。シーソーの片側だけに人が乗ると当然下がるけど、反対側をロープで地面に固定しておけば下がらない。理屈はこれと同じ。ロープに相当するのがV字型の白い鋼管というわけです。
心地よいリズム感。
繰り返しの美学は身近なところにいくらでもありそうです。
路上観察 松本市内 0608
■ 松本市内には蔵を利用した店がいくつもある。これもその一つ。全体を構成するいくつかの部分がうまくまとまっていて美しい。縄のれんや飾り窓の一輪ざし、アサガオ、鉢植えの花。
軒の白壁がちょっと剥落している、そこが渋いといえないこともないができれば修理して欲しい。店の中がどんな様子なのか、こんど確かめてみよう。
*****
先日、開智学校のエンジェルについて書きました。何故凸なのかと。『建築探偵 雨天決行』藤森照信、増田彰久/朝日新聞社 に理由が出ていました。さすが藤森探偵。どうやら建設当時はツルリン、何もついていなかったようですが、戦後の修理の時、文化庁の人が「それではマズイ」と気をきかせて凸をくっつけたそうです。以前私が読んだのはこの本だったのかもしれません。