透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

増沢洵の最小限住宅 

2008-02-03 | A あれこれ


 今度はカードでこの住宅を引いた。増沢洵という建築家の自邸。

今回は少し資料を調べて書く。1950年代にはこのような小住宅が実験的にいくつかつくられた。その代表が池辺陽の最小限住宅とこの増沢邸。引いたカードを見て、どっちだっけ? 池辺さんの名著「デザインの鍵」は手元にあったかなと一瞬思った。

増沢邸は延べ面積15坪。9坪の1階にはダイニングキッチン+リビングと寝室、風呂とトイレが配置されている。6坪の2階は書斎と家事室。リビングの上部は吹き抜けている。平面は3間×3間の正方形。立面は上下に2分割、左右に3分割されているが、平面的にも同様の分割がされいてそれぞれの交点に柱がある。

この住宅を設計した時、増沢さんはまだアントニン・レイモンドの事務所の所員で27歳だったそうだ。この住宅にもレイモンドのデザインの特徴である杉丸太や表しの垂木、障子が使われていて、それらが端整に納まっている。プロポーションが実に美しい住宅だ。

日本の住宅の変遷を辿るときこの住宅や菊竹清訓の自邸スカイハウスは必ず取り上げられる(建築トランプにはスカイハウスも収められているからいつかそのカードを引くだろう)。共に戦後住宅史に残る名作だ。



さてこの住宅に関する本となるとブログを始めてまもなく取り上げたがこの2冊が手元にある。

これは増沢さんのこの住宅の骨組みを新宿のOZONEに展示するという企画の担当者だった萩原さんが展示会終了後、自分の家としてつくる過程を取り上げた本。夫婦でそれぞれ別の本にまとめている。

2冊を読み比べるとふたりの関心の置き所が違うし、同じことの捉え方も違っていて興味深い。

この家は小泉誠さんによってモダンにリデザインされている。『9坪の家』萩原修/廣済堂(写真左)に内観写真が掲載されているが、小泉流のモダン和風の美しい空間に仕上がっている。

あとがきで萩原修さんは「地球環境や高齢化が問題になり、生活の在り方を根本的に見直す時期に来ている」、と指摘し「もう一度、1950年代に建築家が手掛けた「最小限住宅」から学ぶ必要があるのではないだろうか。」と書いている。同感。

■ 参考文献
  「新建築 建築戦後35年史」(1980 7月臨時増刊)
  「9坪の家」
萩原修/廣済堂

よく似ていますが・・・

2008-02-03 | A あれこれ




 ふたつの多目的トイレの写真、ちょっとためらいましたが載せました。

①は地方都市の駅のトイレ、②は都内の某美術館のトイレです。便器や手摺などのレイアウトや仕様が似ていますね。ペーパーホルダーや非常呼び出し用ボタンの位置もほぼ同じです。2枚の写真を比べてよく似ているのに驚きました。

多目的トイレのレイアウトや仕様が随分検討されてプロトタイプが既に定着しているのでしょう。使いやすい仕様にはもちろん個人差がありますが最大公約数的にこのような計画になるというわけです。

違いを挙げると①にはオストメイト用の流しがついています。それにベビーチェア。②にはベビーシートが設置してあります。それが鏡に少し写っています。それに床と壁の仕上げが違います。

①は駅のトイレですから汚れやすいのかも知れません。そのことに配慮して水洗いが出来る仕様になっているのでしょう。

このふたつのトイレ、使い勝手上一番の違いを挙げるとすれば、トイレットペーパーのストック位置でしょう。仮に使用者が自分で補充することを考えると①の方が楽でしょう。②の位置だと車椅子利用者にはつらいかも知れません。手が届かないかも知れません。尤も管理上、ときどき様子を見て補充しているのでしょうが。

このようなトイレが設けられていることはバリアフリーという考え方の社会的な浸透を示していると思います。法的な規定があることにも拠るのでしょうが。

いつか都内の某ギャラリーで観た建築展、アメリカの建築家の計画案はこのようなトイレを男女別々に設ける設計になっていました。この国でも男女共用ではなくて別々に設置することが当たり前だと考えられるようになるといいのですが。


