透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

生物と無生物のあいだ

2007-06-25 | A 読書日記



 このところタイトルの字数を10字と制約をつけて遊んでいる。この本のタイトルはちょうど10字。

著者の福岡伸一氏は分子生物学者。とにかく文章がうまい。生命とはなにか?この問いに多くの分子生物学者が明快な答えを出そうと長年研究を続けてきた。著者はその歴史を振り返りつつ自身が到達した生命観を綴る。

各章の見出しが秀逸だ。

第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ
第10章 たんぱく質のかすかな口づけ
第15章 時間という名の解けない折り紙

高度な内容を平易に説明することは難しい。定義が厳密性を欠いたり概念が曖昧になったりしがちだが、著者はそれを避けて喩えをうまく使いながら務めて分かりやすく生命観を説いている。

著者は生命を「動的平衡にある流れである」と定義しているがそれをエピローグで次のように説明する。

**生命という名の動的な平衡は、それ自体、いずれの瞬間でも危ういまでのバランスをとりつつ、同時に時間軸の上を一方向にたどりながら折りたたまれている。それが動的な平衡の謂(い)いである。それは決して逆戻りのできない営みであり、同時に、どの瞬間でもすでに完成された仕組みなのである。**

エピローグに記されたこの一節が、プロローグで**なにかを定義するとき、属性を挙げて対象を記述することは比較的たやすい。しかし、対象の本質を明示的に記述することはまったくたやすいことではない。**と記した著者の「生命」とはなにか? に対する回答だ。

それにしてもいい本と出合った。村上春樹に戻る前にあと数冊寄り道をする。