山梨百名山から見る風景

四方を山に囲まれた山梨県。私が愛して止まない山梨の名峰から見る山と花と星の奏でる風景を紹介するページです。

東北被災地巡礼Ⅳ  石巻~女川~南三陸 平成24年8月25日

2012年08月27日 | 番外編
 今年3月に東北被災地を訪れた際に、女川町の「おかせい」という食堂かつ鮮魚店に立ち寄らせていただいた。食事をした後にその店のおかみさんに津波の時の話やその後の生活の話を伺い、涙せずにはいられなかった。それからのおつきあいで、妻が数回山梨の桃をおかせいに送り、お礼に新鮮なほたてや毛ガニをいただいた。そのお礼と、その後の被災地の状況を自分の目で見たくなり、1日休みをとって金曜日、土曜日の1泊2日で被災地を回って来た。今回はまだ訪れていない大川小学校にも立ち寄った。
 まずは仙台に1泊。甲府から圏央道と東北道を使って480㎞ほどの距離があり、甲府を午前11時に出発して午後6時、仙台に到着した。ホテルにチェックイン後、まずは食事に。仙台といえば牛タン、前回ふらりと入店した国分町の「一福」というお店の味噌焼き牛タンが絶品で、再びその店を訪れる。あまり大きな店ではないが芸能人の色紙がずらり、ゆずやコブクロの色紙もあった。もうひとつおすすめメニューは牛タンのさしみ。半分凍りついて油の乗った牛タンさしみは甘みがあって絶品、ここでしか食べたことが無い。

 そして翌朝、9時にホテル出発してまずは石巻に向かう。

    石巻市立病院周辺の住宅地は草むらに変貌していた。観光バスで視察に来ている人たちも見かけられた。


    火災にあった中学校。がれきが散乱した住宅跡は草むらに変わっていた。


    石巻市立病院はそのまま手つかずの状態。水たまりはやや悪臭を放ち始めていた。

 さらに北上して女川町に向かう。まずは前回は訪れなかった女川医療センターの高台に行ってみた。

    女川の医療センター。右の救急車が停まっているところが救急医療センタ-、左が介護支援センターになっているらしい。


    医療センターとその上の高台にある熊野神社。


    救急医療センターの前にある柱に津波到達地点が記されている。1階部分は完全に水につかった。押し寄せてきた波よりも引き波のほうが水位が高かったそうで、医療センター前から見ていた人たちの多くが引き波で犠牲になったそうだ。


    医療センターから見下ろす女川の町と女川湾。石巻とは異なり、こちらは整地されている。中央は津波で倒れた鉄筋住宅。


    駐車場の隅に設けられた慰霊碑。


    医療センター上の高台にある熊野神社。ここに登っていた人たちは助かった。


    熊野神社から見下ろす医療センターと女川の町。


    津波で倒れた鉄筋住宅。保存するか、片付けるか町民の意見が分かれたそうだが、公園にして保存することになったようだ。

 午前11時半、今回の一番の目的地、「おかせい」に到着した。道路を隔てて向かいにあった工場らしき建物は撤去され、駐車場に変わっていた。そして左脇の広場も一部整地されて車が置けるようになっていた。中に入っておかみさんに挨拶すると、「桃の人が来た」といって従業員の皆様に紹介してくれ、大歓迎された。社長さんまで挨拶に来てくれて、津波の時の状況や今後の計画など、いろいろお話を聞かせていただいた。引き波で多くの人たちが犠牲になったことも、公園になるという話も社長さんから聞いた話だ。そして現在急ピッチで整地が行われている場所は10mほどの盛土にして底上げし、8年計画で町を復興して行くそうだ。社長さんをはじめおかせい従業員の皆さん、復興に向けて活気十分で、私たちのほうが元気をもらった。

    「おかせい」 食堂と鮮魚店が一緒になっている。手前にいるのが社長さん。


    一押しの海鮮丼。このボリューム、しかも毛ガニ汁が付いて1,200円は激安!!

