映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

祇園の姉妹  溝口健二

2009-08-12 20:56:20 | 映画(日本 昭和34年以前)
1936年の溝口健二監督の作品。京都祇園を舞台に美人姉妹が男を操り、操られる様子を描く。「騙す女」は戦後にかけて溝口のライフワークとなるテーマである。芸鼓の妹役を演じる山田五十鈴が若く美しい。戦前の京都の町が見られるのも価値がある。

京都祇園の芸鼓である山田五十鈴姉妹のところに、元姉のごひいきの男が破産して居候してくる。妹の山田は嫌がり、追い出そうとする。そこで姉を追いかける骨董屋の主人に山田がせびって、姉に内緒で男に金を渡し追い出す。山田は自分に好意を寄せていたのをいいことに呉服屋の若い衆をだまして、高価な着物をせびりだす。それがわかって呉服屋の旦那進藤英太郎に若い衆はお説教を受ける。しかし、山田の処に訪れた進藤に色目を使い、自分のいい人にしてしまおうとするが。。。

夜の男と女の世界はだましだまされというのは、昔も今も同じ。今もキャバクラの美女にいいようにやられている男たちがごまんといる。戦前戦後を通じて、溝口健二はこういう世界をずっと描き続けた。ただここで言いたいのは、「だまし続けるとろくなことがないよ。」ということなのであろう。祇園だからこういう騙しは当たり前と主人公はいう。でもそれが通じないことが出てくる。うそがうそを呼んで結局つじつまが合わなくなる。アメリカ映画「ニュースの天才」というのがあった。この映画の主人公は、報道の世界でうそにうそを重ねてつじつまが合わなくなった。同じことである。
山田五十鈴はこのときまだ19歳。彼女はこのころ嵯峨三智子を生んでいる。現代で見ても通用する美しさだ。数年前まで現役で舞台に出ていた。いまだ生きていらっしゃると思うとすごいとしか言いようがない。
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芦田淳 私の履歴書

2009-08-12 20:48:19 | 偉人、私の履歴書
今月の日経新聞「私の履歴書」はデザイナーの芦田淳さんだ。
先月の加山雄三さんが面白かったのに引き続き、12日までいい展開だ。

日本領土であった朝鮮にて生まれ、裕福な開業医の末っ子として豊かな少年時代を送る。兄たちはいずれも旧制高校から一人を除いて旧帝国大学に進み、エリート街道まっしぐらであった。ところが、開業医の父が亡くなり、跡継ぎもいないため、朝鮮の財産を売り払い、日本に帰国する。兄たちはいずれも10以上の年上で、まだ小学生だった芦田氏は、母と共に兄たちの元に預けられる。しかし、兄たちと違って、芦田氏は劣等生。病気で一年遅れたあと、英語ができず旧制中学にして二年落第してしまう。芦田家にも戦争の影響は出てきて、羽振りのよかった少年時代と違い、きつい生活を送ることになる。しかも長兄が戦死。三兄は運良く出征を免れるが若くしてなくなってしまう。そんな中、小さいころからデザイン画を書くことが好きな彼は当時有名だったデザイナー中原淳一のもとに通いつめ、弟子になることに成功してチャンスをつかみかけているところである。

「私の履歴書」では東大に向けて、少しの努力であっさり入学してしまってそのままエリート街道まっしぐらの人もいれば、大学は当然いけず貧乏のどん底の中で這い上がろうとしている作曲家の遠藤実のような人もいる。芦田淳は後者に近いが、生まれはかなり恵まれている。勉強ができなくて劣等生ということでは水木しげると共通している。分野は違うが、絵を生涯の仕事にすることも一緒である。芦田氏の少年時代は育ちのよさそうなお坊ちゃん顔である。年が離れて生まれた末っ子なので、お母さんに大事に育てられたと思しき写真が毎回出ていた。デザイナー志望でのた打ち回っているときの写真になって初めて人相が変わってくる。

芦田淳は戦前の朝鮮で生まれている。「私の履歴書」では野村證券の田淵さん、電通の成田さんと朝鮮育ちの人が毎年一人出ている。こうしてみると戦前朝鮮が日本領土であった印象がますます強くなる。私が敬愛する作家の中島敦も朝鮮で高校まで行っている。戦争に入って一転して苦しい生活を送らざるを得なかった芦田家が、一つだけ運がよかったことがある。それは羽振りのよかった開業医の父が亡くなって、跡継ぎがいないので財産を売り払って日本に戻ったということだ。昭和16年とのこと。当然朝鮮にいれば財産は無くなってしまったわけであるから、運がよかったと思う。逆にもしも戦前のまま続いていたらどういうことになったのか?「もしも?で考えると面白い。」といったのは小泉信三先生。香港のように整然と返還とは行かず、結局ゲリラ戦で大荒れの国土になったであろう。

今日までは痛快な連載が続いた。「私の履歴書」はこのくらいまで面白いけれど、後が続かないときもあり、これからに期待したい。

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