ブックレビュー 1月の本たち

2008-02-03 | A ブックレビュー


■ あっという間に1月が通り過ぎていった。1月のブログに登場した本たちの記念写真。『企画書は1行』って出番があったのかな・・・。

谷崎潤一郎は写真美術館の展覧会について書いたときタイトルの漢字の確認のために書棚から取り出した。この本で谷崎は優れた空間論を論述している。再読したい本。

東京路上観察 ミニ時計台@銀座

2008-02-03 | A あれこれ



 週末東京 その9

静岡新聞・静岡放送東京支社(キャンティレバー東京)、中銀カプセルタワー(カプセル東京)観察の後、朝の銀座を歩いていてこのミニ時計台に遭遇。

銀座の華やかなビル群の中に臆することなく堂々と建っていた。その姿にどことなく惹かれて写真を撮った。

時計台といえば札幌の時計台、昔見学したことがあるがビルの谷間に静かに佇んでいた。高知県安芸の時計台も懐かしい。

確か民家 昔の記録でもまだこの時計台は取り上げていなかったと思う。写真を載せておく。


198004

路上観察はまだまだ続く・・・。


原広司と大江健三郎

2008-02-02 | A あれこれ



「建築トランプ」今回は原広司さん。 

充分シャッフルして、エイ!と引いたら原広司さんだった。建築家原広司さんの代表作を挙げるとすると大阪の梅田スカイビル、京都駅そして札幌ドーム。いずれもビッグプロジェクトだ。これらの建築について書いてもいいが、今回はこの本を取り上げる。



『揺れ動く 燃えあがる緑の木 第二部』大江健三郎/新潮社。この本は大江さんがノーベル文学賞を受賞した直後に出版されて、よく売れたのではないかと思う。第三部の帯には**ノーベル賞作家の最後の小説、完結!**とある。

よく知られているように原さんと大江さんとは友人関係。大江さんの出身中学校を原さんが設計している。建築雑誌に当然掲載されたが残念ながら手元にその雑誌はない。

大江さんはこの小説に荒先生として原さんをモデルにした建築家を登場させている。「あら」と「はら」、よく似ている。

**荒さんは、その独創的な構想を、粘り強くあらゆる細部にわたって実現する建築家だった。** 小説から引用したこの文章は原さんの評価そのものだ。

こんなくだりもある**教会のために建設しようとしている礼拝堂は、直径十六メートルの真円が基本形です。** これは原さんが設計した大江さんの出身中学校の音楽室ではないか。直径が同じかどうか資料があれば調べてみたい。

円形は音響的には好ましくない。そこで**荒さんは、かれの建築事務所の費用で、生産技術研究所の同僚の専門家に実験を依頼されました。二十分の一の縮尺模型を作って、実験が行なわれたわけです。** この先もまだ続く。こうなれば、この中学校の設計の解説文だ。

作家はこのように実話を小説のなかに取り込む。それが時に問題になったりすることもあるが、この小説を読んだであろう原さんはどんな感想だったんだろう・・・。

カードの原さんが手に持っているのは梅田スカイビルのエレベーターとエスカレーター。頭に載せているのは確か自邸。名前は調べないと分からない。原さんも磯崎さんと同じ襟の服を着ている。この部分は作品を表現しているのではないのかもしれない。

磯崎さんの場合、一時期盛んに設計したヴォールト屋根ではないかと友人から指摘があったが・・・。


 


辰野金吾といえば東京駅

2008-02-01 | A あれこれ


 今回の建築トランプはこの人。K.TATSUNOとカードにある。そう、辰野金吾。辰野金吾といえば東京駅を設計した建築家。

前回の建築トランプで取り上げた高過庵の設計者で建築探偵の藤森照信さんの著書『日本の近代建築』の上巻の帯に東京駅が写っている。竣工時の東京駅はこの写真のように今とは異なる丸いドーム状の屋根だった。

現在は右の写真のような姿(小さくて分かりにくいが)をしているが、これは間に合わせで行なわれた修復工事に因る。今、元の状態に戻す工事が行なわれている。



辰野金吾のカードを引いたとき、困ったと思った。この建築家に関する知識が無いのだ。知っていることといえば東京駅の設計者ということくらい。藤森さんの本を再読すれば、俄知識は得られるが、それをここに書いても仕方がない。