 さらに海沿いを北上し、甚大な被害を受けた雄勝町を通過して北上川河口近くに立つ大川小学校に立ち寄る。ここは避難が遅れ、76人もの犠牲者を出した場所だ。

    大川小学校。花壇が設けられ、弔問者が後を絶たない。


    大川小学校全容


    裏側に高台になった草地があるが、震災当日は雪が積もって凍っており、小学校低学年の児童が登れるような状況では無かったと聞く。そのために橋の方向に避難しようとしたのかどうかは定かではないが、もし自分がその場にいたらどうしたか・・・あれほどの津波が来るとわかっていれば、この山の上しか選択肢は無かったかもしれないが、それは結果を見ているから言えることだろう。

 さらに海沿いを北上、最後の目的地、南三陸志津川町を訪れる。昨年8月に訪問した時はあまりの酷さにやりきれない虚しさと脱力感を覚えた。あの時はまだ手付かずだった公立志津川病院は重機が入ってようやく撤去されているところだった。こちらも住居跡は草むら化していた。防災対策庁舎は保存するらしく、そのまま建物は残っており、こちらも観光バスを含めて弔問客がたくさん訪れていた。

    草むら化した住宅地跡。向こうの重機が入っているところが公立志津川病院。建物はもうすっかり取り壊されている。その向こうは相変わらずの瓦礫の山。


    防災対策庁舎と弔問者たち。


    防災対策庁舎。

 時間は午後3時半。帰り際に志津川町の町はずれにある仮設商店街に立ち寄る。観光客向けだけでなく、仮設住宅の人たちの支援も兼ねているようで、スーパーの中の食料品はずいぶん安い値段で売られていた。一般道を1時間ほど走って築館インターから東北道に乗り、あとはひたすら車を飛ばして帰るだけだ。途中のサービスエリアに忘れ物をして引き返して回収するというアクシデントもあったが、休憩を交えつつ未明1時、自宅に到着した。さすがに運転疲れと車酔いで翌日午後まで自宅で寝た。

 今回視察した中では女川がいちばん復興に向けての作業が進んでいるように感じた。おそらくは山が近いという立地条件から高台が整地し易いという好条件があるからかもしれない。石巻や南三陸はいったいどうなるのか?整地したとしても果たしてそこに家を建てて住めるのかどうか・・・このまま荒れ地になってしまうのだろうか?まだ計画すら立っていないのではないだろうか。そして瓦礫の処理も。
 いつも野次馬のようにしか訪れていない私が言うのもおかしいかもしれないが、被災地の本当の復興を心から祈りたい。
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アサギマダラ舞う黒岳  平成24年8月19日

2012年08月20日 | 山梨百名山
 天候不順な日が続いた8月中旬、期待していたペルセウス座流星群も、そして24年ぶりの金星食も空模様が悪く、山に登らずに終わってしまった。週末できれば南アルプスに入りたかったが、天気予報は雨。18日は朝からどんより曇り空で、お昼ごろから雷が鳴り出した。高校野球を見ていたら向こうも雷鳴が轟き、稲妻が何度も走る映像が映し出されていた。こんなのを山の上でくらったら大変だ。5月連休の大菩薩縦走の時を思い出す。

 19日の日曜日は朝から青空が広がった。三つ峠ライブカメラを見ると、中腹に雲をまとった富士山がすっきりと見えている。暗いうちから山上に登っていれば綺麗な夏富士が撮影できただろうが、最近は根性が無くなって来た。時間はもう8時を回っている。どこに行くか迷いつつ車を走らせ、ホームグラウンドの御坂山塊にレンゲショウマを見に行ってみることにした。大石峠から節刀ヶ岳に至る尾根にたくさん咲いていたのを思い出すが、同じような条件の日向坂峠(どんべいとうげ)から黒岳に至る尾根沿いにもあるに違いない。いつもは富士山撮影目的で新道峠からピストンで登ることが多い黒岳だが、今回は周回してみることにする。
 芦川の林道の新道峠分岐手前の広場に車を止めて10時半に出発する。気温は20℃、下界と違って比較的涼しい。林道分岐を左に曲がって日向坂峠方向に向かうが、看板は無いが峠まで行かなくとも途中から登る道があり、そこから登り始める。20分ほどで日向坂峠からの道と合流し、尾根道を登るようになる。途中で左に向かう細い道を発見、これはどこに行く道か?おそらくは右に行く本来の登山道と同じ場所に出るはずと予想しつつ、そちらの道を行ってみると、全く普通に歩ける尾根直登道で、あっさりと登山道に合流した。しかし、これとは別に、さらに山腹をトラバースするような獣道のように細い道を発見。そちらに行ってみることにする。

