和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

汗と不満と甘い夢。

2008-10-24 | Weblog
10月の新聞もたまったので、ちょいと整理。
ノーベル賞の受賞記事をあらためて興味深く読みました。
まずは年齢順に南部陽一郎氏。

素粒子論の世界的権威。
物質の質量の起源を説明する「対称性の自発的破れ」や量子色力学、ひも理論など数々の独創的なアイデアを提唱。素粒子の標準理論の構築に大きく貢献した。独創的な研究は、
「10年先を知りたいなら、南部の論文を読め」と高く評価された。
シカゴ大学の研究所同僚は「名誉教授となってからも毎日のように研究所に来て・・」

昨年帰国した際の取材には「物理学の醍醐味は、クロスワード・パズルのような謎解きの面白さ」と語られております。

以上は産経新聞の10月8日社会面の記事。
そのあとに、こうもありました。

「論語の『学びて思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し、思いて学ばざれば則ち殆(あや)うし』が信条。自分で考えることと、他人から教わることはともにないがしろにしてはならない、という意味だ。『研究は汗と不満と甘い夢でなり立っている』。自身はかつてこう話した。・・・」

産経新聞の10月9日にも南部氏へのインタビュー記事。
「『ひらめきじゃないですよ。2年間考え続けた』・・・シカゴ市内の自宅で、受賞理由となった理論は着想から2年がかりで導き出したもので、研究には日々の努力が大事だと強調した。」「『世界中の論文が毎日、新聞のように手に入る』現在の学生や研究者が置かれる環境を『幸福だと思う』と話す一方、『自分自身で考える暇がないことがあるかもしれない』と独創の大切さを説いた。」


それでは、ここで余談にいきましょう。
論語の「罔(くら)し、殆(あや)うし」。
穂積重遠著「新訳論語」(講談社学術文庫)には
こんな余談が記されておりました。
「これは学習と思索との伴わざるべからざることを述べたもので、現代の学問・思想にも適切な名言と思うが、かつて東大法学部の入試問題として、この語を読んでの感想をしるせ、というのを出したことがある。」
その中の愉快の答案が引用してあったのでした。
ではその答案
「自分は高校の水泳選手で、初心者をコーチしたが、どうしても泳げるようにならなぬ者に、二種類ある。第一種は教える通りに手足を動かすが自身に浮こう泳ごうという気のない者、これは『学びて思わざる』者である。第二種は、浮こう泳ごうとあせってむやみに手足をバタバタさせるが少しも教える通りにしない者、これは『思いて学ばざる』者である。いずれも水泳が上手になれぬ。あにそれ水泳のみならんや。」


桑原武夫著「論語」というのがあります。
そこからも、引用しておきましょう。

子日、學而不思則罔。 思而不學則殆。

子日わく、学んで思わざれば則ち罔(くら)し。思うて学ばざれば則ち殆(まど)う。

「学的生活における態度の問題を『学』と『思』との対比においてとらえたものである。『学』とは先王の道を書物によって、あるいは書物を媒介とする先生の教えによって、習い知ることである。『思』とは自分自身が思索することである。古典を読むばかりでみずから精神を悩ませて考えることをしないと、受動的に学的蓄積がふえるのみで、能動的に整理されることがない。ぼんやりと混乱して焦点のない学問になる。反対に個体的思索にのみふけって人類の知恵ともいうべき古典によって規制することを怠るならば、独善的な堂々めぐりにおちいって疲労困憊し不安定な妄想に終るおそれがある。『殆』という字は古注では『つかる』とよんでいるが、朱注では『あやうし』とよむ。私は武内義雄のよみに従い『まどう・惑う』と解しておいた。
仁斎が、『昔の学者は思うことが学ぶことより多く、今の学者は学ぶことが思うことより多い。』と解説しているのは面白い。文献主義の批判であると同時に、彼自身の独創的思想家たる面目がうかがわれるからである。もっとも仁斎ほどの才能のない青年学徒が基礎的読書ないしトレーニングを怠って、ただ性急に独創性にあこがれることの危険を忘れてはならない。古人の模倣を通過しない秀れた新しさなるものはありえない、といったのはたしかアナトール・フランスだった。
『衛霊公第十五』の31に『子日わく、吾れ嘗(かつ)て終日食らわず、終夜寝(い)ねず、以て思う。益無し。学ぶに如かざる也。』とあるのは、この章の後半の部分を体験的に述べたのである。あわせ考えてほしい。」


論語をろくすっぽ通読したことがない私は、せめて、こうして摘み食いをして楽しむのでありました。ちなみに、読売新聞10月15日「顔」欄。そこに「子供向けの論語読書会をスタートさせる 下村澄(きよむ)(79歳)」という記事がありました。
そこには、「論語の子供塾を25日から東京で始める。計60人の定員は満員。『子供が変れば大人も変わる』と期待する。」とあるではありませんか。なるほど。
コメント
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