キッズ・リターン | |
金子賢,安藤政信 | |
映画「キッズリターン」は1996年の北野武作品だ。
「キッズリターン」は1996年のキネマ旬報ベストテンで2位の高評価を受けている作品だ。北野武は出演せず、監督に徹している。機会がなく見れていなかった。教師に逆らってばかりいるはぐれ高校生2人が主役で、ボクシング、やくざの道それぞれの頂点を目指して悪戦苦闘する話である。
見ていて、最初は単なる不良のいたずら話かと思ったら、ボクシングジムに2人が入門するあたりからテンポがよくなる。さまざまな登場人物を好位置に配置して、2人のゆくえに大きな影響を与えさせる。
脇役を充実させ、重層に展開させる北野武の脚本が実にうまい。もともと大学では工学部であった北野武が他の作品以上に綿密な設計図を書いて「キッズリターン」をつくった軌跡を感じる。出演していない分、客観的に映画作りができているのではなかろうか。疾走感のある映像を映すカメラの巧みさも冴え、傑作と言えるものとなっている。
18歳の秋、シンジ(安藤政信)とマサル(金子賢)はいつもつるんで学校をサボってはやりたい放題の毎日を送っていた。ある夜、ヤクザ(寺島進)に絡まれたシンジとマサルは、それをいさめた組長(石橋凌)の貫禄にさすがだと感じる。そんなころ、以前にカツアゲした高校生が助っ人に呼んだ男にのされてしまったマサルは、自尊心をひどく傷つけられ、自分もボクシングを始めるのだった。
酒もタバコもすっぱりやめたマサルは、毎日ジムに通って練習に励んだ。そんなマサルに連れられてジムを訪れたシンジも、なりゆきからジムに入門することになった。ところが、遊び半分のスパーリングで、マサルに鮮やかなカウンターを浴びせたシンジは、センスの良さをジムの会長(山谷初男)に認められ、本格的にプロを目指すことになる。面白くないマサルはジムをやめ、以前出会った組長のもと、ヤクザの世界に足を踏み入れてしまう。マサルは学校にも来なくなり、互いに顔を合わせることもなくなっていった。
高校を卒業したシンジは、いよいよプロボクサーとしてデビューし、着実にその才能を伸ばしていた。マサルは今では子分をかかえてシマを任されるまでにのし上がっている。ある日、マサルがシンジを訪ねてジムにやってきた。ふたりは、お互いにそれぞれの世界でトップに立った時にまた会おうと約束する。
1.脇役の使い方のうまさ
ヤクザの組長(石橋凌)、若頭(寺島進)、ジムの先輩のハヤシ(モロ師岡)、同級生で漫才をやるコンビ、内気な高校生と常連の喫茶店の母娘など、各登場人物に意味を持たせてつなげている。北野武の脚本は重層構造で、物語に深みを持たせる。同時並行で同級生たちの成長物語を語っていく。
シンジの先輩のハヤシのうまさはこのあと語るが、やくざの組長の石橋凌がうまい。突っ張っているマサルが若頭に突っかかっていくときに、見どころある若者だとみなしてか組長は優しく取り扱う。その組長はタバコを買ってきてと一万円札を渡す。釣りはいらねえよというその見栄っ張りぶりを繰り返し見せる。よくありげな感じだがらしさがにじみ出ている。
2.ボクシング映画のもつスピード感
カツアゲの仕返しで連れてこられたどこかのアンちゃんに、マサルがパンチで仕留められる。粋がってもケンカの実力がないことに気づき、ボクシングジムに入門する。ところが、マサルの付き合いで入門したシンジのパンチをみて、トレーナーが筋の良さを認める。
教えていくと面白いくらい上達して、結局マサルよりシンジの方が強くなり、マサルはボクシングジムを辞める。そして、ジムで指導を受けながら勝ちまくっていく。このあたりの展開がいかにもスポーツ映画特有の上達への一本道だ。こういうときのスピード感は見ていて心地よいものだ
ところが上昇もあれば、下降もある。元新人王だというハヤシという先輩は、飲みにつれていったりシンジを誘惑にさそう。普通ボクシング映画では、「レイジングブル」のジョー・ペシ、漫画でいえば丹下段平のように狂ったように指導の鬼と化すトレーナーがいるものだが、ここではそこまでの存在ではない。そのためか、先輩の悪影響だけで徐々にペースを崩していく。でもこの転落があるからこそ映画が成立する。