イラストの辰野金吾が被っている帽子が東京駅だと分かるが手に持っているのが何か知らない・・・。

次に東京駅の今の姿が写っている本を探した。建築関係の本には載っているがそれを取り上げても面白くない。で、書棚から見つけ出したのがこれ、夏樹静子さんの長篇ミステリー『東京駅で消えた』中公文庫。

帯に注目、**東京駅の霊安室で男の死体が・・・**とある。現在も使われているかどうか知らないが、霊安室があったのだ。ストリーは忘れたがこれは東京駅を舞台にしたミステリー。霊安室や地下通路の存在などこの小説で大正3年開業の東京駅の知られざる素顔を知った。

先日書店でこの本を探したが見つからなかった。91年発行、既に絶版かもしれない。

今回は辰野金吾から東京駅に逃げて終わりにする。次回引くカードは何だろう・・・。

スタディモデル東京

2008-02-01 | A あれこれ


① アトリエ・ワン展 @ギャラリー間(0703)


② 塩尻市民交流センターのスタディモデル ワークショップの会場にて


③ カフェのスタディモデル

 モノを創ることには根源的な喜びが伴うように思う。別に教えるわけでもないのに幼児が積み木を積んで遊んだりすることがそのことを示しているのではないか。建築(別に建築に限ったことではないが)の模型を作ることも同様に楽しい。

さて、建築の模型は①のようなプレゼン用(一般的には建築の完成した状態を表現した模型)と②や③のような計画の検討用とに大別される。最近では模型に替わってCGによるプレゼンや検討も行なわれるようになったが、CGと模型、両者には決定的な違いがある。CGの空間はバーチャル、模型の空間はリアルなのだ。

やはり模型の方がプレゼンにも計画の検討にも好ましい、とアナログ人間の私は思う。

③は都内の私鉄沿線の住宅街に計画された9坪位の小さなカフェの検討用模型。既存の木造の1階の一部のリフォーム計画。

手前の2面の壁は取り外されているがその壁についている窓からこの空間を覗くと実にリアルに見える。上方からの光がカウンタートップにあたる様子や空間の光の分布などがよく分かる。

この空間を決定的に規定するのはやはりキッチンカウンターだろう。ここには機能性とインテリア性がシビアに求められる。この部分が上手く出来れば、シンプルでモダンな空間が出来るのではないか。友人から内装などの計画の説明を受けてそう思った。

前面道路に沿って桜並木が続いている。道路に面した壁(模型では外されているが)の縦長の窓からは桜が美しく見えるに違いない・・・。そのことを実際に確認するのを楽しみにしている。


壱のツボ 繰り返しが生むリズムを楽しむ

2008-02-01 | B 繰り返しの美学



 NHKのテレビ番組「美の壺」が既に何冊か本になっていることを知った。その内の1冊「アール・デコの建築」を書店で見つけて購入。

お馴染みのアート鑑賞マニュアル。アール・デコ建築鑑賞マニュアルの三つのツボの内、壱のツボは「繰り返しが生むリズムを楽しむ」! このツボは、私が取り上げる繰り返しの美学と同じ視点でアール・デコ建築をまず鑑賞しようというわけだ。因みに弐のツボは「つるつるした素材が格好いい」、参のツボは「ビルの表情を壁に見よ」。

この本には日本のアール・デコ建築の代名詞ともいえる旧朝香宮邸(現東京都庭園美術館)が取り上げられている。アール・ヌーヴォーは曲線的、有機的なデザインが特徴。その後、1920年頃に始まったのアール・デコといえば直線的、幾何学的。確かに繰り返しの美学が存在しそうな特徴を備えている。

右の写真は旧朝香宮邸の大広間の照明。繰り返しの美学。私がブックマークしているあるブログにもしばらく前に、この建築の繰り返しの美学を捉えた写真がアップされていた。

今ここでこの展覧会が開かれている。会期は3月31日まで。これはもう行くしかない!



東京都庭園美術館のHPより転載