映画とライフデザイン

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映画「人情紙風船」 山中貞雄

2014-08-12 20:18:09 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「人情紙風船」は昭和12年の山中貞雄監督による作品
戦前の映画では名作とされているが、見るのははじめてである。
27歳だった山中貞雄監督はこの作品を撮り、中国戦線で亡くなってしまう。気の毒としかいいようにない。


江戸深川の貧乏長屋で老浪人が首つり自殺した。長屋に住む髪結いの新三(中村翫右衛門)は、強欲な大家・長兵衛をそそのかして、故人へのはなむけと称して大宴会を開く。新三の壁隣には、紙風船の内職を営む、浪人海野又十郎(河原崎長十郎)とその妻おたきが住んでいた。


新三は自分で賭場を開き、地元を取り仕切る大親分弥太五郎源七の怒りを買っていた。源七の子分(市川莚司)が新三を連れ出しに来たが、新三は隣の又十郎の部屋に逃げ込み難を逃れる。又十郎は亡き父の知人毛利三左兵衛に士官の途を求めるが、毛利は色よい返事はしない。毛利は質屋白子屋を訪ねる。店主の娘お駒を家老の子息が見初めたためその縁を取り繕うとしていたのである。彼女は店の番頭忠七と出来ていたが、忠七は何も出来ないでいた。

白子屋の店先で毛利を待っていた又十郎だが、毛利の依頼で白子屋が差し向けた源七の子分らに叩きのめされる。それを救おうとした新三だが逆に子分らに捕まり、源七の元に連れて行かれる。散々絞られた新三だが、気に入らない源七の鼻をあかそうと再び賭場を開く。しかし源七の子分らに踏み込まれ一文無しとなる。

その夜、金のない新三は元手を作るべく髪結いの商売道具を質に入れるため白子屋を訪ねるが、忠七にコケにされ憤慨する。翌日おたきは向島の姉に会いに出かける。
その夜は縁日だったが大雨となる。そこでお駒を見かけた新三は昨夜の仕返しに彼女を誘拐する。


雨の中毛利に懇願する又十郎だったが毛利は拒絶、二度と姿を見せるなと言い放し父の手紙を雨中に放り棄てる。帰宅した又十郎は新三がお駒を誘拐してきたことを知る。翌朝白子屋の命を受け源七らが新三を訪ね、お駒を帰すよう説得する。金を渡し穏便に済ませようとする源七に対して新三は、源七が頭を丸めて土下座すればお駒を帰すと言う。憤慨しながら源七らは長屋を去る。


実はお駒は隣の又十郎の部屋に匿われていたのだった。
この騒ぎを聞き大家の長兵衛がやってくる。強欲な長兵衛は身代金をせしめようと提案、交渉は自分に任せろと白子屋に乗り込む。50両の金をせしめた長兵衛がお駒を連れ戻しに帰ってくる。長兵衛は半分の25両を自分の手間賃と言い、呆れた新三はそれを飲む。まとまった金が入った新三は長屋の連中に酒を奢ると宣言。又十郎にも分け前を渡し、居酒屋に連れ出す。
帰宅したおたきは長屋の女房達の立ち話から、又十郎が悪事に荷担したことを知る。

1.下町人情
昭和12年といえば、明治維新からちょうど69年だ。今年が敗戦から69年なので年数的には同じである。
その感覚で言えば、江戸の生活はまだ伝承されていたに違いない。江戸時代の話し言葉もこんな感じだっただろうか。その貧乏長屋に住む遊び人の髪結いと任官されない浪人の武士の2人が中心で話が進む。
長屋の中にはメクラの市をはじめ、多種多様な人間が背中合わせに住んでいる。金に目ざとい大家も絡んでくる。最初に映し出される通夜ぶるまいのドンチャン騒ぎが江戸の大衆宴会なのか?まあはしゃぐこと。貧乏長屋は映画でよく見るが、奥行きを浮かび上がらせる構図は妙にしっくりくる。山中貞雄は27歳なのに、映像の構図を巧みにつくる。

2.町の顔役
質屋の白子屋では、ややこしいお客が来ると、番頭は使用人に「薬屋に行っておくれ」と頼みごとをする。
これ自体は暗号みたいなもので、本当は地元を取り仕切る親分のところへ行き、腕っ節の強い子分たちを呼んでくるのである。
浪人武士も髪結いの遊び人も刺青をした子分たちにお仕置きを受ける。面倒な処理は全部地元の親分に頼むのがその町の決まりだったかのようだ。みかじめ料を質屋が親分に届けるシーンもある。

日本という国が、江戸時代からやくざと切っても切れない関係にあったことを示す話だ。
戦前社会でこれ自体がすんなり受け入れられていたのであろうか?
最近は暴力団撲滅で、関係を持つだけで罰を受ける。こういう関係は戦後すぎてしばらくは続いていた。
政治家だってうまく利用したし、特に芸能界やスポーツ興業とやくざの関係は顕著なものであろう。

3.加東大介のチンピラぶり
クレジットには昔の芸名になっているが、加東大介が地元の顔役の子分として出てくる。
ここでの彼を見て、黒澤明「用心棒」のチンピラ役とそっくりだということに気づく。眉毛が異常に濃い男で、仲代達矢と山田五十鈴らの子分だった。


「人情紙風船」の頃は20代、戦後は「大番」のギューちゃん役がはまり役だ。
東宝のホームドラマ系でいい人役が増えるが、ワルの役柄も少なからずある。「女が階段を上るとき」のように結婚詐欺師みたいな役も印象的だ。

4.浪人武士
貧乏長屋に浪人武士が妻と2人でひっそり住んでいる。主人公の1人だ。任官してもらおうと、上役に陳情するが、面倒がられるつらい立場だ。妻も内職で紙風船を作っている。まさに題名の紙風船だ。長屋仲間の悪事に加担したと聞いて、最後に道連れで旦那を殺してしまう。このあたりの心理だけはまったく理解不能。武士とその家族はプライドだけで生きているみじめな人種だ。

うーん。
悪くはないが、名作と評価するのはちょっと大げさじゃないかなあ


コメント (1)
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