    登山道入り口。ここには道標が無いが、道は明瞭。


    20分ほどで日向坂峠からの道に合流する。ここには看板あり。


    右が本来の登山道、左にも行けそうな道あり。左に行くが普通に歩ける道だった。

 勝手知ったる御坂山塊だけに、最近はまともな登山道を少し外れて歩くことが多くなった。ほぼ水平に延びるこの細い道は踏み跡は無く、鹿の足跡らしき蹄型の足跡しかついておらず、若干崩落した個所もあったが難無く通過し、15分ほどで隣の尾根にたどり着いた。ここも踏み跡は無いがなんとなく古い道らしき痕跡があり、テープが数か所つけられていた。人が入っていないところはたくさん花が残っているかと期待したが、この尾根には何も無く、数本のレンゲショウマを見つけたのみだった。やや急な斜面を登って行くと、もうすぐ眼前のピークに登り着こうかというところで登山道に合流した。高度計(合っていないが)を見ると1,650mをあたりで、あと100mほど登れば山頂だ。

    右側から来る本来の登山道に合流するが、左に行く獣道のような細い道があった。


    15分ほどで隣の尾根に着く。明瞭な道は無いが数か所テープあり。


    ヤブレガサ群落。中央の木に小さな赤テープが巻きついている。


    あっけなく登山道に合流。右が登って来た尾根。

 ここから先は傾斜が緩くなり、林の中に花がたくさん咲き出す。お目当てだったレンゲショウマがたくさん咲いている。

    レンゲショウマ。林の中にたくさん咲いている。


    レンゲショウマ


    同上


    レンゲショウマの実


    トモエシオガマ


    黒岳の森

 オクモミジハグマが足元にたくさん咲くようになったきたところで、吸密しながらフワフワと中を舞う蝶を発見。山でこの蝶に出会うとうれしくなる、アサギマダラだ。さらに進んで行くと、戯れるようにたくさん飛んでいた。オクモミジハグマの花にぶら下がるようにして吸密している。そっと近付くがファインダーをのぞき込んで撮ろうとすると逃げてしまうため、カメラだけ前方に突き出してシャッターを切る。飛翔写真も試み、再三撮ったがすべてピンボケ、難しい。

    オクモミジハグマ


    発見、アサギマダラ!


    この場所ではオクモミジハグマを好んで吸密する。


    アサギマダラ2頭


    飛翔、アサギマダラ


    陽を浴びて舞うアサギマダラ


    タチフウロ群生。中央の紫色の花はシュロソウ。


    レンゲショウマ群生


    ミソガワソウ


    オオバギボウシ

 普通に歩けば2時間とかからないで到着できる黒岳だが、花や蝶と戯れつつ、2時間半かかって山頂に到着、時間は午後1時だ。展望台に行くと男性2人が休憩中だった。さすがにこの時間になると富士山は姿を見せてくれない。どんよりと暗い雲が山頂を覆っていた。

    黒岳山頂。この先の展望台まで行くと富士山の眺望抜群。


    黒岳展望台がら望む河口湖と富士山。左下に河口湖大橋が見える。


    標柱横に咲いたタチフウロとフシグロセンノウ


    フシグロセンノウ


    山頂に咲いていたマルバタケブキで吸密するスジボソヤマキチョウ


    山頂直下に咲いていた新鮮なマルバタケブキの花

 展望台で昼食後、スズラン峠側(新道峠方向)の道を下山する。日当たりの良いこちらの道沿いは林の中とは若干咲いている花が異なり、フシグロセンノウ、マルバタケブキ、ミヤマママコナなどが咲いていた。午後2時20分に駐車場到着、下山に要した時間は1時間だった。
 ほとんどが富士山撮影目的で、花を求めて登ったことがほとんど無かった御坂山塊だが、森の中にも様々な花が咲くことを改めて知った。富士山は見えなくとも十分に楽しめる山だ。

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南御室小屋周辺に咲く花たち  鳳凰山(おまけ)

2012年08月09日 | 山梨百名山
 いつもならば小休憩して通り過ぎてしまう南御室小屋ですが、初めて宿泊(テント泊)したので、周辺のお花畑と森の中を少しだけ花探ししてみました。小屋のお花畑は小さいですが、それでもテガタチドリをはじめとするいろいろな花が咲いていて楽しませてくれます。水場の周辺には南アルプス特産種のカイタカラコウも咲いています。

