徳岡孝夫著「舌づくし」(文藝春秋・2001年)のあとがきを紹介。
「これは平成12年暮までの8年間、季刊誌『四季の味』に寄せてきた
拙文を一冊にまとめたものである。一部は割愛した。
私は食通ではない。食生活の大半を妻に依存し、
妻の出す料理で満足してきた者である。
私のような者が、こんな話でもいいのかと、
内心ビクビクしながら書き続けた。・・・・
掲載誌を見ると、我ながら目も当てられぬ仕上がりだった。
ところが、その後まもなく編集者吉村由美さんから、
もう少し長いのを毎号書かないかとの誘いが、手紙で来た。
・・・寄稿者は吊ってある梵鐘で、放っておけば物音ひとつ立てないが、
編集者に撞かれることにより鐘それなりの音を出す。
食べ物に無趣味無風流だし、もともと鋳造が悪いから
ロクな音色は出せないが、吉村さんに撞かれて
私は年に四度、聞き苦しい音を出すことになった。・・・ 」
あとがきの最後も気になるので引用しておきます。
「 この本がもしどこかの図書館に買われたら、
どの棚に分類されるのだろうと、いま考えている。
明らかに料理の本ではない。文章を練りに練った随筆でもない。
一つのテーマに狙いを定め、読者に取材の結果を報告する
ノンフィクションでもない。校正刷を見ながら思案して、
ふと適当なのに思い至った。
それは、たぶん『 昔噺 』か『 雑 』の棚であろうと。 」
この『 昔噺 』と『 雑 』から、本文をすくいあげるのは困難。
はい。困難を承知で一ヶ所引用。
「・・ビールの味を決めるのは、味よりも気温と湿度と
飲む者の渇き具合だと信じている。
もう一つ、なくてならないのは、
テーブルの向こうに座る好き友だろうか。 」(p82)
はい。酔いながら、良き友と話ができる。
当ブログの理想はそれかもと望みは高く。
まったくもって、引用ばかりですけれど。
話がかわるのですが、今年あらためて読もうと思っているのですが、
山本七平(イザヤ・ベンダサン)がいる(何度も読もうとしては挫折)。
徳岡孝夫は、月刊誌に連載コラム「紳士と淑女」掲載しておりました。
どちらも主要檜舞台は雑誌『諸君!』だった。そんなことを思います。
そこでは山本夏彦が巻末コラム、渡部昇一もエッセイを書いてました。
もう廃刊になって、ひさしい『 諸君! 』が、
今年になり、私にあらためて輝いてみえてくる。
もう一度舞台袖から、読み始められますように。