透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

信州に上医あり

2006-08-23 | A 読書日記



「農民とともに」を掲げ国内外で農村・地域医療を主導した、佐久総合病院名誉総長の若月俊一氏が死去した。九十六歳。
今日の朝刊が報じている。(記事の一部を省略)

南木佳士の『信州に上医あり』岩波新書をたまたま読んでいたので若月氏のお名前は存じ上げていた。
南木氏は、秋田大学の学生だった頃、医学部の大講堂で若月俊一氏の講演を聴いたのがきっかけで、佐久病院の面接試験を受けたとこの本に書いている。運命を決する出会いがやはり人にはあるものらしい。

**個人の病しか見えず、薬の匙加減ばかりに気をとられている医者よりも、患者の住む地域社会の抱える様々な問題にまで取り組もうとするのが本当の上医である。(中略) 私はたった一人だけこの人は上医ではないかと思われる医者を知っています。それが若月俊一です。** この本のはしがきで南木氏はこう書いている。

長野県が全国でトップクラスの長寿県で医療費も全国一少ないのは、若月氏が実践してきた農村医療の成果によるところが大きい、と指摘しているブログもある。

南木氏はこの本で若月氏の波瀾の人生を克明に追っている。氏はあとがきで人物評伝を書くのはこれが最初で最後でしょうと書いている。若月氏ほど興味をひかれる人物には今後出会うことはないだろうと思われることと、評伝作家には向かないことが分かったということがその理由だという。

いままで無為に過ごしてきて「わが人生に悔いはない」などと言えるのはカラオケで裕次郎を歌うときだけの私。