    南御室小屋の横(登山道脇)にあるお花畑


    キバナノヤマオダマキの群生。左には咲き始めたヤナギラン。


    テガタチドリとヤマハハコ。紫色の固い蕾はトリカブト。


    テガタチドリ。結構数はあります。


    ミヤマシシウド。大きな花なので存在感あります。

 こちらは水場の近くに咲いていた花。


    クルマユリ


    カイタカラコウと咲き始めたトリカブト。紫色が鮮やか。


    カイタカラコウとクモマベニヒカゲ。高山蝶です。


    こちらはルビー色が鮮やかなクジャクチョウ。裏側は真っ黒な蝶です。

 そして森の中(登山道沿い)をちょっと散策。


    キソチドリ。小型でしたがちらほらと咲いていました。


    イチヤクソウ。まだ蕾です。まわりには葉っぱがたくさん。


    コフタバラン。10㎝ほどの小さな花、雑草のようです。狭い範囲にまとまって咲いていました。

 広大なコケの生した森が広がる辻山界隈の森。探せばいろいろな稀少植物が咲いていそうな匂いがします。機会がありましたら、双眼鏡を持ってそっと森に入ってみたいと思っています。

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朝日射す山並 鳳凰山(後編)

2012年08月07日 | 山梨百名山
 1週間ほど前に鳳凰山を訪れた山仲間から、そろそろタカネビランジが見頃だという情報をいただいた。昨年は8月中旬に訪れたが、若干遅かった。今年こそは満開のタカネビランジを見てみたい。

 夜を徹して月光の鳳凰山を撮影していたためにかなり体がだるくて眠い。しだいにオレンジ色に染まって行く水平線を右手に見ながら、観音岳目指して登る。一晩中広がっていた雲海はあまり動かずにそのまま広がっている。

    雲海と夜明けの空


    夜明けの薬師岳と富士


    同上


    夜明けの雲海  山は奥秩父山塊。

 日の出前に観音岳には到着できず、中腹の展望の良い場所で日の出を迎えることにする。白根三山の上にはきれいなEarth Shadowが広がり、その上には夜の撮影に協力してくれた月が残る。白根三山の標高3,000mを超える尾根に朝日が射し、赤く染まったかと思うと、奥秩父山塊の空をオレンジ色に輝かせて朝日が昇る。

    白根三山とEarth Shadowの空


    残月


    朝日射す3,000mの山並み


    奥秩父山塊からの日の出


    朝日射す薬師岳


    白根三山の夜明け


    雲海に射す朝日

 この時間になると、薬師小屋泊りの登山者が続々とやって来て観音岳に登って行った。5時45分、観音岳山頂に到着。既に5~6人の登山者が山頂で景色を楽しんでおり、既に地蔵岳に向かって歩いて行く人の姿も多数あった。一休みしてここで軽く朝食をとる。それにしても、雲が多い盛夏だというのに今日の景色はなんと素晴らしいことだろう。中央アルプスから北アルプスまですっきりと見える。大きな望遠鏡を持ちこんでいた登山者が、遥か向こうに見える山を指射してあれは男体山と日光白根山だと言っていた。こんなに見える日は冬でも珍しい。

