山梨百名山から見る風景

四方を山に囲まれた山梨県。私が愛して止まない山梨の名峰から見る山と花と星の奏でる風景を紹介するページです。

Crescent moon 雲海に昇る月 鳳凰山(前編)

2010年09月09日 | 南アルプス
 平成22年9月4-5日

 ジャズバイオリニストの寺井尚子という人の『Jealousy』というアルバムの中にcrescent moonという曲がある。細い三日月が静かに空に昇るイメージの曲だ。この曲のイメージに合わせた風景を撮りたかったのだが、なにせこの猛暑日の続く天候、空には入道雲がかかり、午後から夕方にかけてはいつ雷をくらってもおかしくない天候、そして空や山が全く見えないのだ。昨年もそうだったが、6月以降、まともな星空は全く撮影できていない。そして久しぶりに訪れた週末のチャンス、空が晴れてくれれば未明2時半ごろ、東の空からオリオン座に引きずられるように二十六夜の月が昇ってくるはずだ。久しぶりの鳳凰山、甲府盆地に昇ってくるcrescent moonを狙う。
 青木鉱泉からの入山は決めていたが、ドンドコ沢を登るか、中道を行くかは車を運転しながら決める。思えば5年前の初心者の頃に初めて中道コースを登って、とんでもなく辛い思いをした鳳凰山、下山して4~5日間筋肉痛に悩まされた。果たして少しは体力がついたのだろうか?5年間の成長を試すべく、中道ルートで登りドンドコ沢を下ることにした。山上に水場はないので、4リットル近い水をザックに背負い込み、9時10分、青木鉱泉を出発。途中で薬師岳小屋に宿泊の連絡をとろうとしたが電波が悪くつながらず、いざという時はツエルトとシュラフカバーで寝る覚悟で行く。中腹の林道との交叉点に11時、御座石という大岩のところに午後2時到着。毎度の事ながらコースタイムに及ばない遅いペースだ。御座石の少し下で薬師岳小屋の従業員とすれ違い、宿泊場所を聞かれて予約していないことを告げると、連絡を入れておいてくれるということだった。午後4時、薬師岳山頂到着。甲府盆地は見えるものの、山には雲が巻いて富士山も白根三山も見えなかった。夜の撮影場所を確認すべく、観音岳側に進んで富士山や北岳の方向、そして足場を確認し、4時半に薬師小屋に入った。連絡を入れておいてくれたおかげで、名前を告げると小屋番の女性はすぐにわかってくれた。

    中道コース上部にある御座石。ここから薬師岳まで1.5時間。


    ようやく見えた薬師岳山頂。このあたりから一気に眺望が開ける。

 5時半、夕食となる。向かいに座った若い女性の方は朝一番のバスで5時夜叉神峠から歩き始め、9時45分には薬師岳小屋に到着したという。また、横に座ったやや高齢の男性は前日夜叉神峠小屋に宿泊し、朝9時に薬師岳小屋到着したという。2人とも1日で鳳凰山縦走可能なペースだ。そういえば、夜叉神峠コースは冬期に何度も歩いているが、夏場は一度も歩いたことがないことに気付く。今度試しに歩いてみなければ。しかし、私の足ではやはり6~7時間かかるのではないだろうか。

    北岳の上に輝く金星  しだいに空が晴れ、山や星が見え始める。

 夕暮れの頃に薬師岳に登ってみると、北岳が雲に巻かれながらも姿を見せ始めていた。その上に沈みかけた明るい金星が輝く。7時過ぎまで景色を楽しみながら撮影していたところで電池切れとなり、一旦小屋に戻る。砂払山側の広場で数人の人たちが星空を眺めていたので、仲間に入れてもらって一緒に空を眺める。空が暗くなるにつれて霞が晴れ、一面の凄い星空になった。そして南西の空に寝そべったさそり座が、さらに空を横切る白い帯、天の川がはっきりと見えるようになってきた。思いもよらない星空に出迎えられ、未明2時まで小屋で寝ようと目論んでいたのだが、そうはさせてくれないようだ。寝るか、行くか、少しばかり迷ったが、こんな好条件の空はめったにお目にかかれない。乾燥室に干しておいた服やタオルをザックに詰め込み、山上で一夜を明かすことにして出発する。(小屋で用意してもらった寝床は結局一度も使うことはなかった。)

    薬師岳の岩峰に昇る木星と雲海上の富士山


    白根三山と天の川  観音岳山頂から見るとこの位置に収まる。

 薬師岳の稜線に登ると、空はすっかり晴れ、白根三山が姿を現していた。その南側に天の川の中心部分が昇っている。画角的に良い位置を探しつつ、観音岳を目指して三脚を担いだままどんどん進む。いつもならば眩しいほどの甲府盆地の灯りが広がっているのだが、この日は眼下一面に雲海が広がり、甲府盆地はその下だ。おかげで町明かりが遮られて凄い星空が楽しめた。雲海の上に富士山も顔を出している。迷うことも、転ぶことも無く観音岳山頂に到着。心地良い穏やかな風が吹く最高の夜だ。山上にいるのはもちろん私一人だけだ。木星が、白鳥座が、夏の大三角形が、そして北側にはカシオペア座と北斗七星が輝く。久しぶりに見る夏の天の川の美しさにはため息が出るほどだ。

    雲海の富士に輝く木星  レンズに吐息を吹きかけ、光を拡散させて撮影。


    薬師岳の上に立つ夜富士  これは長時間バルブ撮影。

 眠るのは惜しい夜だったが・・・少しは寝ておかないと明日の下山にこたえる。10時半、ツエルトとシュラフカバーを被り、観音岳山頂ケルンの横に横たわらせてもらい、星空を見上げながら仮眠する。(後編に続く)



   (おまけの1枚)雲海に昇る月と冬の大三角形  後編にご期待ください。
コメント (2)
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