    夜明けの夏富士


    甲斐駒ケ岳と地蔵岳  後ろには北アルプスの山並み。

 眠気と疲れで地蔵岳まで行く元気は無く、ここで折り返して南御室小屋に戻ることにする。相変わらず三脚を担ぎながら、今度は花と山を写し込める場所を探しながら歩く。

    タカネビランジ  下に見えるのは地蔵岳のオベリスク


    タカネビランジと白根三山  朝日の角度が悪く、どうしてもカメラと自分の影が写り込んでしまう。岩陰に身を隠して撮影。


    コゴメグサと北岳  緑鮮やかな丸い葉はウラシマツツジ。


    タカネビランジと白根三山  まだ蕾のタカネビランジがたくさん生えている。


    何度見ても格好良い憧れの山、北岳。


    残月と白根三山  薬師岳山頂にて。

 薬師小屋の前で休憩していると、以前とはずいぶん違った光景に気付く。トイレが新しくなってバイオトイレに様変わり、しかも水洗だ。小屋番さんがちょうど出てきたので話をすると、1か月ほど前に完成したばかりだそうだ。借金がたくさんあるとか。小屋番さんの出身地を聞くと韮崎市だそうで、私の星の師匠、牛山俊男さんのことも良く知っていた。さらに話をしていると、この方は小屋番さんではなくて南御室小屋小屋主の小林さんの息子さん、つまり経営者だった。何度かお世話になっている薬師小屋だが、初めてお目にかかる。お父様と同様に気さくで話しやすい、良い方だった。
 さて、南御室小屋に向かって下山し、8時45分に小屋に到着。山上で食べるはずだったラーメンをここで調理して食べ、テントに入って横になる。12時まで寝るはずだったのだが、眠いのに寝付けない。2時間ほど横になって休んだが寝付けそうもないので11時に起きてテント撤収し下山する。その前に小屋周辺のお花畑を撮影し、小屋主の小林さんに挨拶をして下山する。だいぶ顔を売ったので、今度来る時は事情を話して夜到着で小屋に宿泊させていただこうかと思う。眠気と疲れと闘いながら、午後4時、夜叉神峠登山口に無事下山した。

 盛夏とは思えない澄んだ空と雲海、寝不足で疲れるには疲れたがそれ以上に収穫があった山行となった。
  (おまけの「南御室小屋周辺に咲く花たち」に続く。)

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月光の薬師岳 鳳凰山(前編)

2012年08月06日 | 山梨百名山
 木星と金星が接近している夜明けの東の空は、そろそろオリオン座も加わって賑やかになっている。以前から撮りたいと思っている風景、それは月光に照らされた薬師岳岩峰と富士山の上に昇って来るオリオン座だ。この日は十七夜の月が西に傾いた頃に夜明けを迎える日で、月をライティングに利用するには絶好の日だ。昨年も同じような条件だった8月中旬、ペルセウス座流星群とともにオリオン座を狙ったが、薬師岳の手前、砂払山での撮影に留まった。今年こそは・・・という思いがあったが、早い時間の出発は難しく、今回は南御室小屋にテント泊し、深夜に出発して未明の薬師岳を目指すことにした。

 平成24年8月4日
 業務を終えて甲府を出発したのは10時半になってしまう。コンビニで買い物し、夜叉神峠登山口を出発したのは12時半。流れる汗をぬぐいながら夜叉神峠まで80分もかかった。峠から見る白根三山は見事に雲の中だ。夏場のこの気温ならば山には雲が湧いて当然だ。雷に出遭わないことを願うだけだ。

    夜叉神峠登山口、12時半に出発。さすがにこの時間に登って行く人は見かけない。


    夜叉神峠。白根三山は雲の中。

 夜叉神峠の先の急登を登り、夜叉神の森、杖立峠の長い登りを越え、苺平には午後5時半に到着した。最近の鳳凰山はトレイルランの名コースにでもなっているのか、10数人のトレイルランナーとすれ違う。減速せずにやって来るランナーもいて、避けるほうも気を使う。そして6時15分、ひとまずは目的地の南御室小屋に到着した。さっそくテントの受付を済ませて幕営する。深夜にテント張ったままで星空の撮影に行くこと、撤収がお昼を過ぎるということを小屋番さんに話し、翌日のテント設営客に邪魔にならないよう、いちばん隅にテントを張らせていただいた。

    夜叉神の森。大きな倒木が横たわる。


    杖立峠。雲はますます厚くなっているように見える。果たして星は見えるのか?

 南御室小屋の水は冷たくておいしい。引かれたホースから出ている水もあるのだが、ここは冬に訪れた時に汲み慣れている水場に行って汲む。これこそ本当の南アルプス天然水だ。水場のまわりにはクルマユリや特産種のカイタカラコウなどが咲いていた。小屋の前で図鑑を見ながらテガタチドリの在処を小屋主さんに尋ねている団体さんがおり、またしてもしゃしゃり出て小屋の横にあるお花畑を案内して回った。テガタチドリとキバナノヤマオダマキ、タカネイブキボウフウがちょうど見ごろ、ヤナギランが咲き始めていた。この機会にカイタカラコウも紹介した。
 夕食をとり、7時半に寝て12時に起床の予定だったが、こういう時の睡眠時間調整のために持ち歩いている睡眠薬を切らしてしまい、そのまま横になったがやはり寝付けない。少しウトウトして時計を見れば10時、次は11時半。眠れないままに外に出てみると、夕方とは全く違う空が広がる。明るい月が昇っているのに空気が澄んで星が輝いているではないか。月明かりで天の川こそ見えないが、頭の上に夏の大三角形が輝いている。こうなると、もう寝てはいられない。準備して未明12時半、小屋を出発する。

    南御室小屋のテント場に昇った十七夜の月。空が澄んで星が輝く。


    森に昇った月。しかし、これはピンボケ。

 下界の暑さは嘘のように山の上は涼しい。むしろシャツ1枚では寒いくらいだ。温度計を見れば気温11℃、フリースを着てちょうど良いくらいだが、歩くと暑い。樹林帯の中を1時間半ほど歩き、ぽんと眺望の良い砂払山の上に飛び出す。樹林帯の中から見えるはずの甲府盆地の明かりが見えなかったので、ひょっとしたらと思っていたが、予想通りそこは雲海の上の世界だった。西に傾き出した月に照らされて、花崗岩が白く輝いている。雲海の向こうには富士山が浮かぶ。そして月光の白根三山。なんとも素晴らしい景色だ。時間は午前2時、ここから先は三脚を担ぎながら存分に撮影しながら月光の鳳凰山を満喫する。

    月光の砂払山とカシオペア座  わかりにくいですが、岩峰の真上に昇っているのが斜め横W字のカシオペア座。


    月光の白根三山


    タカネビランジと雲海の富士   2段階フォーカス撮影だが、手前のフォーカスが甘かった。


    雲海に昇る金星と木星  下が金星、上が木星、その上の星団はプレアデス星団(スバル)。左の山は奥秩父山塊。


    月光の薬師岳  月明かりに輝く山頂の岩が美しい。

 砂払山から薬師小屋への下りは昼間でもルートがややわかりにくいが、夜はなおさらわかりにくい。どこを下りるのかと探せば、きちんとペンキマークがついている。そして薬師小屋の前をそっと過ぎて薬師岳に登る。月明かりに照らされた踏み跡がヘッドライト無しでも登れるくらいにくっきりと見えていた。

    薬師岳岩峰と夏の大三角形  月明かりのフレアが邪魔だが、うっすらと天の川も見える。左端の山は北岳。



    月光の薬師岳と雲海の富士  今回狙っていたのはこの構図。


    薬師岳山頂  ここからだと富士山は隠れてしまう。

 午前3時10分、薬師岳山頂に到着する。こんなきれいな月夜なのに誰もおらず、山頂とこの景色を独占する。星好きにとってはたまらない山上での至福のひとときだ。山頂を過ぎたところで薬師岳の双耳峰の間に富士山が見える場所があり、そちらに移動する。この場所は冬に来るとハイマツが雪にうずもれており、雪原の向こうに岩峰に挟まれた富士山が見えるお気に入りの場所なのだ。

    薬師岳に昇る金星と木星  オリオン座も昇って来た。


    観音岳と雲海に浮かぶ八ヶ岳


    月光の薬師岳岩峰群と白根三山

 再び薬師岳山頂に戻ると、ちょうど良い位置にオリオン座が昇って来ていた。朝焼けも始まっており、これから15分ほどが薄明の青い空に星が輝く、お気に入りの時間だ。撮影できる時間は短いので、構図を決めてシャッターを切りまくる。(といっても1枚撮影するのに30秒ほどかかるので、この時間帯は20枚くらいしか撮れない。)やがてオリオン座は朝の光の中に静かに姿を消していった。明るい金星と木星は日の出近くまで燦々と輝いていた。

    薄明の薬師岳に昇るオリオン座と金木星


    薄明の薬師岳岩峰と富士  オリオン座は朝の光の中に消えて行く。

 オリオン座が朝の光に消えた頃、今度は観音岳山頂を目指して歩き始める。夜明けまでに山頂に登り着くのは困難なので、中腹の良さげな場所から朝の富士山と白根三山を狙う。おそらくはタカネビランジもたくさん咲いているはずだ。眠気が襲ってきたが、ここはもうひとがんばりだ。(後編に続く)


    雲海に浮かぶ夜明けの八ヶ岳  夏にしては珍しい雲海と澄んだ空。

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